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◇3

 少年は目を開ける。そしてつい先ほどまで寝ていた場所を確かめる。リビングのソファーだ。

 次になぜここに寝ているかを思い出す。昨日、家出した貴族の少女が来たのだ。

 ソファーから起き上がり、洗面所へと向かう。顔を洗って時計を確認するため、リビングへと戻る。

 時刻は5時。

 いつもと同じ時間の起床だ。外はまだ薄暗い。

 少女を起こすにはまだ早いと思い、家の掃除を始める。

 あまり汚いところだと貴族の娘は嫌がるだろうから。

 リビングは昨日掃除したからそこ以外を順番に掃除する。

 自室は少女に貸しているので掃除する事ができないが、ベッドしかない部屋なので大丈夫だろう。

 40分程度、掃除をして外に出る。

 朝食を買わなければならないからだ。自分1人なら朝食はいつも抜くのだが、少女のことを考えて値段が高めの店に足を運ぶ。

 とりあえず朝食によさそうなものを2人分買って家戻る。料理を作れるにように練習したほうがいいだろうかと悩んでるうちに家に着く。

 鍵を開けて家に入る。

 少女はまだ起きていないようだ。

 時刻は6時。そろそろ起こしてもいいだろう。そう思い、少女が眠っている自室へ向かう。

 部屋に入ると少女は綺麗な体勢で寝ていた。貴族の娘は寝姿までも求められるものなのだろうか。

 少年は少女に声をかける。

「朝ですよ」

 少女は目をゆっくりと開く。そして目を2、3秒ほどきょろきょろとさせて、少年の方を見る。

 そして慌てて体を起こす。

「お、おはようございます」

「おはようございます。6時ですけど、起きますか?」

「は、はい」

 少女はベッドからおりて、また周りをきょろきょろと見る。

「どうかしましたか?」

「あの、鏡はありますか?」

「浴槽の隣の部屋が洗面所ですよ」

 事務的に告げる。そして、

「朝食の前にどうぞ」

 そう続ける。

「ありがとうございます」

 少女は頭を下げる。

 貴族の娘がこんなに軽々しく兵士に頭下げていいものなんだろうか。と少年は思うが特に口にはしない。

 そして少年はリビングへと向かう。

 少年の去った部屋で少女は緊張を解く。少女は家族と召使いの人以外の人に寝姿を見られたは初めてだった。このことは絶対に他言しないでおこう。

 そう心に決めて、洗面所に向かった。






 少年は少女が洗面所から戻って来るのを見て、朝食をリビングのテーブルに並べる。テーブルは低く、座るのによさそうなぐらいの高さだ。

 少女は少年の反対側に座り、

テーブルに並べられた朝食を見る。

「あの、おはようございます。……これは私の分でしょうか?」

 少女は目の前に置かれたものを見て言う。

「そうですよ。気にせず食べて下さい」

 少年はそう返事をして自分の分の朝食を手に取って食べ始める。

 少女は少し戸惑ったが、少年が黙々と食べ続けるので礼を言って食べ始める。

 少年はいつもより数倍以上の金額を消費した朝食を食べ、確かにおいしいと思うがスラム育ちの自分は質よりも量派だと思いながら、もう食べることはないであろう高価な朝食を平らげる。

 少女は城で教えられた持ち方に姿勢で料理を口にする。もう癖のように染み付いてしまっているのだ。しかし城の時とは別に食べることよりも少年の方を見る。

 どう言えばグングニルにこの国の城まで連れて行ってもらえるだろうか……。

 少女の目的はこの国の王に会うことだ。そのために城から抜け出し、国から抜け出し、この国まで来たのだ。

 父上と母上はきっと心配しているだろう。きっとスラム街には父上が送って傭兵たちが自分を探していることだろう。

 急がないといけない。

 そう思って食事の手を早める。

 目の前の少年はいつの間にやら食べ終わって残ったゴミを片づけている。

 少女も食事を平らげて、片づけを始める。

 しかし、戦争の英雄がなんで今日はこんな所でゆっくりしているのだろうか。確か、前線に来ることがかなり減ったらしいが一体なぜだろうか。 考えても理由がわからず、考えるのを止める。

