番外 幼馴染の天使との記憶
MTの仮免試験合格!
神は〜!?の話もこれで10話!
アクセス数も中々の数!
色々な記念に番外を書いてみました。
私自信は番外というものは好きではないのですが興味ない方は読みとばしてください。
ウリエルが1話にしか出てないのが不憫だったもので…。
神界【アウェンティヌス城 上級執務室】
神々が住む神界。
その中心に山のようにそびえ立つ純白の城。
神々の頂点に立つ【神王】が住む場所であり、神界を含む宝玉などの世界を管理、保護をする場所【アウェンティヌス城】。
その中の上級執務室は神の中でも徳の高い神、4大天使、そして、神王のみが入ることを許される部屋。
主に、神界と神々を管理を中心とする仕事は全てここで処理される。
今ここにいるのは2人。
1人は三対六枚の翼を持つ4大天使のウリエル。
目つきは鋭いがその美しさは神界1とも言われる。
その長い黒髪は窓から入る日の光を反射させ、輝きを放つ宝石のようである。
彼女は本日の報告書を両手で抱え、部屋の中で1番大きい机の前で佇む。
その机を挟んで座っている者。
空のように蒼い髪。
宝石がはめられた王冠。
薄い緑色の所々に金で装飾された服を纏う者。
ウリエルの幼馴染であり、神々の王。
それが【神王】。
全知全能に相応しい方なのだがイタズラ好きの性格にはウリエルも苦労している。
「お腹減った…。」
「我慢してください。」
お腹の音を鳴らしながら、机に突っ伏す神王。
2時間前に昼食を食べたばかりだというのに。
「魔獄緑の樹海の木苺のジャムを添えたヨーグルトとクラッカーがいいな。」
「わがままはおやめください。」
「じゃあ、敬語やめろよ。」
「他の者に示しが付きません。」
「この部屋には誰もいないぞ。」
この部屋にいるには神王とウリエルだけである。
「…誰が魔獄緑の樹海の木苺を取ってくるんですか?」
何事も無かったかのように聞くウリエル。
神王は揚げ足を取る事もなく、しばし考える。
「………コック?」
「殺す気ですか!?」
「食材を調達するのもコックの仕事だぞ。」
「魔獣の住処に行けるコックなんていません!騎士団でも2級以上の騎士じゃなければ行けませんよ!」
「魔獄緑の樹海の木苺が一番ヨーグルトに合うんだぞ。」
「そんなこと知りませ……ま、まぁ…おいしいのはわかりますが…。」
【魔獄緑の樹海】
昼でも夜のようにくらい樹海。
そこの木々は数百年生きているものがざらにあり、太さが数十メートルの大樹も珍しくない。
そこには様々な生物が住んでおり、巨人すら飲み込む植物、それを餌とする草食動物、それを餌とする昆虫などの常識が通じない樹海。
だが、そこに群生する果物は高級品とされ、城でも中々手に入らない。
よほどの者でない限りは果物を食べる前にそこの生物に食われるからだ。
「ともかく!仕事が溜まってるんですからさっさと終わらせてください!」
「へいへい。」
そう言って姿勢を正し、書類を確認する。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
神王が1枚の書類に目を止める。
「魔獄緑の樹海の生態調査報告書によると森の東側が騒がしいそうだ。」
「変ですね。東は爬虫類の縄張りで比較的静かなはずですけど?」
さっきとはうって変わって真面目な顔となる神王。
ちゃんと公私で態度を分けているのだ。
仕事の時はどの神、天使よりも頭は回る。
…長続きしないのが難点だが。
「現段階で手の空いてる騎士団は?」
「1級、2級の騎士団は全て任務に就いています。」
「ミカエル、ラファエル、ガブリエルは?」
この3人はウリエルと同じ4大天使で上級執務室に入ることの許されている天使である。
「ミカエルは六道の最下層の閻魔様と会合、ラファエルは他世界の視察、ガブリエルは2日酔いです。」
「ガブリエルの給料10%カット。」
「はい。」
この時、神王の目が光ったのを見逃さなかったウリエル。
