4.奇妙なつながり
店を出てから早足でどんどん距離を離されていく中、フローラは大きな声で叫んだ。
「ま、待ってください!!!」
その声に彼だけじゃなく、周りを歩いていた人も何事かと視線を集める。
もちろん、彼女が誰に向かって叫んだのかは明白で、彼は実に嫌そうな表情で振り返った。
だが、必死に彼を追っているフローラには関係ない。いや、見えていない。
「お願いです、話だけでも……」
ようやくいつの間にか足を止めていた彼に辿り着くと、フローラは逃がさない様に彼の服の裾を握りしめる。
彼女の根性に根負けしたのか、大きく息を吐きながら飽きれた様に両手を軽く挙げた。
「分かった分かった。話だけは聞いてやる。」
彼の言葉にフローラは笑みを見せ、ここが踏ん張りどころ。と心に決意した。
*・*・*・
近くの広場へと連れてきたフローラは、中央にある噴水へと足を進めた。
「さあ、座ってください!」
意気込み満々で噴水の淵を両手で示す。
渋々ながらも彼は噴水に背を向けると言われた通りに腰を下ろした。
「あのですね、話すと長くなるのですが」
「そこは手短に。」
間髪入れずに口を挟まれ、フローラは少し口ごもるが負けてられない。譲れない理由があるのだ。
「分かりました。じゃあ簡潔に言いますね。」
小さく深呼吸すると、先程とは打って変わったような小さな声で簡潔にまとめた。
「そのオルゴール、私が作ったんです。」
「え?」
まさかそんな返答がくると思っていなかったのだろう。キョトンとした表情の彼が手に持った袋とフローラを見比べる。
信じられないのか、袋からオルゴールを取り出すとフローラと並べる様に持ち、感嘆をもらす。
「人は見かけによらないな。」
「どういう意味ですか。」
聞き捨てならない彼の言葉に少しムッとしながら答えれば、彼は考え込む様に口を開いた。
「だって、この細かな素晴らしい装飾も君の力なんだろう?こんなにガサツそうな女なのに。」
「失礼ですよ!!!」
自分の腕を認めてもらったのは嬉しいが、その後に続く言葉のせいで素直に喜べない。
「なら、この曲も君が作ったのか?」
パカっと蓋が開き、繊細なメロディーが流れ出す。その問いにフローラは無意識に表情を落とした。
「違います、それは…教えて貰ったんです。」
オルゴールの音色に耳を傾けていた彼はふとトーンの落ちた彼女の声にチラリと視線を上げたが、何も言わずまた視線を戻す。
「ま、いいけど。でもなんで自分で作ったヤツを買い戻すんだよ。作り手は売ってなんぼだろ?」
そうオルゴールを見ながら言い放つ彼に彼女は肩を落とした。
「そりゃ、買ってもらえるのは嬉しいですよ。でも…それは、それだけは…買ってもらうために作ったんじゃないんです!!」
「へー」
続きが気になるというような表情で彼はフローラを見つめるが、もうそれ以上言いたくないのか、彼女は目を伏せた。
「ま、いいけど。」
話はそれだけ?と立ち上がった彼にフローラは僅かに顔を上げる。
「それでも、これは譲らないよ。」
いたずらな笑みを浮かべながらオルゴールを示す。性格の悪い人。思いっきり残念な、悔しそうな表情を見せた彼女に彼は満足気に笑った。
「譲らない。譲らないから、君と協定を組もう。きっと、かなりの譲歩だよ、これ。」
その満足な表情を見せたまま彼は慣れた様子で組んだ足を解くと、膝に肘を乗せる。
「ねぇ、どうやったらこのオルゴールを手にいれられる?」
思わず頭を抑えたくなる。暗い表情をみせる彼女と退避的に彼はとても楽しそうに笑っていた。