神と降臨する者達
蛹です。言い訳させてください。
基本毎週日曜日に投降していたのですが学校の課題にかかりっきりで投降できませんでした。
毎日や二、三日で投降している方々をすごいと思ったこの頃です。orz
「【万物創造 《召喚》】!!」
………
……
…
光が徐々に収まるにつれて、魔法陣の中心にあるものが姿を現わす。
それは漆黒の長剣。
刀身、柄、何もかもが黒い剣。
いや、1箇所だけだが違う色があった。
柄についている小ぶりの宝石。
ルビーのようだがその赤い色は血の色を連想させる。
その赤が剣をよりいっそう禍々しい物にみせる。
クロトスは地面に刺さっている剣を無造作に抜く。
軽く振って土を払うと懐かしさに顔をほころばせる。
まるで、久しぶりに家族に会うかのような…。
「久しぶりの召喚はどうだった、グラム?」
クロトスは剣に話しかけた。
一見、愛用のものに話しかける人のようだが何処からともなく声が響く。
『荒っぽすぎるぞ。もう少し、丁寧に呼べ。』
「仕方ないだろう。この世界とあっちは繋がりにくいから召喚が難しいんだ。」
『確かに空間の境目で壁のようなものがあったな。ここは何処だ?』
「オーディンの爺さんから貰った宝玉の中。…入ったら出れなくなった。」
刹那、永遠にも感じる静寂が辺りを包む。
『…無様だな。』
「うるせぇ!」
クロトスが剣を睨む。
『だが…無事でなによりだ。主よ。』
それを聞いたクロトスは顔を緩ませる。
「…会いたかったよ。グラム。」
クロトスが語る相手。
魔剣【グラム】。
神の王を主人と認めた魔の剣。
クロトスの絶対無二の相棒兼親友。
それが今、クロトスが握っている黒い剣。
『主はこの世界で何をやっているのだ?世界征服か?』
「…人を魔王みたいに言うな。支配するのは神界で十分だ。」
神王であるクロトス。
この世界の支配もできなくはないかもしれないがめんどくさい。
『それでは各地の町を修行がてらに破壊して周っているのか?』
「…お前の中では俺はどんな奴なんだ?」
『破壊神。』
「折るぞ!」
某天使に言わせれば『あれだけ破壊しておいて何をいうの!』というかもしれない。
『山を我を使ってハニワの形に変えたり、魔法薬の実験中にイタズラして爆発を起こしてお城に穴を開けたり、魔界の無礼者の領主の領地をクレーターにしたり、この前はウリエル殿とケンカで…。』
「…ゴメンナサイ。」
具体例を言われて謝るしかないクロトスであった。
剣に頭を下げるクロトス。
その姿は傍目にも情けない。
『まぁ、良い。それでは何をしているのだ?』
「それは上で話そう。それについて手伝ってほしいから呼んだんだよ。」
そう言って店に帰るために魔法陣に背を向ける。
「城の方はどんな感じだ?」
『………主よ。』
「どうかしたのか?」
『それについては……。』
剣のために表情はうかがい知れないが声の感じからすると言いにくいことを言おうとしている感じがする。
突如、クロトスの後ろから強い光が放たれる。
後ろを見ると魔法陣が先ほどと同じく光り輝いていた。
クロトスは何もしていない。
本人も何がなんだかわかっていない。
先ほどと同じ強烈な光が辺りを、クロトスを包み込む。
『あの方から聞いてくれ。』
………
……
…
光が収まるとそこには…
「…お久しぶりですね、神王様。」
長い黒髪の女性。
「な、何でお前がいるんだ!?」
クロトスの前の女性の背中には三対六枚の純白の翼。
「そんなことはいいじゃないですか。…それよりもです。」
元々鋭い目つきがキッとさらに鋭くなる。
「―――ッ!」
いつもは透き通るほど白い肌は怒りで赤くなる。
「勝手に城を抜け出した…覚悟は出来ていますね!!」
怒れる天使。
4大天使の一角、熾天使のウリエルの降臨である。
―しばらくお待ちください―
「いつもいつもっ!貴方のせいで私がどれだけ苦労しているか!!」
クドクドとウリエルの説教は永遠とも言える時間続いている。
これはクロトスにとってであり、実際は1時間程度である。
休憩もなしにひたすら聞かされているクロトスは心持ち小さくなって聞いている。
『ウリエル殿。主も反省しているようだし、心配だったのはわかるがもう少し主の事情も…。』
「グラムは黙ってなさい!」
『…了承した。』
太古の魔剣をも退けるウリエルの剣幕。
「…ふぅ、しかし、それもそうですね。とりあえずはこれぐらいにしますか。」
もはや、クロトスの魂は抜け落ちてかけているかのように真っ白になっている。
口からもや(魂?)のようなものが出ているようにも見える。
「神王様!」
「はいっ!」
クロトスは思わずその場で起立する。
そんなクロトスにウリエルはかすかに微笑んだように見えた。
ウリエルはクロトスの胸に顔を埋める。
いきなりのことで対応できないクロトスがあたふたしているとウリエルの肩が震えているのに気づいた。
落ち着きを取り戻したクロトスはウリエルをやさしく抱きしめる。
「ほんっ…本当にぃ…心配した……んですよぅ…。」
「敬語やめろよ。」
やさしく、いつもどおりにたしなめる。
「他のっ…ものに示しが…ヒクッ…付きま…せ…。」
「ここには誰もいないぞ。」
ウリエルがぎゅっとクロトスの服を掴む。
「あんたは…いつもい…つも私を……グスッ…置いてっ…て…。」
「…ごめんな。」
号泣。
王と臣下ではない。
幼馴染の涙。
クロトスも本当は会いたかった。
言葉では恥ずかしい。