 今はこの国の王に会う方法を見つけることが先決だ。

 城門や城壁を越えるのは無理だろう。運が悪ければ城の兵士に見つかって殺されてしまうかもしれない。面会できるほどのコネが必要だ。

 王に会えるほどのコネを持つのは名門貴族か側近、城の兵士、城の召使い、もしくは敵国に名を知られるほどに戦果をあげた兵士ぐらいだ。

 そして、そのうちの1人がここにいる。

 前線に出たら、絶対にそこは勝ち戦となる兵士。物理現象を無視したように現れる魔槍の名で呼ばれる少年。

 グングニル。

 とりあえず、彼が今日どこに行くかを聞こう。そう思い、グングニルに聞いてみる。

「すみません。今日はどこかに出かけますか?」

「今日ですか? 知り合いの貴族の家にいく予定ですが」

 少女にとってなかなかに嬉しい反応がくる。少しでもコネを作るチャンスがあるなら願ったり叶ったりである。

「よろしければ、私も連れて行ってもらえませんか?」

 グングニルは無表情のまま、いいですよと答えた。

 これで最高貴族と知り合いにでもなればとても嬉しい誤算である。

 少女はようやく目的が見えてきたような気がした。

 とりあえず一通り片付けるときょろきょろと周りを見回す。

 私のコートはどこへ行っただろうか、確かこのソファーに置いたはずだが……。

「昨日着てたコートですか?」

 グングニルが私を見て察する。

 私は頷く。

「コートは汚れていたので、洗濯しましたが……今日も着る予定でしたか?」

 どうやら、グングニルは洗濯もしてくれたようだ。この人は本当に私の知っているグングニルなのだろうか。聞いた話では鬼神のような少年らしいのだが……。

「あの、何から何までありがとうございます。このお礼は必ずしますので」

 私はそう返事をした。とりあえずグングニルの知り合いの貴族のところにはこの恰好で行こう、そう思い髪を結ぶ。

「そろそろ行きましょうか」

 グングニルが無表情のままそう言った。






 少女は少年に連れられてスラム街から城下街を目指した。

 少年は少女を貴族に預けて早く仕事に戻りたいと思っていた。なので少女が付いてくると言ったときは好都合だなと思った。

 少年が目指す貴族の家は城下街の城から最も離れた場所にある。だからスラム街からはなかなか近かった。

 2人は少年の家を出て20分程度で目的の場所についた。

 貴族の家なので少年の家の4、5倍はありそうな大きさだった。

 少年は特に何も言わずにノックをする。

 すぐにドアが開き、中からメイドの女性が現れる。

「何のご用でしょうか?」

「グングニルと言います。レオン将軍は居ますか?」

「少々お待ち下さい」

 メイドはそういうとドアを閉めた。少年と少女は無言のまま待つ。

 しばらくしてドアが開く。今度は先ほどとは別のメイドが現れる。

「どうぞお入り下さい」

 少年と少女は家の中に入る。

 中は外からではわからないくらい華やかで、まるでミニチュアのお城ではないかというほどに豪華だった。

「やあ、君の方からオレの屋敷を訪ねてくれるとは珍しいなグングニル。しかも女性を連れてとは」

「こんにちはレオン将軍。突然訪問してすみません」

「いやいや、別に構わない。オレの方こそ君から来てもらえるとは光栄だ」

 レオン将軍と呼ばれた男性は階段を下りながら、少女の方を向いた。

「ところでそこのレディは誰なんだ? おっと、こういうのは男性からと決まっていたな。オレの名前はレオナルド・ヘイエラン・フェアだ」

「私はサーシャ・レイアヴェナムヘイメス・クロツフェルです。初めまして、ヘイエラン将軍」

 少女は男性に返事をして、頭を下げる。その仕草は男性以上に洗礼されたものであった。

「こちらこそ始めまして、ヘイエランではなくレオンと呼んでくれ」

「その心遣い、有り難く思います。レオン将軍」

「おう、ところでこんな遠くまではるばる何をしに来たんだい? 護衛付けないとは流石に不用心すぎるんじゃないか、ローレンツ国のお姫様?」







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