表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミステリア  作者: 野村 誠
黒霧(ブラックアウト)
14/25

黒霧2

 


 俺は言われた通りカウンターの奥にある部屋へと入る。


 中を覗くと、4畳程の空間にちゃぶ台が置いてあった。なんだか昭和のかほりがする。座布団の上で大人しく待っていると、彼女が2階から下りてきた。


 右手に湯呑。左手にあられの袋。

 普通こういう場合、お盆とかに乗せてくるもんだと思うけど、彼女は直で手に持っている。


 彼女は部屋に入ると、左手に持ってたあられを適当に机にばらまいた。

 一応、歓迎してるつもりらしい。


 せっかくの厚意を無下には出来ないので、1つ手に取って口に運ぶ。

 あ、意外に美味い。目の前に置かれたお茶も一口飲む。


「さてと、一息ついたところでそろそろ本題に入ろうか?」


「…………本題?」


 俺は真顔で聞き返すと、彼女はギラリと鋭い眼光で俺を見る。


「アタシに何か聞きたい事が有るのだと思っていたけど、違うの?」


「あ、はい…………そうです。すみません。ごめんなさい…………」


 俺はまず、この町へ来てから俺の回りで起こった出来事を説明する。

 初日の犬神さんの事件をはじめ、語り尽くせない程に色んな事があった。お姉さんが言っていたように俺の異質さは、他の異質を引き寄せるみたいだ。特にこの町へ来てからはその傾向が強くなってる。

 

 それが俺だけに影響するならまだしも、その異変が起きたことで誰かに迷惑を掛けてしまうのだけはやはり辛い。

 信じられないような出来事の数々に、途中からお姉さんもどん引きし始めていたので、程々にして話を切り上げた。


 心なしかお姉さんと俺の距離が遠ざかっている気がする。空間距離的な意味で。


「キミ……今まで良く無事だったわね……」


 お姉さんは俺の前に置いた湯呑を取って、一口飲んだ。


 …………それ、俺の…………


「つまりキミは自分の運命の異質さによって引き起こされた現象が、誰かを傷つけてしまうかも知れないことが怖い…………だからなんとかする方法は無いか聞きに来たというわけね?」


 俺は(だま)って頷く。彼女は少し穏やかな口調で俺に話しかける。


「なるほどね、キミはそういう子か」


「…………え?」


 彼女の言葉の意味が分からず、思わず聞き返す。


「普通なら自分の事で手一杯になりそうなもんだけどね」


 そうなのか? 良く分からない。


「でも残念ながら、キミの異質さは魂の異質さに因るもの。自分の運命から逃れる事なんて出来ゃしないわ」


 …………やっぱりそうだよな。


 予想通りの答えに俺はガッカリする。


「…………ま、そう悲観せず、ちょっと考え方を変えてみたらどう?」


 急に話の流れが変わったので、俺はうつむいていた顔を上げる。


「例えば、ここに1つ災厄の種が有るとする。この町の異質な環境の中、その災厄の種はいつ芽を出してもおかしくない。キミが傍にいれば、それをきっかけにその種は何らかの異変を起こすかも知れない。でももしキミがいなかったとしても、何時かはその種は芽吹いていたんじゃない? それが早いか遅いかの違いだけで、ね。もしキミがその災厄の種に触れなければ、いつかどこかで他の誰かにその災厄は降りかかったはず。逆に言えばキミがその災厄を引き受けることで、他の誰かが救われることになるとも言える。キミが引き起こした異変は、自ら身を呈して周りに被害が及ばないようにすれば良い。キミにその覚悟があればの話だけど…………」


 …………逆転の発想というやつか。


 そんな事、考えもしなかった。


 災厄を引き受け続ける俺の身がいつまで持つかは分からないけど。


 それでも俺は彼女の話を聞いて、胸の奥に重くのしかかっていたものが、少し軽くなったのを感じた。

 たった1つの言葉が誰かを救うこともある、と聞いた事がある。俺は彼女の言葉を胸に抱いて、これからこの町でやっていけそうな気がした。


 俺の安心した表情を見た彼女は、呟く様に語り始める。


「…………アタシにはなんとなくボウヤの異質な魂の正体が分かった気がする…………キミの魂はいわば突然変異体。突然変異ってのは、個体として見れば負の要素でしか無いけど、種族として見れば、それが進化のきっかけになることもある。キミの異質な魂は人間という種を次なる段階へと進化させようとする試みなのかも知んないわね」


 ………なんか話のスケールが急に飛躍してませんか?


 語り終えたお姉さんはふと壁の時計に目をやる。


「…………ところで、キミ、学校は行かなくて良いの? そろそろ始業ベルが鳴るんじゃない?」


 時計を見ると、8時15分になっていた。


「あっと、本当だ。すみません、今日はこれで失礼します………………アドバイス、本当に有難うございました、このご恩は絶対忘れません」


大袈裟(おおげさ)だっての。 ま、困ったことがあったらまた来なよ。相談に乗ったげるから………」


 俺はお姉さんにもう一度お礼をしてから店を出る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