長い付き合いのため、何を考えてるかわかってしまうのは良いことなのであろうか。
「しかたない。俺が行く。」
そう言って立ち上がり、部屋を出ようとする。
「仕事は?」
ウリエルは部屋を出ようとする神王の背中に言った。
ノブを握ったところで固まった神王は傍目には平然と答えた。
「調査も仕事だ。」
「言い訳ですね。ただ、木苺を取りに行きたいだけでは?」
図星を指されたようで肩がピクッと動いたのをウリエルは見逃さなかった。
ウリエルの方を振り返った神王は子どもが言い訳をするように明後日の方を見ながら言った。
「神王である俺がルールだ。」
「独裁者の台詞ですよ。」
「なってみたいねぇ、独裁者。」
「おやめください。」
とは言うもののウリエルにはわかっている。
幼馴染でもある彼女にはこの人はそんな事は永遠にしないだろうと。
国の政治も周りの神や天使の意見はできるだけ聞くようにしている。
重要な用件に対しての独断など彼はめったにしない。
面白くなりそうな事を除いてだが…。
説得は無理だと考えたウリエルは神王が今日中に処理するはずの書類を指差す。
「今日処理する報告書はガブリエルに回しとけ。今日中に終わらなかったらボーナス30%カットだとも伝えろ。」
「かしこまりました。」
夕方のは起きるはずなので二日酔いの頭で泣きながら机に向かうだろう。
「それじゃあ、行ってくる。」
「お供します。」
ウリエルは手に持った書類をガブリエルの机に置いた。
ちゃっかり、自分の分もガブリエルに処理させるつもりである。
「いやだって言っても付いてくるんだろう?」
「貴方のお守りすることも私の仕事ですから。」
そして、彼女自身の意志。
「それじゃあ、樹海デートに行きますか。」
「お弁当を持っていく?」
「ウリエルの料理はおいしいからな。楽しみだ。」
「貴方の方が料理は得意でしょうよ。」
「ところでさっきから敬語は使わなくてもいいのか?」
「デートは仕事じゃないでしょ?」
「言い訳だな。…じゃあ、デートに出発♪」
本当のデートだったらいいのに…。
本人も自覚しない心の奥深くで思うウリエルであった。
………
……
…
【魔獄緑の樹海】
「静かすぎないか?」
「変ね?」
2人が樹海東側の捜索を始めてから1時間。
天に届くほど大きな大樹の地面から出た根っこを潜りながら進む2人。
爬虫類どころか生物1匹見当たらない。
「地面に何かが這いずり回ったような後ぐらいしかないわね。」
「………。」
地面は大きな何かが這いずり回った後が所々にあり、地面がデコボコしている。
「そういえば、この時期って…。」
右手で頭を掻きながら呟く神王。
「なにかあるの?」
ウリエルの質問のは答えず、周りを見渡す。
「この辺って断崖があったよな?」
「ちょっと待って。………地図によると北の方にあるわね。」
地図を取り出して確認すると確かにある。
「確かそこだと思うんだけど…。とりあえず、行ってみよう。」
独り言をいいながら歩き出す神王を慌てて追うウリエル。
「何があるの?」
そうウリエルが尋ねると神王は薄ら笑いを浮かべて答えた。
「行ってからお楽しみ♪」
「そう言われてもトラブルしか起きた事ないじゃないの…。」
ため息を吐くウリエルと神王がしばらく歩くと断崖が見えた。
白い岩盤で出来ており、所々に人1人が入れる洞窟が空いている。
ここに来る途中でウリエルは気づいたが森にもあった何かが這いずった後はこの断崖の穴に続いていた。
「ここは?」
「巣だよ。さっき思い出したんだけどこいつらって今が繁殖期なんだよね。だから、気性が荒くなって森が騒がしくなったんじゃないの?」
しかし、周りのは生き物の姿は見えない。
「何の巣よ?」
ウリエルが尋ねると神王は辺りは見渡しながらウリエルの方を見ずに答えた。
「爬虫類。」
「…ねぇ?この森にいる爬虫類って?」
いやな予感がしてきたウリエル。
ある程度予想はしているが神王に聞いたのは否定してほしかったからかもしれない。
