神と神話と欠けた仮面
ゴメンナサイ。
更新がとてつもなく空いてしまいました。
色々あって落ち込んでましたが良い事があって復活しました。
それに、こんな小説でも予想以上に読んでくれる人が多かったのも励みになりました。
ありがとうございます。
王様と王妃を親として認めた2人(王様に関してはしぶしぶ)。
リンは神様の名前にこだわらずにネコの名前を決めることにはなったのは良いがアイディアはなかなか出ないようだ。
「リンちゃ〜ん、どうなの〜?」
「…むぅ。」
エルは問いかけるがリンは右手こぶしをほっぺに当てて考え込んでいる。
「クロトス、参考になりそうなものは何かないの?」
ティニアが苦笑しながらも俺に助け舟を求める。
今度は頭を抱え込んで考え出したリンのほっぺを指で突っつきたい衝動を抑えながら俺も苦笑する。
「そうだな〜。」
「…むぅ。」
リンはかれこれ30分ほど悩み続けていた。
…そろそろ店の名前もみんなで決めたいのだがな。
ティニアの6杯目のコーヒーの御代わりを淹れながら俺はそう思っていた。
しかし、参考になりそうのものか。
この世界の歴史や文化はあまり詳しくないからなぁ。
…そういえば、あいつはどうしてるかな?
「そうだな。天使って知ってるか?」
「もちろんよ。」
ティニアは馬鹿にするなっという目で俺を睨む。
俺はこの世界の宗教や伝説は知らないから馬鹿にしたわけではないんだが。
「その中でウリエルっていう天使がいるのは?」
「それは知らないわ。」
どうやら天使はこの世界の神話でも出てくるらしいな。
ウリエルの話をしたのは他世界ではなぜか神界と共通する神話や伝説が残っている場合があるからだ。
特に徳の高い神やウリエルのような天使はたびたび出てくる。
今をもっても理由はわからない。
調べようにも過去の事を調べようがない。
これが歴史の話であれば資料や遺跡などが残っているが伝説というのは御伽噺に近い物がある。
ようは証拠や痕跡が無い。
では、誰がどうして神界の存在を知り、その話を残したのか?
それは俺や城の学者でもわからない。
…その話は置いておこう。
それよりもティニアが気になる言葉を言った。
「そもそも、天使に名前があるの?」
「…はあっ!?」
何を言っているんだ?
「天使って神の奴隷みたいなものなんでしょう?」
「はあっ!?どういうことだ?」
天使と神は徳による立場や位は違うが差別や偏見などない。
ましてや、天使が奴隷などのように扱われたなど聞いた事がない。
「…クロにぃは神話を知らないの?」
「こっちではどういう言い伝えなんだ?」
リンはできるだけ詳しく説明してくれた。
この世界には神は2人いたらしい。
1人は空の神、もう1人は地の神。
空の神は言った。
『神は下界に干渉するべきではない。我らは世界を見守るべきだ。』
地の神は言った。
『我らが作った世界だ。どうしようと我らの勝手だ。壊れたなら新しいのを作ればいい。』
空の神は言った。
『彼らも生きている。同じ生命として扱うべきだ。』
地の神は言った。
『違うな。あれは玩具だ。作り物の命と我ら神が同等な訳なかろう。』
互いの意見は決して交わることは無かった。
その結果が世界終末戦争【ラグナロク】。
世界支配を目論む地の神。
世界の存続を訴える空の神。
戦いは騒然を極めた。
空は赤く染まり、地は天変地異が頻発した。
その戦争で戦っていた兵士は全て天使。
神はお互いに戦場には一切出陣せずに天使同士を戦わせていた。
神の命令に逆らえない天使達は同族で数百年殺しあっていた。
その悲しい戦いは第3者の手によって終止符を打たれた。
それが人間。
数百年の間に人間は神や天使の力を学び、別世界の神を召喚することに成功した。
その神は2人の神を封印し、天使達も開放された。
「…これが私達に言い伝えられた神話。」
「常識よ。」
………。
「お兄ちゃん?」
……。
「クロトス?」
…。
「…クロにぃ?」
ズガァーーン!!!
