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ミステリア  作者: 野村 誠
序章(プロローグ)
1/25

序章1

この作品は「ようこそ、異寄学園生徒会へ!!」の原案です。

敢えて原案の方を読みたいという方以外は、「ようこそ、異寄学園生徒会へ!!」の方を読んで頂くことをお勧めします。

 


 


 また、あの目だ。


 まるで異物を見るみたいな。


 なんで皆そんな目で俺を見るんだ?


 俺が一体何したってんだよ?



 15年間いろんな町に越して来たけど、いつも違和感がつきまとってた。

 周りの人達に対して、言いようの無い壁みたいなものを感じる。話が合わないとか趣味が違うとかそんな次元の話じゃない。

 もっと根っこの部分で、絶望的に何かが相容(あいい)れない。


 なぜか知らないけど、皆俺を避ける。

 例えば、クラスの席替えで俺が教室の中央の席になると、周辺の席が日を追うごとに俺から遠ざかり、教室外側の人口密度が高くなる。俺はこの現象を教室内ドーナツ化現象と呼んでる。


 俺が廊下を歩いてると皆が端っこに寄って、そそくさと足早にすれ違う。俺を見た途端に逆走する生徒まで居る。いつだったか、逃げた生徒を追い掛けて問い詰めた事がある。


 「なんで、俺を避けるんだ?」


 そいつは震えながら、「分からない」とだけ答えた。 


 俺の方に何か問題があると思うんだけど、その理由に心当たりが無い。


 見た目に問題が有るのか? もしかして俺の見た目、凄く怖いとか? そう思って毎日の様に鏡で全身を見たけど、他の人とそんなに違っては無いと思う。

 黒髪の短髪。顔も少し細い感じ。目立つ容貌じゃ無いし、むしろ地味系だ。


 じゃあ内面に問題が有るのか?

 俺が連続殺人犯(シリアルキラー)のように、日常から新しい殺人方法を考えながらウヘヘと薄ら笑っていたりしたら、そりゃ避けられるだろうけど。

 でも、俺の脳内にあるのは、昼飯に何を食べようかとか、好きな漫画の発売日とか、そんな程度だしな。


 他に考えられるとしたら、俺に関して変な噂がたっているとか? しかしそれだと引越先でも同じ状況になる説明がつかないし。


 まるで自分だけが異世界からきたような違和感。

 どこに居ても、何をしてても現実感が無い。

 マジで生きた心地がしない。


 一体俺の何が異質なんだ?

 上手く説明出来ないけど、あえて言うなら魂が異質なんだ。

 何か変な星の元に生まれたんだとしか言いようが無い。

 結局、出た結論(こたえ)はいつも通り。俺は、がっくりと項垂(うなだ)れる。

 

 はぁ…………いくら考えてもしょうがないか。


 自分探しの迷宮(ラビリンス)から脱出し、ふと窓の外を見ると景色が流れてる。

 そういや、今電車に乗ってるんだったっけ。


 窓を少し開けると、気持ち良い春風が吹いて、若葉のにおいを運んでくる。俺の悩みも風に乗せて持ってって欲しい。


 今年から高校生か………………


 気持ちを切り替え、窓から入る外の空気をゆっくり吸った。

 外の風景が、山林から開けた場所へと変わる。

 町が近づくにつれて、胸が高鳴るのを感じていた。こんな感覚は生まれて初めてだ。


 俺は確信した。


 やっぱり、この町がずっとずっと探し求めた俺の居場所だったんだ。


 車内アナウンスが流れて、終着駅が近いことを報せる。周りを見渡すと、車内に乗客は俺一人。この町に外から来る人間は滅多にいないんだろう。


 窓の外は見渡す限りの田園風景。

 テレビでよく見る絵に描いたような田舎町だ。田んぼの畦道(あぜみち)の脇には農業用の水路があり、水の流れが光を反射している。道路は舗装(ほそう)されてなくて、道端の草むらも長い間手入れされないまま、伸び放題になっている。子供の頃良く遊びに行った爺ちゃん家の風景に少し似てるなぁ。


