表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリア  作者: 野村 誠
黒霧(ブラックアウト)
25/25

黒霧13

 暗さで宮内さんの姿は良く見えないけど、それでも彼女の集中が伝わってくる。


 しばらくすると部屋の中央に居た宮内さんの体が、薄青く発光し始める。彼女の能力が発動し始めているみたいだ。その光で暗かった部屋の中が再び照らされる。

 宮内さんは男子生徒の横で正座していて、少し離れて先生がその様子を見守っている。他の生徒達はただ息を飲んで佇んでいた。


 静謐(せいひつ)な夜の空気の中、淡い光に包まれる彼女は神秘的ですらあった。

 宮内さんの能力が発動し始めたと判断した先生は、男子生徒の体を揺すり目を覚まさせる。起き上がった生徒の肩を支え、彼が教室を見渡せるようにする。彼はまだ苦しそうだ。


 俺はふと上から光源を感じ、天井を見上げる。そこには最初の念字が出現していた。

 上を見上げる俺の様子に気づいた他の皆も一様に天井を見上げる。


 天井に写し出されていた文字は、

    「黒への拒絶」

 その男子生徒は、その文字を食い入るように見つめている。


 続いて他の念字が次々と出現する。

 俺が最初に見た邪霊部屋の時と同じように、文字は形を変えながら、流動している。大きさも様々だ。


 壁には 「安らぎ」 「白」 の文字。

 床には 「強い心」 「部屋」 「癒」 の文字。

 窓際のカーテンには 「抗い」 「謝罪」 の文字。


 他にも出現していたようだけど、記憶しているのはこれらの文字だ。

 それらの文字を見た時の感覚は邪霊部屋のものとは全く違っていた。

 一気に体の力が抜けていく。


 まるでギリシャ神話に出てくる白亜の宮殿に迷い込んだかのような、そんな光景が眼前に広がる。俺は自分が学園にいることなど完全に忘れ、清浄な空気を吸って体が清められていくような感覚に支配されていく。


 体の疲労感が無くなり、頭の中にあったささいな悩みなど忘却し、体の中にある負の要素が全て取り除かれていくみたいだ。

 俺はしばらくの間白い聖域の中に居た。


 ふと我に返ると目の前が真っ暗だった。

 俺は少しの間、自分が置かれていた状況を把握出来ずに居た。

 暗闇の中で足音が聞こえ、続いてスイッチを入れる音がした。部屋の中が明るくなる。保健の先生が部屋の電気を点けたようだ。


 急な明るさに順応出来ず少し眼がくらんだけど、俺はここで現実に引き戻された。

 部屋の中を見回すと、宮内さんはさっきと変わらず目を閉じたまま男子生徒の横で正座をしている。背筋を伸ばした綺麗な姿勢。

 同年代とは思えない凛とした空気。俺は思わずみとれてしまった。

 能力が解除されているという事はもう覚醒しているんだろうけど、なんとなく声が掛けづらい。  


 宮内さんの前に居る男子生徒は再び横になっており、もううなされてはいなかった。表情は穏やかで、どうやら黒霧の呪縛からは解き放たれたようだ。先生は少し感心しているような顔をして彼の具合を診ている。


 他の生徒達はとろけた表情で、まださっきの感覚の余韻に浸っているようだ。

 宮内さんの方を見ると、彼女は目を開いていた。

 一度大きく深呼吸してからゆっくりと膝を崩す。宮内さんの隣にいた先生は、彼女に声を掛ける。

「素晴らしいな。これが奇跡の巫女の名の由来というわけか」


 彼女は僅かにうなずいてから、問いを返す。

「……彼の様子はどうですか?」


「すっかり熱が引いたよ。顔色も良いし、脈も正常。まさに奇跡だ。医に携わる者の一人として、これは感嘆せざるを得ない」


 それを聞いた彼女は優しく微笑む。


 これでこの学園における黒の脅威は完全に消え去った。しかし俺は一つ気にかかっていることがあった。

「宮内さん」


 彼女は俺の方に顔を向ける。

「この能力って、君自身にも効果はあるの? 使うことで君自身は精神的に消耗するんじゃ…………?」


「…………うん、私自身には効果は無いし、かなり精神を消耗するから数日に一度しか使えないんだ。でも気にしないで。今回の浄霊部屋は君へのお詫びでもあるから」


「え、お詫び…………?」

「転校初日に邪霊部屋の中に入れてしまった、君へのお詫び」


 そう言って彼女は申し訳なさそうに、苦笑いする。それから少しうつむいて他の生徒に聞こえないような小声で、独白するように呟く。

「邪霊部屋は負の精神の発現。昔はこの能力のせいで……色んな人に迷惑をかけてきた。邪霊部屋の方が発現しないよう、ずっと真っ直ぐ生きてきたつもりだったんだけどなぁ………………数年ぶりに、また………………」


