ネコVS断罪の巨人
この話で第16話。
20話にはまた番外でもやるつもりですがアイディア無し。
一応はリンとエルを主役に書こうかなと考えています。
…2人を使ってティニアでもいじめようかな?
クロトスは機嫌が良かった。
派手な事、驚かす事などの目立つことが趣味と言っていいほど好きなクロトス。
特にサプライズといった他者を驚かす事をこよなく愛する。
そんなクロトスにとっては今の状況は最高であった。
クロトスは考えた。
大会で自分の店を宣伝するにはどうすればいいのか?
ただ優勝するだけではむさっくるしい男しか来ないだろう。
『大会優勝者が経営する喫茶店』
…とても女、子どもがくるとは思えない。
クロトスが目指すのは酒場ではなく、喫茶店。
穏やかで落ち着きの空間とひと時を提供する憩いの場。
けっして、腕自慢の酔っ払いが高笑いするような場所を望んでいるわけではない。
では、どのようにすれば良いのか?
その答えが…
「ニャァ〜〜♪」
クロトスが鳴くたびに歓声があがる。
クロトスが出した答え。
それが『店のマスコットキャラが大会優勝者の喫茶店』である。
別にクロトスが優勝しなくても良いのだ。
重要なのは『店の宣伝をするために優勝する』のであって『クロトスが優勝』する必要はないのだ。
それからはクロトスは本屋でネコの絵が描かれた本を買い、それを見ながらウルを観察し、この【ウルちゃんマスコット】を【創造】したのだ。
2足歩行の白いネコ。
クリクリの大きな目は赤いというよりもピンクに近い。
白い尻尾はクロトスが動くたびにフリフリとかわいらしく動く。
見た目はモコモコしていて動きずらそうだが実際は側転や宙返りもできる優れもの。
クロトスの力だからこそ実現できる最高の戦闘用人形なのだ!
「気を取り直して行くぞ、野郎共!会場中の女性があいつに黄色い歓声をあげるからといってそんなに嫉妬と殺意をふりまくんじゃねぇ!」
と言いつつも伯爵もクロトスに嫉妬の眼差しを送っている。
それを見ていたレイはタバコの煙を伯爵に吹きかける。
「モテない男のひがみでしょうよ。小さいわねぇ。」
「…レイ、お前の発言で会場中の男の殺気が増大したぞゴラアァッ!!」
会場中で男達が血走った目でクロトスを睨みつける。
カップルでの観客は彼女が舞台上のネコに虜にされて彼氏が嫉妬する。
純粋に試合を見に来た観客(主に男)は大会自体を汚された、悪ふざけが過ぎると非難する。
おもしろがっている観客もいるが大半の男性客を敵にまわしたクロトス。
クロトス自身もそれに気づいている。
「(けど、試合が終わる頃には変わるだろうな。)」
きぐるみの中で黄色い歓声をあげる女性が見たら一気に熱が冷めるような黒い笑いをするクロトスであった。
会場中にいる者はそれに気づかずにいる。
そして、いよいよ始まる。
「あぁー!もう、始めるぞ!第1試合開始!」
伯爵の開始と共に会場中に…
「グゥルアアアアァァァァッーーーーーーーー!!!」
響き渡る雄たけび。
喩えるなら【獣】。
オルガは見た目は化け物みたいだがれっきとした人間である。
オルガは狩猟民族の戦士である。
彼は獲物と戦うときは必ず雄たけびをあげる。
そうすることで熊のような大きな獣でもすくみあがり、身動きが取れなくなる。
獣でそうなるのだから人間もそうなる。
彼は相手を威嚇してから狩るというれっきとした戦法で戦う人間なのである。
この恐怖に打ち勝つ者こそ彼と戦う資格のある戦士なのである。
会場中がすくみ上がる中、クロトスはというと…
「にゃあ♪」
シュタっと右手をあげて、鳴く。
それはどこからみても挨拶。
熊を目の前にするネコが挨拶をしているように見える。
そのあまりにも異様な光景に会場中がずっこける。
オルガは怯まずに一発で人を粉々にできそうな斧を振りかぶる。
それを見たクロトスはただじっとオルガを見据える。
そして、その斧が振り落とされ
………
……
…
なかった。
「どうしやがった、オルガ?」
オルガは斧を片手で振り上げたまま微動だにしない。
伯爵は怪訝そうにオルガを見る。