 しばらくぼ~っと景色を眺めてると、甲高い電車のブレーキ音が響き、慣性の法則に従って身体が斜めに傾く。  

 どうやら駅に着いたみたいだ。


 電車は停止し、電車の扉がギィーっと開く。俺にとってその音はまるで、新世界への扉が開く音のようにも聞こえた。


 俺は座席から腰を上げ、降車口がある一番後ろの車両へと移動する。


 車体と駅のホームの隙間をまたいで外に出ると、強い陽射しが目に入った。春だってのに少し暑いな。


 電車から降りて地に足を着けた瞬間、ここがまるで慣れ親しんだ自分の故郷みたいに感じた。

 ここに来ること自体初めてなのに、なんでだろう?


 空を見上げていた視線を下へと落とすと駅名の看板が目に入る。



 「異寄(ことより)(ちょう)



 それが俺がこれから暮らす町の名前。


 この町のことはネット上の噂で知った。数々のミステリースポットが点在し、日常的に超常現象が起こる場所だそうだ。


 この町では一切の常識が通用せず、この町を訪れたミステリー愛好家(マニア)さん達も3日と持たず退散していくらしい。

 この町の住民達もまた、他の町では生きられない異質な人間達の集まりなんだそうだ。


 どこまでが本当なのか知らないけど、初めてこの町の映像を見た時、俺は運命的な何かを感じた。


 それは動画共有サイトに投稿された動画で、この町のミステリーを自ら体験し動画に収めようという挑戦者(チャレンジャー)のものだったんだけど、15分間にわたるその映像を見ていた時、俺はまるで生まれ育った懐かしい故郷を見ているような不思議な感覚に支配されていた。


 この町に自分を知る何かがある。


 それは確信に近いものだったと思う。


 ちなみにアップロード者がこの動画の続きを上げることは無かった。その後、彼がどうなったのかは知る(よし)も無い。

 動画の最後の方で、何か叫んだ所で映像が途切れてたけど。


 その動画を見た時期は高校受験の準備をしている真っ最中。俺は親教師から薦められた志望校をすべて蹴って、この町の高校一本に絞った。

 当然周りの人間、全員連合を組んで猛反対した。俺の成績なら大抵の高校には問題無く合格するだろうけど、そんなことはどうでもいい。


 俺にとってはこの選択が大袈裟(おおげさ)でなく、人生の分岐点だったんだ。


 このまま空気のように孤独に生き続けるか、自分の存在を実感できる場所で生きるか。そんなもの選択の余地は無いだろ。


 自分が異質であることは周りには話してないし、これからも話す気はない。これは実感した人間にしか分からないし、説明のしようも無い。


 俺は(なか)ば家出のような形でこの町へ来た。

 家族には悪いことをしたと思うけど、俺も必死だったんだ。理解してもらえる日が来るのかは分からないけど、この町で少し落ち着いたら電話で謝ろうと思う。


 今日からは学園の寮で暮らすことになる。入学試験と入寮手続きは裏でこっそり進めておいた。

 その学園には特待制度があって、学力特待試験を受けてなんとか合格を勝ち取ることが出来た。学費は全額免除、寮費は半額になるから、節約すればバイトでなんとかやっていけるはず。

 両親から学園に連絡がいってなければ、おそらく入学拒否される事は無いと思うけど。


 無人の改札口を抜けた所で俺はリュックを開き、地図を取り出す。この町へ来る前に書店でこの町の地図を購入しようとしたけど、何故かこの町の詳しい地図がどこにも見つからなかった。

 仕方なくネットカフェに入って検索して、ようやく見つけた異寄ネットというサイトから地図をプリントアウトした。


 その地図を片手に少し薄暗い駅の待合を通る。

 ひび割れた木製の壁や、所々消えかかっている駅の時刻表を見ていると、なんだか時の経過を感じる。

 待合には誰も居なくて、駅員室も無い。

 ようやく町へと辿り着いた余韻(よいん)に浸りながら、ゆっくりと駅を出た。


 そして俺はとうとう異寄町へと一歩踏み入る。


 そこであることに気づき思わず立ち止まる。




 (………………空気が違う)




