神とネコの名前
今回の小説内の様々な神の名前は海外の神話に登場しています。
「《パシフィス国主催第142回 セヴィオール武闘会。日にちは10日後。ルールは武器は自由で急所攻撃なし。相手を場外か戦闘不能、棄権させた場合に勝利とし、相手を殺した場合は失格。》って所ね。要約すると。」
ティニアは大会の詳しい内容を俺に説明していた。
この大会は初代国王が国の兵士を鍛えるために行った事がそもそもの始まりらしい。
それが今やお祭りとなってるとの事だ。
「…注目は前回優勝者の【双剣のシュダ】、【海竜のイアン】、【断罪のオルガ】、【雷光のミハネ】、【幻視のミナ】。」
「その海竜や断罪っていうのはなんだ?」
「その人たちの2つ名よ。」
「シュダちゃんも強いけど、他のも強いのはいるんだよ。」
国内最強の騎士をちゃん付けで呼ぶエル。
怖い物知らずなのか子どもならではの無邪気な性格のためなのか。
「しかも、今大会から他国の人も招待するから強敵はもっといるわね。」
「いいじゃない。楽しそうで♪」
こういうのを欲求不足っていうんだっけ?
「今だったら賭けは無しにしてあげてもいいわよ。」
「じゃあ、無しで。」
「…って、エーー!駄目よ!!ぜっっったい駄目〜〜〜!!!」
必死なティニアの叫びに俺たちは耳を押さえる。
冗談で提案したが俺に命令できるチャンスを逃すつもりはないらしい。
少し耳鳴りがするが俺はティニアをなだめる。
「冗談だよ。わざわざ勝ち戦を捨てるようなマネなんかするわけないだろ。」
「へ〜。せっかくチャンスをあげたのに後悔しないわね?」
…どの口がそんなことを言った?
「姫様がそのチャンスを拒否しませんでした?」
「お黙り!!!!」
「はいぃぃぃっっっ!!!!」
「…ねえさん、ほっときなさい。」
血なのであろうかこの国の王族の女性は皆怒ると怖い。
エルも半分泣いている。
「それで、クロトスは何を使うの?」
「何が?」
「大会で使う武器よ。素手で戦うわけにもいかないでしょ。」
この前の3人組のレベルなら楽勝だけどな。
大会に出てくるレベルか…。
「んん〜。いや、素手でも大丈夫だけど?」
「馬鹿にしてるの!?相手は剣や槍も持っているのよ!」
「お兄ちゃん。さすがに無理があるよ。」
「…危険。」
3人は反対するが問題ないだろう。
もしもの時は…
「【万物創造 《ナイフ》】。」
俺は右手に刃渡り10センチほどのナイフを《創造》した。
「これでも?」
「「「………。」」」
3人は驚き、口を開けていた。
突然出現したナイフ。
魔法で出したようにも見えるが俺は魔法を使うのに必要らしい杖は持っていない。
「さっきから気になってたけどそれって何なの?」
どうやらティニアは俺の創造する力に興味を持ったらしい。
「不思議なんです〜?」
「…魔法でもないように見える。」
3人が俺が創ったナイフを不思議そうにジロジロと見る。
この世界には無い技術だからな。
「方法は秘密だ。」
俺って何度秘密って言ったかな。
「…それも訳有りなの?」
ティニアは寂しそうな表情で俺を見る。
…ふざけてごまかすか。
「いや、その方が面白いから♪」
俺はニヘラ〜っと頬を緩めた。
ティニアは頭を押さえる。
「あんたって…。なんか頭が痛くなるわ。」
「病気か?」
「あんたが原因よ!!」
そういわれても、本当のことを言うわけにもいかないし…。
「とりあえず、武器はなんとかなるがその前に決めなくちゃならないことがある。」
「なに?」
むしろ、武器を決めるより重要ではないだろうか。
「ネコの名前と店の名前だ。」
店はともかくとしてネコに名前がないのは寂しい。
…名前を呼ばれない寂しさは俺もわかるから。
「まだ決まってなかったの?」
ティニアはとっくに決まっているものだと思ってたらしい。
「ネコはリンの担当なんだが…。」
俺がそう言うとリンはおそるおそる言った。
「…色々と迷ってるんです。」
「ちなみに候補は?」
候補すら俺は聞いてない。
俺たちはリンの言葉を待った。
そして、リンの口から解き放たれるネコの名前は…。
「…【バステト】。他国のネコの神様の名前。」
………はいっ?
「リンちゃん。可愛くないと思うよ♪」
エル?なんでそんなに楽しそうなんだい?
「…【ニュクス】。夜の女神の名前。」
………。
「リン。それは却下よ。」
「…【ゲブ】。大地の神。」
リンのネーミングセンス以前に何ゆえ微妙な神をピックアップしてくるのか。
俺の名前の時も神様の名前をあげていたな。
「なんで神様の名前にこだわるんだ?」
俺の当然の疑問にリンは言いにくそうに言う。
「…不老不死だから。」
「えっ?」
「…お父さんやお母さんのように死んだりしないから。」
「「………。」」
「リンちゃん…。」
俯くリンを心配そうにエルが慰める。
ティニアも気まずそうにリンを見る。
2人は両親を亡くしているらしい。
けど…
「じゃあ、王妃様と王様がリンとエルの両親だな。」
「「えっ?」」
2人は驚いたように俺を見た。
ティニアは理解できていないようだ。
「ティニアは2人の姉代わりなんだろ?だったら、ティニアの両親は2人の両親でもあるだろ?」
「そうよ。あなた達は私の妹なんだから。」
俺の言葉にティニアは賛同した。
少なくともこの3人の間に王女とメイドという立場をこえた絆があるように見える。
「…クロにぃ…。」
「姫様…。」
照れたティニアは鼻の頭を掻きながら提案する。
「それと。いい加減にその姫様ってやめない?プライベートはお姉ちゃんって呼んでほしいな。」
「「……お、お姉ちゃん。///」」
2人が顔を真っ赤にしながら言うとティニアはうれしそうに2人を抱きしめた。
2人もさらに顔を赤らめたが逃げようとはしない。
ティニアの目の端に光るものがあったことは見なかったことにしよう。
「でも、王様がお父さんっていうのはちょっと…。」
「…私も。」
俺も同じ立場だったらいやだな。
「ひどい!あんなろくでもない馬鹿でも私の父親なんだからね!」
「お前が1番酷いと思うぞ。」
「…フフッ。」
リンに笑顔が戻った。
陰口を言ってはいるが本心からいやそうには見えない。
あんな馬鹿でも人を引き付ける何かがあるのかもしれない。