仮面をしているので表情はわからないがぼさぼさの髪の間から見える耳は真っ赤になっている。
振り上げた斧を持つ手もプルプルと震えていた。
「怒りで震えていやがるのか?あんなふざけた格好の奴が相手だから?」
「違うわ。葛藤してるのよ!彼にはできないのよ!」
レイは力強く拳を握り締めて言う。
「何がだ?」
「あんなにかわいいネコを自分の手で攻撃する気持ちと戦士としての気持ちがぶつかり合っているのよ!さすが、会員ナンバー1桁に属するだけはあるわ!」
実況席の机を叩くほど興奮して語るレイに伯爵は逃げ出したくなってきた。
「とりあえずだな…色々と聞きたいが『会員』ってなんだ?」
レイはグルンっと首をこちらに曲げて伯爵の顔の至近距離で言う。
「王都公認猫愛好会、通称【マタタビ飯の会】の会員ナンバー8番の通称【抱き虎のオルガ】。彼の愛虎は13匹。寝るときはいつも愛虎に囲まれながら寝ているそうよ。」
「猫愛好会じゃないのかよ!?」
伯爵の顔にレイの裏拳が入った。
レイは拳についた伯爵の鼻血をハンカチで拭く。
「虎もネコ科よ。差別はいけないわよ。」
伯爵はなれた手つきで鼻にティッシュを詰める。
このようなことはめずらしくないようだ。
「…もしかするとお前もか?」
嫌な予感がした伯爵はおそるおそるレイに問うとレイの目がキラ〜ンと光り、胸ポケットから金色の会員カードを出す。
「会員ナンバー1番の通称【猫神のレイ】会長とは私のことよ!」
「お前が会長かよ!?」
ズバッと言い放つレイに伯爵は思わずツッコミを入れてしまう。
この2人の掛け合いはこの大会の恒例の催しでもある。
観客はコントとして見ているが本人たちは真面目である。
「しかも、国王公認よ。補助金も出ているわ。会員のネコミミビキニのコスプレ写真と引き換えにね。」
「エロバカ王がぁぁぁっーーー!!!」
所変わって実況席の反対側にあるVIP席。
そこには逃げようとする国王の首根っこを掴み、引きずるエイン王妃。
「…貴方、ちょっっっと裏にきなさい。」
「エイン?あのな、俺は国民がどんなことに興味があるかという調査としてだな……………ギャアァァァァァァァッーーーー!!!!」
周りの兵士や観客が慌てないところを見るとこれも恒例らしい。
さて、この間にクロトスはあることを考えていた。
「(さてと、どうやって勝つかな?)」
化け物じみていても所詮は人間である。
負ける可能性など微塵もない。
「(剣だと…返り血できぐるみが血に染まるかもな。)」
血の滴る剣を持った返り血で赤く染まった白かった(過去形)ネコ。
…あきらかにホラーである。
目立つのは好きだがそういう目立ち方は好きでは無い。
「(魔法だと…後のサプライズのために取っとくかな。)」
1度に色々出すと勝ち進むごとにネタが無くなる。
もはや、ステージでショーをやるかのごとく考えるクロトス。
「(それだと、肉弾戦かな?)」
返り血も少ないので汚れる心配もない。
とりあえず、それでいこうと考えたクロトスはいまだに斧を振り上げたままのオルガを見る。
未だに耳が真っ赤であった。
「(とりあえずは………試すかな…。)」
クロトスはきぐるみの中でゆっくりと目を瞑る。
そして、目を開けると同時に殺気をオルガに叩き込んだ。
「っーーー!!!」
先ほどまでクロトスのネコ姿に見とれていたオルガの体がビクッと震え、すかさず斧を体の前に構えた。
彼は生きるために大きな獣や魔物とも戦ってきた。
自分より大きな獣を狩り、森で会う魔物を退治したりなどで生計を立てていた。
そのオルガの…狩猟民族の本能が告げたのだ。
【アレハ…オソロシク…ツヨイ。】
本能が【アレ】を拒否する。
本能が【アレ】から逃げろと言う。
本能が【アレ】は普通ではないと言う。
本能が…
「オルガ…だっけ?」
体が震える。
自分にだけ聞こえる声でネコの姿をした【アレ】が話す。
【アレ】が何か言っているがオルガには聞こえない。
本能が【アレ】を恐怖する。
本能が【アレ】には勝てないと悟る。
本能が…
「お前は【合格】だ。お前は強い。強いから俺を恐れる。」
自分の中の時が止まった。
【アレ】は何を言っている?