 この町に辿り着いて最初に感じた俺の印象がそれだった。

 なんて表現したら良いのか分からないけど、目が覚めるような気分だ。

 まるで今までの15年間が長い夢で、ようやく現実に戻って来れたような思いさえする。

 俺の異質さを受け入れてくれる、こんな空気は初めてだった。


 俺はしばらく立ち尽くし、そのあと深呼吸をして、じっくり周囲を見回す。


 駅に近いせいか周りは色んな店が(のき)を並べてる。しかし見たとこ普通の町並みだ。空気が異質だという以外におかしな所は見当たらない。この町の噂を聞いたときは、モヒカン男がバイクを乗り回して、ヒャッハーしてるような世紀末なイメージを浮かべたんだけど。


 ネット上の噂って尾ひれがつきやすいしな。この町の噂も噂でしか無かったみたいだ。俺は半分安心したような、残念なような妙な気分になった。

 

 駅から学校へ向かう道は緩やかな坂道になっていた。

 そういえば家からは逃げるように出てきたからほとんど着の身着の(まま)、自分の持ち物がほとんど無いし、丸1日何も食べてない。それにこの暑さで、喉も乾いてきた。


 (あ~、腹減ったなぁ。せめて家出る前に何か食べてくりゃ良かった…………)


  ん?


 何か買っていこうかと思って歩いてると、何となくどこからか視線を感じた気がした。振り返ってみても、辺りには人の気配は無いみたいだ。

 新しい町に来て気が張ってんのかな?

 俺はさほど気に留めず、飲み物を売っていそうな店を探し、ふらふらと路地裏の方へと入っていく。


 本屋、電気屋、古着屋、色んな店が並んでるけど、人通りは少なくて閑散としてる。平日の朝だという事を考えれば、別におかしくも無いか。

 けど今まで俺が訪れてきた町とは決定的に違う点があった。


 道ですれ違う人達が誰一人俺を避けようとしない。


 それは俺にとってあまりに異様な光景だった。普通の町の住人だったら、俺が近くを通るだけで、2割の人はあからさまに俺を避け、5割の人はさりげなく俺を避け、3割の人は外見上特に反応を見せない。

 けど、ここでは驚きの表情で振り返ったり、急に方向転換したりする人は誰も居ない。

 人から見向きもされない事がこんなに嬉しいなんて、なんかおかしな話だけど。

 あの人達も俺と同類ということなのか?


 この町の異質さに、ようやく実感が湧いて来た。

 もしかして、ここでなら俺の居場所が見つかるかも知れない。

 まるで自分をこの町に馴染ませるかのように、ゆっくりと歩く。


 周りは木造の建物が多く並んでいて、何か一昔前の時代に迷い込んだような錯覚を感じた。

 俺は周りの景色を眺めながら気の向くままに足を運ぶ。

 どこをどう進んだのか良く覚えていないけど、入り組んだ路を抜けるとその奥に隠れ潜むように雑貨屋らしき店があった。

 その店には看板も無くて、中を覗くと少し薄暗い。まるで無人露店みたいだ。


 なんだか少し不気味なので他の店を探そうかとも思ったけど、喉も乾いていたのでここで買うことにした。


「……すみませ~ん」


 店の入り口に立って声を掛けると、しばらくして2階へ続く階段から足音が聞こえた。


 異質と呼ばれているこの町の住人と初めて話すので内心かなりビクってる。


 見上げると、なんか目つきの悪いお姉さんが降りてきた。


 寝起きなのか、髪の毛がボサボサで、目の下にくまがある。ラフなスウェットを来て、煙草をくわえている。

 昔、女総長とかやってそうな雰囲気だ、なんとなく。


「なぁに? なんか用?」


 面倒くさそうに尋ねてきた。


「あ、いや。何か食べ物を買おうかと…………」


「ん? あぁ、客か…………良いよ、じゃあ、適当に見てって」


 お姉さんはそう言うと、カウンターの所に腰掛ける。

 うん、確かに変だ。けど、ひとまず害はなさそうだ。

 俺は警戒しつつ、中へと入る。


 店内もどことなく異質だな。

 入口近くの天井から玉ねぎが吊るされている。何の意味があるんだ? 魔除け?