 彼女の瞳は自分への情けなさ、迷惑をかけてしまった人への申し訳なさで深く沈んでいた。 宮内さんの少し強すぎる正義感は、きっとその辺の事情が関係しているのかも知れないな。


 その後は特に問題が起こること無く、俺と宮内さんを含む11人は仮の保健室の中で一夜を明かす

 浄霊部屋の効果なのか、今までに無い程深く眠ることが出来た。

 

 翌日、早朝。俺は寮の自室に戻ってきた。

 部屋には凶也は居なかった。居たら顔に落書きでもしてやろうかと思ってたのに。

 いつも通り洗面所で顔を洗い、クローゼットから服を取り出して身支度をして登校の準備をする。


 今朝は少し早く起きたので、時間が余ってベッドの上で少しぼおっとしたまま、昨日の出来事を思い返す。

 その中でもっともイメージに残っていたのは暗闇の中、薄青く光る宮内さんの姿。幻想的なその姿が今でも、目に焼きついている。そういえば、以前見た彼女の魂の色も青色だった。もしかして彼女の体から発していたあの光は、魂が発していたものだったのかも知れない。


 色んな人の魂の色をみたが、彼女の青い色の魂が一番好きだ。サファイアのような彼女の青は、悠久の時を経た海の青を思わせる。

 俺は最近、何度か学園の外で魂の分離を試して他の人の魂の観察をしている。いざという時に使えないと困ることになるかも知れないから、練習も兼ねて。

 魂の分離を繰り返していると、もしかしたらそのまま戻らなくなるんじゃないか、と恐怖したこともある。しかし俺の周りで起きる異変は、自分で解決すると決めた。


 今回は他の多くの人の助けを借りたけど、今度は俺自身が助ける側になりたい。その為に使えるものはなんでも使うつもりだ。


 この学園の異質な空気に触れた時以来俺の魂は分離しやすくなり、今ではある程度自分の意思でそれが可能だ。魂側に意識を移すことに成功すれば、精神の世界へと入ることが出来る。俺は秘かに自分のこの異能を「精神世界(ソウル・フィールド)」と呼んでいる。


 精神世界の中では、俺は他者の魂がまるでガラス玉のように見える。ガラス玉には人それぞれ色がついており、赤、青、緑、黄色、等、様々だ。町の外では時折、透明な色の魂を持つ人もいる。ごく僅かだけど。魂の色には何か法則性のようなものが有るような気もする。

 ぼんやり思考を巡らせつつ、ふと時計を見るとまた遅刻ぎりぎりになっていた。俺は慌てて部屋を出る。


 1年4組の教室で霧島と顔を合わせ、昨日の黒霧について雑談した。

 黒霧に触れた男子生徒は順調に回復しており、精神的な障害も無いそうだ。そして昨日俺と宮内さんが校庭で子供達を救けた姿は多くの学生が見ていたようで、ちょっとした有名人になっているらしい。


 霧島はもう一つ気になることを言っていた。この学園の生徒会長も昨日の俺たちの姿を見ていたようで、俺に興味を持ったらしい。だから十分に気をつけておした方が良い、と。いまいち意味が分からなかったが、その時俺はその言葉を大して気にもしていなかった。

 この生徒会長こそが俺の学園生活において、この上なく大きな影響力が持つことになるが、それはまたもう少し後のお話。


                            「黒霧ブラックアウト」 完。


ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。


この作品を読んで下さった方々から多くの意見を頂き、この作品に多くの問題点があることが浮き彫りになってきました。

悩んだ結果、この作品を1から書き直そうという結論に至りました。

身勝手な決断をしてしまい、申し訳ありません。この話を投稿するタイミングと同時期に「ようこそ、異寄学園生徒会へ!!」というタイトルで再連載を始めています。

この話の続きもそちらの方へ投稿していこうと思っています。

もし、読んでくださる方がいらっしゃれば、御手数ですがそちらの方を見て頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