「俺の名は【クロトス】だ。あんたと戦える事を誇りに思う。」
本能が【アレ】を拒否する。
オルガは【クロトス】の方を向く。
本能が【アレ】から逃げろと言う。
オルガは【クロトス】に斧を構える。
本能が【アレ】は普通ではないと言う。
オルガは【クロトス】を戦士と認める。
本能が【アレ】を恐怖する。
オルガは【クロトス】との勝負に心から歓喜する。
本能が【アレ】には勝てないと悟る。
オルガは【クロトス】に叫ぶ。
「我が名はオルガ!我が全身全霊をもってお相手する!」
オルガは斧をステージ場外に投げ捨てた。
あれは人と戦うための武器ではない。
あれは脅かすための物である。
大半の者はオルガの大きさに萎縮し、大きな斧で恐怖する。
しかし、目の前のような本当に強い者には己の拳で粉砕する。
己自身の強さで戦う。
目の前の者は己が拳で交えられる強さを持つ。
斧を捨て、拳を固く握り締めて構えたオルガを見たクロトスはきぐるみの中で楽しそうに微笑み、構える。
実況席や国王の醜態を見ていた観客も2人の様子に気づき、息を飲む。
「…オルガって……喋れたんだな…グハッァ!」
レイは伯爵に顔面に裏拳で黙らしながらも舞台からは目を離さない。
しばしの静寂……
………
……
…
そして、……時が…動く。
オルガはクロトスに拳を振りおとす。
クロトスは向かってくる自分の顔より大きな拳をステップで横に避ける。
クロトスが避けた拳は舞台に叩きつけられ、石板の舞台にヒビが入る。
避けたクロトスにオルガは数多の拳を振り落とすがクロトスに触れることはない。
オルガの攻撃で徐々にボロボロになっていく舞台。
舞台の所々にはオルガの拳によるクレーターができている。
余裕を見せながら拳を避けていたクロトスだが突如、バランスを崩す。
オルガの拳によるクレータに足を引っ掛けたのだ。
チャンスと見たオルガは回転し、勢いに乗った丸太のような足での足払いを放つ。
オルガの筋肉でパンパンの巨大な足では後ろ回し蹴りに等しい。
迫る蹴りを飛んで避けるクロトス。
空中で浮いたままのクロトスに間髪いれずに蹴りでの回転を乗せた裏拳をクロトスに放つ。
会場中の観客が吹っ飛ぶと考えただろう。
オルガもこのまま場外に吹っ飛ばして終わりと思った。
クロトスは迫るオルガの拳を掴み、拳を足蹴に拳の上で跳ね上がった。
オルガのような大男でなければクロトスの体重を支えられなかったであろう。
オルガが振り落とそうとする前にクロトスはオルガの頭上に飛び上がったのだ。
オルガが上を見ると同時にクロトスは空中を【蹴った】。
オルガの拳を掴んでいた時に力で空中に蹴ることができる空気を【創造】していたのだ。
蹴った勢いで加速するクロトスはオルガの顔の目がけて落ちてくる。
急に加速したクロトスにオルガは一瞬だけ動きが止まってしまう。
急降下したクロトスはオルガの目頭を勢いのまま蹴りつける。
「グッ!」
顔面を蹴られたオルガは足が崩れ落ち、片手をついて右手で目頭を押さえる。
着地したクロトスは片手をついている方のオルガの手を掴んだ。
「うおぉぉぉぉらあぁぁァァッッ!!」
クロトスは自分の何倍の大きさのあるオルガを振り回す。
そのまま場外に叩きつけようとしたクロトスだが…
「……あっ!?」
きぐるみを着ているクロトスの手はもちろんネコの手である。
指はほとんどないので掴むというよりは手でオルガの手を挟んで振り回していた。
そして、オルガの戦いによる汗も要因の1つであろう。
そのような状態で通常の何倍もの体重のある大男を簡単に振り回せられるはずもなく…
ヒュウゥーー……ズガァーーーン!
滑って飛んでいったオルガは観客席へと飛んでいった。
なお、オルガの墜落地点にいた観客のほとんどは避難できた。
…【ほとんど】ではあっただが。
あまりのことに会場中は静まり返る。
オルガに下敷きになっている観客のうめき声を除いてだが。
頭から落ちていったオルガはピクリとも動かない。
審判が駆け寄るがオルガに反応は無い。
徐々に会場中の視線がクロトスに…白いネコに集まる。
きぐるみの中で冷や汗をかいているクロトスはとりあえず…
「…にゃあ♪」
鳴いてごまかしたがその泣き声は静寂の会場に沈んでいった。