 陳列されている商品にまるで統一性が無い。野菜のすぐ横に玩具が並べられていたり、駄菓子の上の棚に文房具が置かれている。しかも見たことの無いメーカーばかり。


 ふと、カウンターの方を見ると、お姉さんがこっちを見ていた。

 見ていたというか、もの凄くガン見していた。


 カウンターに肘をついたまま、俺の動きに合わせて視線が動いてる。

 え、何? いや、買い物しづらいんですけど。


 俺はその視線から逃れるように、飲み物が入っているガラス扉の冷蔵庫の前に移動し、そこからミネラルウォーター(採水地不明)を1つ手にする。

 これで喉の渇きを(うるお)すことは出来るけど、空腹もかなりヤバい段階まで来てる。


 けど、ここに来るまでの交通費やらで、俺の財布の中身はかなり寂しい。購入出来るのはせいぜい、おにぎり1つ分か。


 というか、あの人、まだこっち見てる。


 横の棚に目を移すとおにぎりが並んでいる。健康黒豆おにぎり、南国バナナおにぎり、烏賊(いか)スミおにぎり、丸こげ焼肉おにぎり、高級蜂蜜おにぎり。

 なんだかラインナップが微妙な気がする。俺は悩んだ末、丸こげ焼肉おにぎりを選ぶ事にした。


 商品を手におそるおそる店主に接近する。

 ………いきなり、襲い掛かって来ないだろうな?


 「お、お願いします………」


 そう言ってカウンターに商品を置いても、数秒間反応が無かったけど、じきにレジを開いて精算を始めたのでホッとした。


 代金を支払ってから、店主に背を向けて残金を確認すると、72円しか無かった。バイトが見つかるまでは生存戦(サバイバル)になりそうだ。しかし俺みたいな中学をあがったばかりの学生を雇ってくれるところなんてあんのかな? そんな事を考えていると、ふと何かが聞こえた気がした。


「………………?」


 思考を止め、耳を澄ましてみる。


   ………………………………気のせいか?

(カシャン)       やはり、何か聞こえる。


 まるで、金属が()れあうような…………

      (カシャン)      近づいている?


 俺は少し身構える。

            (カシャン)    


 俺はすぐ背後に迫った音の発生源の方を見て、自分の眼を疑った。


「え・・? なんだ、あれ?」


 鎧武者(よろいむしゃ)が店の外の歩道を歩いている。


 しかも左手には抜き身の日本刀を握っている。


 俺はあまりの出来事に、金縛りにあったように身動きがとれずにいた。


 頭には(かぶと)を被り、顔には武者の面をつけているので、表情を伺うことは出来ない。というか、怖すぎて目を合わせられない。


 鎧武者は徐々に俺の方に近づき、俺の後ろで一度立ち止まった後、通り過ぎて坂道を下っていった。俺は鎧武者の後ろ姿を只々、呆然と見送っていた。


 硬直している俺の姿を見て、雑貨屋のお姉さんが声を掛ける。


「……キミは、この町に来るのは初めて?」


 俺は我に返り、質問に応える。


「あ、はい。き、今日…………越して、きました」


 俺はなんとか声を絞り出す。


「あの人、この町じゃ有名人だよ。皆からは(かぶと)さんって呼ばれて慕われてるらしいね。異寄高校で教師をしながら、日中はパトロールをして不審者がいないか見回ってんだって」


 お姉さんは意外に穏やかな口調で、教えてくれた。


(異寄高校? 俺が通う高校の名前だ。え? 教師が日中にこんな所にいて授業はどうするんだ? というか、あの人自身が不審者以外の何者でもないだろ? 日本刀持ってたぞ。銃刀法は何処へ行った?)


数々の疑問が浮かんだけど、きっとこの町では問題では無いんだろうな。彼女を見ていて何となくそう思った。


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