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ミステリア  作者: 野村 誠
黒霧(ブラックアウト)
16/25

黒霧4

 


 この異寄町に来て、3日目。


 ここでの生活にどうにか慣れてきた俺は、家族に電話をすることを決心した。俺も必死だったとは言え、結果的に家族の期待を裏切る形になってしまった。

 しかし両親と大喧嘩して出てきたから、両親には電話し辛い。俺はまず、姉さんに電話をすることにした。


 俺の家族は俺と姉さんと両親の4人家族。姉さんはぶっきらぼうな性格だけど、俺が本当に困ったときなんかは真っ先に助けてくれた。

 俺は携帯のアドレス帳から姉さんの番号を選び、コールする。


 携帯を持つ手が緊張して、思うように動かない。俺は深呼吸して姉さんの応答を待つ。


「…………………………」


「……もしもしィ。誠?」


 電話口の向こうから、パリパリお菓子を食べている音がする。


「うん…………久しぶり」


 上手く言葉が出てこない。なんて言って謝れば良いんだ?


「……あんた、ちゃんとご飯食べてる? 学校の寮に入る手続き出来た?」


「うん、まあ、何とかやってる」


 俺の元気の無い声を聞いたからか、姉さんのお菓子を食べる音が止まる。多分、寝転んでくつろいでいたところみたいだ。起き上がって座りなおすような衣擦(きぬず)れの音が聞こえた。


「そっちの生活はどう? 少しは慣れた? そこ、なんか変な町なんだって?」


「……確かに変な町だけど、むしろその方が俺には合ってるみたい」


「そっか、とりあえず帰ってくる気は無いのか…………」


 姉さんは少し残念そうに呟く。そして姉さんは予想外の事を言った。


「あんたが、ずっと何かを抱えて苦しんでたのは知ってる。それを誰にも言えずにいることも」


「えっ? 姉さん、何でその事…………」


「あたしが気付いてないとでも思った? 姉ちゃん、ナメんなって。ずっと一緒に生活してんだから弟の様子がおかしいことくらい気づくに決まってんでしょ…………それで? その町であんたが探していた答えは見つかったの?」


 俺は、俺の苦しみを理解してくれる人なんていないと思い込んでいた。

 こんな近くに俺の事をここまで気にかけてくれていた人がいたなんて………… 


 俺は(せき)が切れたように15年間誰にも話せずに抱え込んでいた俺の悩み・苦しみ・葛藤・そしてこの町での出来事全てを姉さんに打ち明けた。


 姉さんは何も言わず、時折あいづちを打ちながら俺の話をずっと聞いてくれていた。

 全てを話し終えた頃には俺の目からは一筋の涙が頬を伝って流れ、それと同時に胸のつかえがとれたような気がした。


「ふ~ん。ちょっと信じがたいような話だけど、あんたが言うならホントなんだろうね。とりあえずあんたの思いはちゃんと伝わったから、姉ちゃんはあんたの選択を尊重するよ…………今、お金に困ってるでしょ? 多くは無いけどあんたの口座にお金振り込んだげるから、大切に使いなよ。ま、父さんと母さんにはあたしから上手く言っとくからさ、心の整理がついたら自分から謝りな」


「…………うん…………ありがとう、姉さん」


 今後、これ程感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言うことは無いだろうと思うほどに俺の思いが凝縮された「ありがとう」だった。


 これが5日前の出来事。思い出すだけで目頭が熱くなる。


 俺は指で涙をぬぐう。

 学食にいるのも忘れて、回想の中の世界に入ってたみたいだ。せっかくの昼食が冷めない内に食べるとするか。


 そう思った時、ふと前方から視線を感じた。

 顔を上げると、何時の間にか同じクラスの霧島 司が俺の向かいの席に座って、俺の様子を怪訝(けげん)面持(おもも)ちで見ていた。


「うおぅっ!?」


「何やねん!?」


 俺の叫びに向こうもつられる。

 自分の世界に入ってしまい、周りが全く見えてなかった。


 学食の席に独りで座り、豚肉の生姜焼を見つめながら涙ぐむ俺の姿は、周りにどう映っていただろう。


「どないしたんや、杉原クン。ホームシックにでもなっとんたんか?」


「う…………まあ、当たらずも遠からず……とりあえず今見たものは記憶から抹消(デリート)してくれ」


 霧島は、相変わらず鋭いな。

 聞くところによると、この霧島は全国模試で全国100位内に入るほどの頭脳の持ち主らしい。

 特にIT世界における彼の足跡は、専門家をして伝説と言わしめる程だそうだ。

 もっとも、それはハッキングという褒められた足跡では無かったわけだけど。


 彼は俺がこの学園に転校してきてから、なぜかやたらと話しかけてくる。俺も同年代の友達がずっと欲しかったわけだし、正直言って嬉しかった。


 今まで俺の持つ異質な魂のせいで、一般人とは壁のようなものを感じてきた。

 しかし彼からも多少はそういったものを感じるものの、いままで感じてきた程じゃ無い。転校初日、彼は「このクラスでは一番人間寄り」だと言ってはいたが、やはり彼も十分この町の住人だという事だろう。


 今まで俺の同級生達はまるで腫れ物を触るかのような、不快な気遣いをしながら俺に話しかけてきた。

 それに比べて霧島の歯に衣着せぬ物言いは俺にとって心地良い。

 俺が転校してきてから1週間、今では胸を張って彼と友達だと言える程の仲になっていた。


「と言うか、杉原クン。学食行くならワイも誘ってくれぇや。冷たいやんか」


「いや、お前パソコンいじってる時は何言っても反応しないだろ」


「そういう時は、脳天チョップしてから話しかけてくれればええから」


「俺が話しかける度、脳天チョップしてたらお前頭凹むだろ」


 俺は自分で言って可笑(おか)しくなり、吹き出した。霧島(きりしま)も一緒に笑っている。


 彼は普段から自分の才能を鼻にかけたり、変な矜持(プライド)を持ったりすること無く、いつも自然体だ。

 見た目も金髪にピアスという、一見不良とも見られそうな風貌だ。能ある鷹は爪を隠すってやつか。


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