3.偶然の産物
「あ。」
お気に入りの雑貨屋に入った時だった。
たまたま顔を上げると見たことのある顔がいた。
覚えられているのか微妙だった。だって、一瞬の出来事だったから。
むしろ、覚えられていてもきまづい。
無視しよう。
そう心の中で決めた彼女はゆっくり踵を返す。
本当は彼の前にあった物に用があったのだが、いた仕方ない。彼がその場をどくまで時間を潰そうと近くにあった小物を眺める。
どれくらいの時間がたっただろう。
何度かチラッと目的のほうへ目線をやったのだが、彼は全く動く気配はなかった。
見すぎると相手に気づかれる可能性があったので、ちらりとしか見てない。だから何を見ていたのかわからなかった。
だから、彼が何かをとってその場を離れるとフローラは慌ててその場へ行く。
「あれ…な、ない!!」
目当ての物があったはずの場所には何もなく、丁度その場所だけ変にスペースが空いている。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員さんの声に思わず振り返ると、そこにはあの男と狙っていた物があった。
まさかの事態に思わず体が硬直する。そして我に返った時には既に会計が終わっていた。
「う…うそだ……」
思わず口から漏れた言葉が彼の耳に入ったのか、商品を受け取って帰ろうとした足を止め視線がこちらを向く。
「あ、あの時の。」
どうやら覚えていたらしい。少し驚いた様な表情を見せた彼にフローラは思わず足を進め、その商品の袋ごと彼の手を包み込み嘆願した。
「お願いします!これ、譲ってください!!」
「は?」
突然のフローラの言葉に彼は眉根を寄せた。
でもここで引くわけにはいかない。それは譲れない。
「お願いします!これ、私に譲ってください!!」
もう一度叫ぶ。が、彼はパッと彼女の手を払うと蔑む様に彼女を見下す。
「無理。」
それだけを言い残し、颯爽と店を出て行く。
思わずあの顔に似合わない表情を向けられ、一瞬思考が固まってしまったが、すぐ我に返ると慌ててその背中を追いかけた。