「【ヨルムンガンド】、【バジリスク】、【ウロボロス】、【ヒュドラ】かな?」
「全部上級の魔獣じゃないの!」
上級の魔獣の強さは1匹で小さな村なら数分で廃墟にできるほどである。
「一度魔獣の卵を見たかったんだよね♪」
神王は目を輝かせながらウリエルに機嫌良く言った。
「そんな事のために魔獣の巣のど真ん中に私を連れてきたの!?」
「デートなんでしょう?」
「こんなデートありません!」
人並みのデートを心の片隅で期待していたウリエルは愕然とする。
それに気づかずに神王はため息を吐きながら諭す。
「ウリエルの声が大きいから皆起きちゃったじゃない。」
「………えっ?」
ウリエルが周りを見渡すと小さいので子どもの大きさ、大きいのになると全長数百メートルの大蛇達に囲まれていた。
「ちょっと多すぎないかしら?」
ちょっとどころか大きいのは4匹程度だが小さいのは見渡す限り埋まっている。
「大量発生だな。」
神王は慌てずに淡々っと答える。
「このままほっとくとやばいんじゃないの?」
こんな異常事態にもウリエルは平然と聞く。
この程度で驚いていては神王の幼馴染や4大天使は務まらない。
ウリエルの言葉にハッと気づき、叫ぶ。
「木苺が全部食べられちゃう!?」
ガクッとウリエルの力が抜けた。
「町や城に被害が出るでしょう!」
お城の騎士から神王様のつっこみ役という不名誉な称号を与えられているウリエルはすかさずつっこみを入れる。
ちなみに、ウリエルはその称号を自分が付けられている事を知らない。
「真面目だね〜。」
「仕事中ですから。」
幼馴染の顔から4大天使の顔になるウリエルを見た神王は不満顔となる。
「デートじゃないの?」
「魔獣駆除の仕事ができました。神王様、お一人でやりますか?」
「やだ。」
「それでは、及ばせながらお手伝いさせていただきます。」
「できれば、敬語はやめてほしいなぁ。」
「仕事中ですので。公私は分けてるんです。」
ウリエルは焔の剣・盾を魔法で呼び出す。
両手から炎が噴き出し、それが2つの形と為す。
それは真っ赤に燃えた刀身の剣・盾の1組で名を【ミスティルテイン】。
天使のウリエルを主人と認めた神の剣。
神王も自分の武器を召喚する。
片手を上空に掲げ、下に振ると真っ黒な剣が突如として握られていた。
剣の名を【グラム】。
長さ2メートルの長剣で剣の柄、刀身全てが黒い魔剣。
神の王を主人と認めた魔の剣。
『主。デートだから連れてけないって言ってなかったか?』
何処からともなく声が神王の周りで響く。
「仕事が入っちゃった。」
神王は右手に持った剣に向かって話しかける。
『我を置いてった天罰だな。』
「神王に罰を与える奴がいてたまるか。」
『では、さっきかけた呪いだな。』
「お前、後で醤油に漬け込んでやる。」
『なぜに醤油なんだ、主?』
「お前って醤油の色をしてるから。」
『今まで斬ってきた相手の血が染み込んだ色だ。』
「牛乳に漬け込めば白くなるのか?」
『全力で拒否する。』
この自分の色が変えられるかもしれないのが魔剣【グラム】。
喋り方は固いがお茶目なところもあると神王談。
「じゃあ、片付けますか♪」
『心得た!』
「4大天使の一角、熾天使のウリエル。参る!」
神王とウリエルは背中合わせになり、大蛇と対峙する。
ウリエルが何度か剣を振り払うとその度に刀身から炎が噴き出し、大蛇達を襲う。
吹き出る永久の業火は大蛇の群れを飲み込み、一瞬にして灰とかす。
ウリエルはある程度片付いたら近くの大蛇に接近して切りつけた。
斬られた大蛇は傷口から炎が吹き出て、内部より焼かれる。
さらに近くの大蛇に1太刀浴びせたらすかさず次の大蛇のもとへと向かう。
噛み付こうとしたり、体当たりする大蛇を避けながらすれ違い様に次々と斬りつける。
ウリエルの戦い方を【風】と喩えている騎士達がいる。
相手の動きに逆らわずに流れる動きは山々を吹きぬく風という印象を受けるからだ。
だが、本当だったら仕事とはいえ、大蛇も駆除したくないのだろう。
