傭兵として
栄歴二0二一年。今まで生活には欠かせないものとなっていた石油の枯渇を危惧し、電気やガス、原子力での生活を余儀なくされていた人類は、新たなエネルギーを求めるのではなく、今あるエネルギーを増幅させて変換させるという高効率増幅機関の開発を始めた。
栄歴二0二九年。各国の技術者が試行錯誤を繰り返し、開発されたのが『コア』である。基本的な外見としては球体でサイズは用途により様々である。一般的には電気を増幅元エネルギーとして多種類のエネルギーを生成する。理論上は市販されている乾電池で、従来の戦闘機や戦車ならば一週間稼働させるほどの増幅力をもっている。自動車ならば一ヶ月は通勤、通学に使用できるほどだ。
そしてこの小型ながらも強力なパワーを生み出すコアの誕生により戦場では次第に、人型の戦闘機が活躍するようになった。兵器名称『ラプター』―または『戦闘装甲機』―と呼ばれる新種の兵器はコアの誕生からたった三年で世界中の軍隊へと普及した。
―栄歴二0八八年四月―
心地よい気温と湿度の中、気持よく寝ていたら誰かの声がコクピット内のスピーカーから聞こえてきた。そしてその男、アクラ・シンプソンは目を覚ました。
「戦場のお犬さん、おきてるかな?」
明るそうな女の声。歳は同じくらいだろうか。
「あ?あんたが訓練校の教官が言ってた超戦略的オペレーターなのか…女?」
寝ぼけながらも悟られまいと率直に応えた。どうやら昨晩はオリーブグリーンに染められた新品のパイロットスーツを着たまま、ラプターに搭載されている各管制用ソフトウェアの設定をしながらコクピットの中で寝てしまったようだ。
「まぁ、私は例外でしょうよ。なにしろ超戦略的。すなわち―」
「あー!そうそう、あんたの名前なんていうんだ?教官には無線の周波数しか教えてもらってないんだ」
自慢話のような惚気話のようなことの始まりを制してコクピット内にあるモニターの電源を入れながら言った。オペレーターのエリカの顔が映し出された。
「そうねー、まずは自己紹介といこうかしら。私はエリカ・マーシャル、あなたの専属敏腕オペレーター。エリカでいいよ。よろしくね!」
担当オペレーターのエリカは陽気に、そして手短に自己紹介をした。
「エリカちゃんね。俺は私立アーウェン軍事技術訓練学校三種機甲科卒の―」
「アクラ・シンプソン機士長でしょ。訓練校のときはずいぶん楽しんでたみたいじゃん」
今度はエリカがここぞとばかりに割って入った。どうやらオペレーター業社には個人情報が先に訓練校からいってるようだ。
「おいおい早速情報戦かい。俺はいつからそんな有名人になったんだ」
一方的に情報を知られてるアクラは、学生時代のあまり思い出したくない黒歴史を知られてるんじゃないかという不安とともにぼやいた。
「このくらいの個人情報くらいいいじゃん。オペレーターとパイロットは、一心同体なのです!」
アクラにとっては何もいいことはない。むしろマイナス。
「さてさてー、自己紹介も終わったし、アクラはいったいどの就職先にするの?」
もの凄く単刀直入だった。
「昨日、このラプターのコクピットで寝る前にじっくり考えてたんだ」
「ほうほう、じゃあアクラ君はもう決まってるんだね!」
「気づいたらお前から無線がきてた」
まったく間をおかずに応答した。
「まだ決まってないのか君は!」
唖然とした後にエリカは驚きと若干の怒りをこめて言った。
「そんなんだから君は訓練機で校舎の一部を破壊して創設者の銅像を全壊させるのよっ!」
やはりそういう情報も筒抜けになっていたのかとアクラは落胆した。