だから想いを乗せてウリエルを抱きしめる。
再開を祝して。
クロトスはウリエルが落ち着いてから上の喫茶店に連れて行った。
――――――
「落ち着いたか。」
「グスッ…うん…。」
クロトスはウリエルをカウンターに座らせてウリエルにコーヒーを出す。
グラムもカウンターに乗せている。
ウリエルは鼻を鳴らしながらコーヒーをすする。
「なつかしい…。貴方がいれたコーヒーなんて久しぶりね。……本当においしい。」
ウリエルはその一滴まで大事そうにコーヒーを飲む。
「昔から泣き虫癖は直んないんだな。」
「いっ、いつの話をしているのよ!」
赤くなるがこのやりとり自体を実に嬉しそうに感じている。
グラムは二人の邪魔をしないように喋らない。
そのグラムにウルはカリカリと爪で引っかく。
尻尾を振っている所を見るとグラムが気に入ったようだ。
『我が名はグラム。以後お見知りおきを。汝の名は?』
「ニャア〜♪(カリカリッ)」
『そうか。共に主をしたう者同士、仲良くしようではないか。』
「ニャニャ〜♪(カリカリカリッ)」
『それで…できればそれはやめていただきたいのだが。』
「ニャ〜?」
『いや、引っかかれるぐらいでは傷つきはしないのだがムズムズするのだ。』
「ニャ〜♪」
『おお!わかっていただけたか!?』
「ニャ〜♪(ペシペシッ)」
『…汝は我を侮辱しているのか?』
「ニャ〜♪(ペシペシペシペシッ)」
話が通じているのかいないのか、ウルはグラムにネコパンチを浴びせる。
その様子に気づいたウリエルは先ほどとは違う意味で赤くなる。
「カワイイッーー♪」
ウリエルはウルを抱き上げる。
頬ずりしている姿は何処にでもいる女の子である。
「ねぇ!この子の名前は?」
「ウルだよ。ウリエルの名前から貰ったんだ。」
「えっ!?」
ウリエルはウルをジロジロと眺める。
ウルも先ほどからジッとウリエルを見つめている。
「はじめまして、ウリエルって言います。よろしくね♪」
ウルはウリエルの自己紹介に答えるかのように鳴いた。
ウリエルはユルユルだった顔をさらに緩ませる。
『主。早く説明してくれないか?この世界の事。この世界での主の生活を。』
「私も聞きたい。」
クロトスは話した。
オーディンに貰った宝玉から始まったこの世界での出来事。
喫茶店を経営するのに色々と手伝ってくれた王女とメイド達の事。
その宣伝のために大会に出ている事。
『実に興味深い。』
「その子達に一度会ってみたいわね。」
一通り聞いた2人(1人と1刀?)はそのような感想を漏らす。
「朝には来ると思うぞ。喫茶店の手伝いをしてくれているから。」
「いい子達なのね。」
「…ああ。」
やさしげな微笑をするクロトスに安堵するウリエル。
神界で突然いなくなったクロトスを1番心配したのはウリエルである。
いなくなるのはいつものことなのであるがどうしても心配してしまう。
クロトスがやるはずだった仕事を片付けていた時もときおりため息を漏らす事もあった。
この様子だと心配ないだろうと真実を知るグラムは思った。
『我を呼んだのはその大会のためか?』
「人間相手にお前を使うのは卑怯だろ?お前には喫茶店を手伝ってもらおうと思ってな。」
『…最凶の魔剣と呼ばれた我が人間をもてなせというのか?』
確かにグラムを人間相手に使うことなど爪楊枝を持つ相手にライフルを構える事に等しい。
魔界では『死神の恩寵を受けし魔剣』『神殺しの魔剣』『死を告げる魂食の魔剣』などの異名を持つ魔剣。
その魔剣がウェイトレスをするなど名が穢れるというものだ。
「いいじゃない。これも経験よ。どうせ暇していたんでしょう?」
その魔剣も実際は1日中宝物庫にいることもある。
昔は常に血を浴びていた時期もあった。
その時の持ち主はクロトスではなかったが。
『ウリエル殿。我にもプライドというものが…。』
「頼むよ。グラムしかいないんだ。」
『……主の頼みだ。了承した。』
「ありがとう。」
しぶしぶながらも了承する。
主の命令は絶対…というわけではないがクロトスという個人からの頼みとして了承した魔剣グラム。
主従という関係は2人には無いに等しい。
クロトスという友人の頼みを聞いた。
クロトスとグラムはそういう関係である。
「さて、私も安心したし城に戻るわね。」
そう言ってコーヒーを置くウリエルにクロトスの動きはピタッと止まる。
「…ああ〜、ウリエル。」
実に言いにくそうにウリエルを呼ぶクロトス。
「何?私は手伝えないわよ。城での仕事を放り出すわけにもいかないもの。」
「それなんだけどな…。」
頭をかきながらウリエルから視線を逸らす。
「……帰れないんだ。」
「……………はあっ!?」
思わず反応が遅れるウリエルにクロトスがトドメの一言。
「この宝玉って入る事は出来るんだが出るのは俺でも出来ないんだ。」
しばらく動きが止まっていたウリエルが正気にかえるとクロトスに掴みかかる。
「ど、どうするのよ!?あんたがいない性で城は仕事が山のように溜まってるのよ!それをほとんど不眠不休で私が片付けてたのよ!」
「いや、そういうふうになってると思ったからグラムだけを呼んだんだけどウリエルが勝手にこっちにくるから…。」
ブンブンとクロトスを揺さぶっていたウリエルの顔が下を向く。
クロトスからはウリエルの顔は見えないが肩がフルフルと震えていた。
「ウリエル?」
「どうするのよ〜〜〜!!!!」
夜間の王都に女の絶叫が響きわたった。