その証拠に剣の炎で森を焼かないように手を抜かれており、さらにいつのまにか張っていた結界で森を保護している。
それを見ていた神王もウリエルの優しさを汲む。
「グラム。森に被害を出したくない。1撃で決める!」
『心得た、主!』
ウリエルの方はあらかた片付いたが神王の前は大蛇の群れが獲物を見る鋭い目つきで威嚇していた。
神王はグラムを横に右手に持った剣を大蛇の群れに向ける。
「【万物創造《付加》】」
グラムに氷の力を付加させる《創造》をして、ゆっくりと剣を腰の横に備え、抜刀の構えを取る。
とは言っても鞘がないので右手に持った剣を腰の左に備え、左手を剣の腹に添える簡略式だ。
「陰天陽地神道流剣術 【氷演】。」
剣を振り払うことで神王の力と魔剣の力の波動が放出された。
目に見えない氷原の風のような力の波が扇状に広がっていき、大蛇の群れを包み込む。
その波動を受けた大蛇の群れは一瞬にして凍っていった。
神王の足元から大蛇の群れの間の地面には霜が降り立ち、大蛇の群れは声をあげる事も無く、氷のオブジェと化した。
「【閉幕】。」
神王がオブジェに背を向け、指を鳴らす。
その音の空気の振動に反応するかのようにオブジェにヒビが入る。
一瞬、辺りに静寂が起こる。
すると、一斉にオブジェが粉々に砕け散る。
その光景を戦闘の終えたウリエルが呆れた目で見ていた。
「凍らせるまではいいですが指を鳴らして崩れる仕掛けをする必要はないのでは?」
「そのほうがかっこいいだろう?」
実に満足そうで充実感に満ちた笑顔で答えた。
「理解できません。」
「異世界で読んだ本にこれのお手本となった技が載っていたんだ。」
「それで、かっこよかったから真似したんですか?」
頭痛がする頭の痛みをこらえる。
ウリエルの言葉に神王は力強く反論する。
「違う!アレンジだ!!ってか、駆除終わったんだから口調直せ。」
「…その無駄にかっこつける癖はやめた方がいいんじゃない?」
駆除を終了したと判断したウリエルは敬語をやめた。
4大天使ではなく、幼馴染としてのウリエルに思考を変える。
ウリエルの口調に満足した神王は先ほどより、幾分明るく答えた。
「俺のストレス発散法だ。事務仕事なんかやってると暇でしょうがないからな。」
「それじゃあ、さっさと戻って報告書の処理をお願いね。」
「…木苺が心配だな!ウリエル、グラム、行くぞ!」
そう言って足早に歩いていった。
その後ろ姿に苦笑しながら呟く。
「…逃げたわね。」
『主、情けないぞ。』
主人の対応に文句をいうグラム。
神王はグラムを納める鞘を《創造》し、背中に背負いながら言う。
「そんなこというやつは木苺を食べさせないぞ。」
『我のような剣には口が無いから元々食えん。』
喋れるからといって口があるわけではない。
どちらかというとテレパシーに近いからだ。
「俺の神力で食べられるようにしてやろうか?」
『出来るのか?』
剣に表情はないが声の感じからすると驚いているようだ。
「お前の主であるこの神王様は何でもできるのだよ。」
少しだけ誇りながらグラムを背中の鞘に差し込む。
『…食事というものに前々から興味があった。主よ、頼む。』
「城に戻ったらさっそくやるよ。」
『かたじけない。』
そっけないが神王には嬉しがっていることはわかった。
しかし、フッと疑問に思ったことをグラムに聞いた。
「性別はどうするんだ?」
剣なので性別はない。
両性にすることもできるがやはり、本人(本剣?)の意見が重要である。
『よくわからん。ウリエル殿はどちらがいいと思う?』
性別というものをいまひとつ理解できていないグラムは後ろで話を聞いていて、くすくす笑っていたウリエルに聞いた。
「そうね〜。声は低いし、その口調だと男じゃないの?」
「女でも面白くないか?」
『我はこだわらんから好きに決めてくれ。』
2人と剣は再び、森の中へと入っていった。
その姿は王と部下ではなく、子どものような幼馴染である。
願わくばこの2人に幸多からんことを…