「「「ーーっ!!!」」」
「…恥さらしが!誇り高き神々がそのようなことを天使を行使させたのか!」
「クロトス!どうしたの?落ち着いて!」
「………すまん。取り乱した。」
俺としたことが…カウンターを叩き壊してしまった…。
作り話かもしれないが誇り高き神が天使にして良いことでは無い。
それを考えると我を忘れてしまった。
…この世界では【神王】ではなく【クロトス】として生きると決めたのに。
つい、【神王】としての自分を出してしまった。
リンとエルを…怯えさせてしまったな。
「リンもエルも…ごめんな。」
「…大丈夫。クロにぃこそ大丈夫?」
「手は怪我してない?」
怯えさせたのに2人は俺の心配をしてくれた。
怪我が無い事を見せると3人は安心した。
「ありがとう。怖がらせたな。」
俺がそう言うと3人はなぜか微笑んだ。
「…そんなことない。」
「そうですよ。」
「むしろ…嬉しかったかな。」
「えっ!?」
ティニアの言葉に俺は聞き返した。
怖がらせたのに嬉しい?
「…初めてクロにぃが素顔を出した。」
リンの言葉に俺は固まった。
「今までは私達といてもどこか一線引いてる感じがしてたけど初めて感情を出してくれた。」
俺は神王としての自分を隠すので精一杯だった。
「お兄ちゃんは天使様のために怒ってくれた。やさしいから怒ってくれた。天使様も【シンオウ】様も喜ぶよ♪」
俺は正体を隠そうと3人に自分を偽り続けてきた。
それが3人には一線を引いてるように感じたのだろう。
…この3人にだったら…俺の正体を言っても大丈夫な気がしてきた。
極力言わないようにはするが。
「ありがとぅ…って待った。今なんて言った?」
妙に聞き覚えがある言葉があったような。
「?天使様も【シンオウ】様も喜ぶよって所?」
「…え〜と、【シンオウ】って……なんだ?」
まさか…。
「…さっき言った召喚された神で戦争に終止符を打った神。その神は自分を【シンオウ】と名乗ったそうです。」
え〜と…
【シンオウ】=【しんおう】=【神王】=【俺】
………
……
…
「ふ〜ぅ。(落ち着け。俺は名前は【クロトス】だ!)」
また3人を驚かすわけにもいかない。
とりあえず落ち着こう。
俺にそんな記憶は無い。
ということは過去の神王が行ったかもしれない。
それだとこの世界の神話は事実だということのなる。
「本当に大丈夫なの、クロトス?」
ティニアが俯いてた俺の顔を覗き込む。
……優しいな。
「大丈夫だ。その神はどうなったんだ。」
「…世界をその世界の生命に任せ、元の世界に戻っていったそうです。」
ということは元の世界に戻る方法もあるということだ。
しかし、来たばかりなのでしばらくは戻る気は無い。
元の世界に戻ってもウリエルに書類を押し付けられるだけだしな。
いや、その前に説教か。
そういえば、置手紙にイタズラしかけたんだっけ。
……ほとぼりが醒めるまでここにいよう。
それにこの3人とも一緒にいたい。
「クロトス?」
「そうだ。俺はクロトスだ。」
「知ってるわよ。本当に大丈夫?」
この世界ではクロトスなのだ。
神王ではなく、クロトスとして楽しもう!
「姫さ…じゃなかった。お姉ちゃん(ごにょごにょ)…♪」
「そうなの?」
「リンちゃんもそう思うよね?」
「…うん。」
「それじゃあ、いくわよ。」
「…せ〜の!」
パシーーーーン!!
「痛っ!何するんだ!?」
いきなりティニアに頭を叩かれた。
「本当ね。叩いたら直ったわ。」
「オモチャと一緒にするな!」
「でも、リンとエルが…。」
俺はリンとエルをにらんだ。
この俺の鬼をも震え上がらせる睨みで二人は慌てだす。
「ち、違いますよ!私達は関係ないです!!」
「…全部お姉さまのせい!」
「ちょっと!リン、エル!?」
2人はティニアに罪を擦り付けた。
俺に何かあったと思い、気を紛らわすためにティニアを唆したのであろう。
…おもしろそうなので俺も乗った。
「ほう…。ティニア。覚悟は出来ているだろうな?」
「ちょっと?わ、私じゃないわよ。リンとエルが…。」
「…お姉さま。人のせいにするなんてそれでも一国の王女ですか?」
「リン!何を…!?」
さすがリン。
そのメイド服のように腹黒い。
完全にティニアを悪役に仕立て上げた。
「お兄ちゃ〜ん。お姉ちゃんがねぇ、私達に罪を擦り付けようとするの〜。」
エルは嘘泣きで俺に言い寄る。
……かわいい。
「大丈夫だ。俺が教育するから。」
そう言うと青ざめる顔が1つとほっとする顔が2つ。
「3人共!私は…。」
「ティニア。」
俺はにこやかに…ニコヤカニホホエミカケル。
「…何よ?」
「【体罰】【呪い】【嫌がらせ】のどれがいい?…お前の運命の選択だ。」
雰囲気を出すために最後の一言はできるだけ低い声で脅す。
個人的には嫌がらせの方が得意なんだが。
「どれも嫌よ!」
ティニアは1歩だけ後ずさる。
それに対して俺は気づかないふりをする。
「それじゃあ、罰にはならないだろう。」
俺はオーバーにため息を吐く。
「私はリンとエルがやれって言うから…。」
矛先が自分達に向かないように2人がトドメを刺す。
「お兄ちゃん。お姉ちゃんが全く反省してないよ。」
「…全部いきましょう。」
リン、エルがそう提案した。
黒い羽と尻尾が見えそうな気がしてきた。
2人とも笑っているがどこか黒い。
「そうだな。面倒だし、全部行くか。」
きっと今の俺にも羽と尻尾が見えるだろう。
「い、いや!」
「あっ!逃げた。」
ティニアが席を立ち、店の出口へと走り出した。
俺から逃げられるとでも思うのかな。
…俺も十分腹黒いな。
「【万物創造 《檻》】」
ガシャーーン!!
