7.悩みの末路
「ほう。」
フローラの話を聞いた彼女は、一言そう呟いた。
その答えが不満だったのか、フローラはグッと表情を歪めた。
その表情に苦笑すると、シンシアはフローラの頭を撫でる。
「その彼、とてもかっこいいじゃない。正論だわ。」
「………やっぱり?」
もう、薄々気付いてはいたのだろう。
自分でも悪いと思っているから罪悪感に苛まれているのだ。
少し泣きそうな表情を見せるフローラにシンシアは優しく声をかける。
「そりゃ、自分の彼女が貶されれば怒るわよ。例えそれが…真実でもね。」
「ほら、シンシアだって噂信じてる。」
「でも、私はシェアリル様と話した事はないわ。だから噂が正しいかどうかなんて知らないし、関係ない。だって、関係ないんだもの。」
ばっさり言い切ったシンシアにフローラは大きく息を吐く。
「…私だって、そっち側だったよ……関係ない…私とシェアリル様とは…関係ない…」
しゅんっと落ち込んだ犬のようにも見えるほど弱々しく、最後の方の言葉は聞こえないほど小さい声。
両手で顔を覆ってその場に座り込む。
「ほら、フローラ。するべき事、分かったんじゃない?」
シンシアのその言葉に、フローラはしばらく無言を貫いて微動だしなかったが、突然パンッと乾いた音が響く。
「うん。」
立ち上がったフローラの表情が明るくなっている。
「ありがとう、シンシア。スッキリした。」
「そ、良かった。頑張れ」
ポンっとフローラの肩を軽く叩くと、そのままシンシアは人ごみの中へと紛れて行った。
*・*・*・*・*・*・*
「なに?」
「……」
座って足を組んでいる彼を真正面からジッと見つめる。かれこれすでに30分は立っている。
「呼び出しといて、何なの?」
彼のオーラから、苛立っている事が手に取るように分かる。そりゃそうだ。呼び出されて30分も無言で見つめられているんだから。
何度か彼がフローラを話すように促していたが、それでもフローラは口を開かなかった。
でも、フローラの頭は高速回転している。
ただ、タイミングやらなんやらで言葉が出ないのだ。
「っ……」
話そうとしても、乾いて声が出ない。
それを数回繰り返していると、彼は大きく息を吐いた。
「もう、いい?話せそうになったら呼んでよ。」
「え!?」
彼をみると立ち上がろうとしている。
---ま、待ってよ!!!
慌ててその腕にしがみつく。
「あのさ…」
「……待って!!!話す……話すからっ……」
呆れた様な彼の声に、必死な自分の声が重なる。
なかなか出なかった自分の声は、それを示す様に掠れていた。
怖くて、彼の顔が見えない。腕にしがみついたまま、意を決して口を開く。
「あ、あの……シェアリル…様の事なんだけど……」
シェアリル。その言葉を聞いた瞬間、彼の空気が変わった。それも、彼女の恐怖を増長させる。それでも、言わなければ…
「……私が、浅はかだった。」
「へぇ……で?なんでそんなコロッと意見変わるの?俺が言ったから?」
冷め切った声。それでも怯むわけにはいかなかった。
「私は、人の噂だけを間に受けてそのまま疑いもせず信じてた。…自分を信じるって決めてたのに、また、人の中に埋れてたよ…」
後悔するような表情から打って変わったように笑顔になる。
「気付かせてくれたのは、君だよ。ありがとう、だから、お願い。協力して。」
そっと片手を広げて前へと伸ばす。
驚いた表情を見せていた彼はそのまま、口端を上げてその手をとる。
「いいじゃん。助けてやる。」
晴れやかな表情で、その手を握り返す。
「フローラ…よろしく」
「フローラね、俺はリーノ。これで、契約成立だな。」
忘れかけていた、彼との思い出が少しずつ蘇る。
彼を見つけることが出来るなら。
「そうだね。」
大切なオルゴールさえ、さしだしてみせる。