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◆2

 少年は目の前に座る少女を見ていた。

 少女は汚れたフード付きのコートを着ていた。今はかぶっていないが、先ほどまではフードを深くかぶっていたので少年はこの目の前にいる人物を女だとは思っていなかった。

 少女は美しい容姿をしていた。家に泊めて下さいと言っていたが、多分貴族の娘だろう。

 少年は自分の仕事の知り合いに貴族が居たので、一晩家に泊めて翌日に相談しに行こうと考えていた。

「あの、浴槽を借りてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、そこのドア開けてすぐ右です」

 少年は少女に浴槽がある場所を伝えた。それから着るものがあるのかと聞いた。

「気にしないで下さい。今着ているものをまた着ますから」 そう少女は言ったが貴族の娘がそれはどうかと思い、少年は服を洗濯するからその間だけでも自分の服を借りませんか? と言った。

 少女は悩んだ後にしぶしぶ了承した。

 しかし貴族の娘が家出をするなんてなぁ~と少年は考える。

 家出するなんて自殺するようなものだろう。

 そんなことをソファーに横になりながら考えていたら少年の意識がゆっくりと落ちていった。






 少年ははっと目を覚ました。時計は見ると7時を越えている。浴槽から水の音が聞こえる。少女がまだ入っているのだ。

 少年は机に置いていた夕飯を食べ始め、食べ終えた。

 少女はまだ浴槽から出ない。そういえば少女の夕飯はどうしようか、少年は考える。家にあるのはインスタント食品が少しと飲み物程度。

 これじゃあな……と少年が悩んでいると、少女の入浴が終了した。

 少女は少年のところまで来て、

「浴槽を貸して頂きありがとうこざいます」

 そう言って頭をさげた。一挙一動が自分が知る人間とは違い、洗礼されてきれいだった。

 少年は少女の動作と容姿に少し見とれてしまい慌てて、

「いえ、気にしないで下さい」

 と平静を振る舞って答えた。それから夕飯の事を思い出し、

「そう言えば……」

 と切り出し、少女の名前を呼ぼうとして言葉が詰まった。先ほど名を聞いたが少年は物覚えがあまりよくなかった。

「えっとサ……サ……」

 最初の文字は『サ』であったと思い出したが、続きが思い出せない。

 それを見かねた少女が微笑みながら、

「サーシャ・レイアヴァナムヘイメス・クロツフェルです。サーシャと呼んで下さい」

 貴族の娘は平民とは違いミドルネームがある。この星ではミドルネームが位を示すのだ。ミドルネームのない少年やその他諸々はただの動物なのだ。

「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでした。名前、なんて言うんですか?」

 少女が無垢に少年に尋ねた。少年は少し口ごもり、

「グングニル。そう呼ばれてる」

 そう言った。

 少女は一瞬驚きの表情を浮かべて後ずさったがすぐに笑顔に戻り、

「よろしくお願いします」

 そう言って手を出した。

 少年は貴族の娘だからとても育ちがいいなと思い、先ほどのミドルネームをどこかで聞いた気がした。

 それからハッと思い出し、問いかける。

 夕食は食べましたか? と少女に言った。

 少女は大丈夫です。お腹は空いていませんと言って断った、が少年は大丈夫かなぁ、と思い家にあるものでも何か食べないかと聞いた。

 少女は正直お腹が空いているわけでもなかったが、今日全然食事をしていないのも事実だった。

「なら少しだけ頂きます」

 そう言って頭を下げた。

 少年は家の中の食べ物を捜索し、最近買った少し値段が高めのカップラーメンを発見した。

 お湯を入れて三分間。短いようで長い時間。二人は口を開かずにソファーに座って待つ。

 少年は部屋が少し散らかっていることを少し気にし、少女は横目に少年を監視するようにチラチラと見る。

「そろそろ大丈夫だと思いますよ」

 そう言って時計の方を指す。少女は差し出されたフォークとカップラーメンを観察し、食べ始めた。

「あひっ」

 少女は反射的に麺を戻し、カップラーメンを机に置いてまじまじと見つめる。

「あ、すいません」

「い、いえ。私が猫舌なので……」

 少年は謝ってその後に立ち上がる。

「僕は入浴するのであなたは好きに食べていて下さい」

「あ、はい。わかりました」

 少年は奥の部屋に消えて行った。

 少しして水の音のみが聞こえてくる。

 少年が入ったのだろう。少女はそう理解して、

「ふぅー」

 大きなため息を吐いた。

 グングニル……少女はその名を知っていた。

 この国の軍人であり英雄と言われる少年。《汚れ無き楽園クリアエデン》で生まれた魔槍《勝利のグングニール》を持ち、戦場では独断専行ならぬ独断戦好を座右の銘にしている。

 こんなところで会うなんて夢にも思いもしなかった。

 しかし彼が私の名前をしらないのはラッキーである。


 この国の敵国の国王の1人娘の名を知らないなんて。


 しかし彼の家に泊まることには成功したが明日が問題だ。明日、王宮に連れて行かれるなら願ったり叶ったりであるが。

 と、早く庶民食のラーメンを食べなければ。伸びてしまっては勿体無い。

 サーシャは割り箸に手を伸ばし、カップラーメンを食べ始める。そして一言、

「意外と……おいしい」

 ラーメンという食べ物はサーシャが今まで食べたことのない食べ物である。聞いたことはあったが今までに実物を見たことすらもなかったのだ。

 音を立てることはしないでサーシャはラーメンをいそいそと食していく。

 サーシャはあっという間に平らげた。

 それと同時に頭をタオルで拭いているグングニルが現れる。

「もう入浴終わったんですか」

「はい」

 グングニルはそう言ってサーシャが食べ終えたカップラーメンの残ったゴミを取り、ゴミ箱へ持って行った。

「あ、ありがとうございます」

「いえ、これくらい何でもないですから」

 そして沈黙。

 ………………。

 サーシャは何か話す話題はないかと探すが見つからない。敵国の英雄、グングニルと彼の家で2人きり。なんていうシチュエーションだ。

 グングニルはというとなんかソワソワしてる感じだし、いったいこれはなんて状況だろうか。

「あ、あの」

「はい、何ですか?」

「今晩あなたの家に泊めてもらってありがとうございます。それで私はどこで就寝すればいいのでしょうか?」

 とりあえず、部屋があるならばそこで1人になっている方がいいと思って聞いてみた。

「付いて来て下さい。案内します」

 そう言って彼は奥へと歩き出した。

 サーシャは立ち上がってグングニルの後を追いかける。

 着いた部屋はベッドしかない四畳くらいの部屋であった。グングニルが客間用に使っている部屋である。

「別に何時までに眠れとか、勝手にうろうろするなとかは言いません。自分の家の用に好きに歩き回っていいです」

「ありがとうございます。私は少し疲れたのでこの部屋に居させていただきます」

「わかりました」

 グングニルは最後にそう言うと元来た道を戻った。サーシャは少し安心し、ベッドに仰向けになっていままでのこと状況整理をし始めた。

 グングニルは先ほどまでいたリビングを掃除していた。






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