「…お見事。」
「さすが、お兄ちゃ…。」
ガシャガシャーーン!!!
「「…えっ!?」」
逃げ出そうとしていたティニアの頭上で底抜けの檻を《創造》し、落として捕らえた。
…リンとエルも別々の檻で捕らえた。
「え〜と、お兄ちゃん?」
「叩いたティニアも罪を擦り付けたエル、リン共々教育だ。」
おふざけでも人に罪を擦り付けるのはいけない。
というよりも俺を叩くように言った諸悪の根源はお前らだろうが!
ちょっと痛かったんだぞ!
「…クロにぃ。これあげるから私は出して。」
「なんだ。」
そう言って数枚の写真をポケットから出した。
……リン?本当にこれはナンデスカ?
「…お姉さまの着替え生写真。」
「お兄ちゃん!私はお姉ちゃんの下着渡すから!」
そう言ってエルもポケットからピンク色の……。
ティニアの名誉のために省略しよう。
ともかく、それをポケットから出した。
って2人ともいつも持ち歩いているのか?
「なんであんた達がそんなもの持ってるのよ!?」
ティニアは羞恥で顔を赤くしながら怒鳴った。
リン、エルはティニアの方を向き、声を揃えて言った。
「「万が一のため♪」」
「どんなときに使うつもりよ!」
さすが双子。
見た目は違うが考えることは一緒なんだな。
「それじゃあ、誰がどの罰を受ける?」
「「全部お姉ちゃん(お姉さま)が受けます。」」
「私は悪くないのよ!クロトス、信じて!」
…お前ら、必死だな。
「めんどくさいから全員に全部いこう!」
そう言った途端、全員の顔が青ざめた。
といったものの冗談なので軽い罰を与えるだけのお遊びだ。
「それじゃあ、天罰!」
「「「ーーーーーっっ!!!」」」
…声にならない悲鳴ってこういうものなんだな。
ー10分後ー
「ちょっとスッキリしたかな。」
「私達で発散しないでよ!」
「…クロにぃ、酷い。」
黒焦げでヌルヌルのティニアとリンは半泣きで俺に訴える。
ちょっと、やり過ぎたかな。
エルは声も出ないらしい。
「悪かったな。デザート奢るから許してな。」
「「「やったー♪」」」
そういうと3人が手を取り合って喜んだ。
エルもいつのまにか復活している。
俺は苦笑しながらも昨日のうちに作った店で出すメニューの試作品を運ぶと3人の目の色が変わった。
デザートからツマミに家庭料理、レストランで出す高級料理などの様々な料理をカウンターに並べていく。
「好きなだけ食べていいぞ。全部おごりだ。」
「「「いただきます!」」」
そう言って目の前の料理に手を出した。
3人は1口食べるごとに笑みを浮かべる。
3人が食べているうちに俺は名も無きネコにミルクの用意をした。
お前もいい加減に名前を決めて欲しいよな?
「リン。いい加減にネコの名前を決めてあげよう。」
俺がそう言うとリンの食べる手が止まり、ふっと思い出すように呟いた。
「…【ウル】。」
「お兄ちゃんが言っていた天使様の名前を縮めたの?」
「…それに、天使様の羽ってこの子と同じ白だから。」
そう言われてみればこのネコの純白の毛の色は天使の羽に似ている。
「いいんじゃないの?変な神様の名前よりは。」
ティニアも賛同する。
「お前もそれでいいか?」
ネコは短く、まるで肯定するかのように鳴いた。
カウンター内にいたウルはカウンタ―の出入り口からリンの傍に歩いていった。
「…これからもよろしくね。」
それに答えるかのように鳴いたウルは何処か嬉しそうに笑っているように見えた。