表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いを音に乗せて  作者: 神崎寧々
2/9

2.不穏な影

いつも人で賑わう通りへ出たフローラは、紙に書かれた物を次々と買って行く。



「これで大体買えたかな?」



手際よくポケットからペンを出すとそのまま口に咥え、ぽんっとキャップを外して買った物を紙のリストから消して行く。



「あれ?パン買い忘れてる」



順調に全部消せたと思っていたフローラは、残ってしまったパンに顔を歪めた。

お気に入りのパン屋がある通りは今と反対方向なのだ。



「やっぱりあそこのパンが1番美味しいからなー…行こ。」



その場でくるっと踵を返し、少し早足になりながら人ごみを掻き分けてパン屋を目指す。



*・*・*・*・*

お目当てのパン屋で袋いっぱいパンを買うと上機嫌でフローラは店から出た。


「焼きたてがあったなんてすっごくラッキー」


袋から漏れるいい匂いに笑みをこぼしながら、帰ろうと足を踏み出した時だった。



「幸せそうな顔」


「え!?」



突如耳に入って来たとても小さな小さなささやき声に思わず振り返ると一人の男がフローラを通り過ぎて歩いていた。


「え、なんなの。」


変な絡まれ方をされたからか、無償に苛立ちを表情に出しつつ見ていると、近くにいた人達の会話が耳に入って来た。



「見た?さっきの男。」


「ああ。シェリアルの新しい男だろ?一体何処から毎回毎回探してくるのかね」



呆れたような口調にバカにするような口調があちこちから聞こえてくる。


「ふーん。あれがシェリアル様の新しい恋人なんだ。」


あの男が去った方向を一瞥すると、なにもなかったかのように家へと足を進めた。


シェリアルとはこの町の領主の娘であり、容姿は完璧。頭もいい。黙っていれば深層の姫君として申し分ない。だが、この娘は性格にやや難ありなのだ。


歩きながらフローラは、そっと自分の腕の中を見た。焼きたてのパンたちがいい匂いで自己主張している。我慢できなくなり、思わず一つの小さなパンを口に咥えると、先ほどのことを思い出す。


「幸せそうな顔してて、何が悪いのよ」


大好きなパン屋で大好きな焼きたてが手に入ったのだ。笑みがこぼれてしまうのは当然だと心の中でさっきの男を罵倒しながら荷物を持ち直し、帰路を急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