6.僅かな残留
『あれは、俺の女だよ。』
そう断言した彼が何故か輝いて見えた。
同時に、自分が醜く感じた。
皆が噂している。彼女の噂。
次々と変わっていく恋人。同時期に複数存在する恋人。そして、来る者拒まず、去る者追わず。
歴とした不真面目な女。
昔はそんな娘じゃなかったという人もいるが、私の知る限り彼女は噂通りの人だと認識している。
なのに、彼は彼女を庇うのか。
自分の恋人なのでしょう?なのに、他に男がいてもいいの?
自分のこととは関係ないが、思わず眉根を寄せる。
「本気で言ってるの?」
「どういう意味?」
少しトーンの落ちた暗い声が鼓膜を震えさせる。その声色に少し怖気づきながらも挑発するように見上げた。
「あのね、知らないみたいだから教えてあげる。彼女はね、今貴方だけの者じゃ無いかもしれないわ。他にも数人恋人と呼ぶべき相手がいるわよ、きっと。」
「あんたさ、シェリアルと話したことあんの?」
彼の突然の質問に思わず動きが止まる。
「な……い。」
そう答えれば彼は興味が失せたかというように、ふーんと言いながら背を向けた。
「よくも知らないくせに、そんな悪口いえるんだ。」
そんな言葉を残し、彼はそのまま去っていく。
取り残されたフローラは、そっと視線を落とした。
自分の中にあったどす黒い何かを認識してしまう。ぎゅっと胸元を握り締めると、視界が揺れる。そしてあふれる寸前、視界に爪先が入り込む。
「あれれ?フローラ???」
聞き慣れた声に顔をあげると、クリーム色の髪を高くポニーテールにまとめ動きやすそうな服装で立っていたシンシアが心配そうに覗き込んでいた。
「どしたのー?どこか痛いの??」
「シン……シア……」
突然現れた幼馴染に、それまで保っていた緊張が和らぐ。
みるみるうちに涙目へと変化したフローラは迷うことなく、彼女の胸へと飛び込む。
「なんか、説明しにくいけど、なんか罪悪感!!!」
「言ってる意味わかんないわ」
飛び込んで来たフローラを受け止めながら、シンシアは冷静に呟き、その顔を上げさせた。
「まず、一から説明なさい。」
涙を流し、めちゃくちゃな言葉になりながらもフローラは一生懸命に説明した。