「駄菓子の話」
かーみ様「楓、姫子、澄子。駄菓子買いに行こう」
楓「駄菓子ですか……ああ、そういえば近くにできたんでしたっけ」
かーみ様「そうそう。ね、いいでしょ?」
にこにこと笑いながら、すぐに続ける。
かーみ様「楓、ここ最近家にこもってばかりだからさ。身体、たるみ始めてるんじゃないの?」
楓「うぐっ!!」
図星だった。
姫子や澄子が来てからというもの、力仕事のほとんどを二人が担当し、楓は時々補佐に入る程度になっていた。
楓「……そうですね。わかりました。じゃあ着替えてきますので、お待ちを」
姫子「じゃあ私は外で待ってますね。待ってる間、庭で走ってます!」
楓(元気だなぁ……)
澄子「私は神様と待っている。楓殿はごゆるりと支度を」
楓「駄目ですよ。澄子さんも私とお着替えしないと」
澄子「……なに?」
楓「部屋も私と一緒になったことですし。それに、せっかくかーみ様に可愛くしてもらったじゃないですか」
澄子「おい待て待て待て〜〜!!」
かーみ様「いってらっしゃーい」
他人事のように手を振っていた。
⸻
三十分後。
かーみ様「それじゃあ、いざ駄菓子屋にレッゴー!!」
姫子「GOGO!!」
楓「行きましょう」
澄子「……御意」
一柱は見た目相応にはしゃぎ、
一人は全力で元気よく、
一人は落ち着いた顔のまま少しだけ胸を弾ませる。
そして人形姿の一人だけが、どこかげんなりしていた。
⸻
山道をのんびり歩きながら、四人は新しくできたという店へ向かう。
楓「それにしても、私たち以外あまり人がいない場所で住んで、そこで商売まで始めるなんてすごいですね」
姫子「確かに。趣味にしたとしても、もう少し人の多い場所を選びそうなのに……随分思い切ったことしますよね」
かーみ様「まあ、そもそも店主は人が苦手だし、子供が好きなやばい同族だよ」
楓・姫子・澄子「え?」
三人の声がきれいに重なった。
かーみ様「実は知り合いなんだ」
何でもないことのように言う。
かーみ様「三百年前も、数年だけどここでよく子供たち相手に菓子を売ってたよ」
楓「三百年前」
姫子「さらっとすごいこと言いましたね」
澄子「……やはり、ただの駄菓子屋ではないのか」
かーみ様「うん。まあ普通ではないね」
にやり、と意味ありげに笑う。
かーみ様「でも悪いやつじゃないよ。ちょっと変なだけ」
楓(この人が言う“ちょっと変”は信用ならないんですよね……)
胸の内でそう呟きながら、楓は小さくため息をついた。
やがて木々の隙間の向こうに、色鮮やかな暖簾が見えてくる。
手書きの文字で、こう書かれていた。
だがし処 よろずや
姫子「おおー! 本当にあった!」
澄子「……本当に、あったな」
楓「疑ってたんですか」
澄子「神様の知り合いと聞けば、多少はな」
かーみ様「失礼だなぁ」
笑いながら先頭に立つ。
かーみ様「さ、行こっか。懐かしい味、まだ残ってるといいな」
暖簾をくぐると、そこには懐かしい甘い匂いが漂っていた。
色とりどりの駄菓子が棚に並び、古びた木の床はよく磨かれている。
店の奥、番台のような場所に座っていた人物が、ゆっくり顔を上げた。
鬼神「いらっしゃい……って、土地神じゃないか」
細い目をわずかに開き、呆れたように鼻を鳴らす。
鬼神「なんだい、あんた。まだ天界に帰ってなかったのかい」
かーみ様「まあね」
悪びれもせず笑う。
かーみ様「百数年こもってたら、二人と怨霊が来てくれてさ。また賑やかになったよ」
鬼神「……相変わらず、妙な縁だけは引くねぇ」
楓「は、初めまして。かーみ様と暮らしている、本宮楓です」
少し緊張しながら頭を下げる。
姫子「音無姫子です!! 元気だけは負けません!」
勢いよく挨拶する。
鬼神「そりゃ結構」
澄子「その……この人形の姿ですが、かーみ様のお力により半受肉した澄子と申します。一応、まだ怨霊だと思っております」
鬼神「情報量が多いねぇ」
思わず笑いが漏れる。
鬼神「けど、可愛らしい子たちじゃないか」
三人を順番に眺め、それからかーみ様を見る。
鬼神「いい縁を結んだね、土地神」
かーみ様「だから土地神なんて堅苦しい呼び方やめてよ。今は“かーみ様”だよ」
鬼神「馬鹿らしいから呼ばない」
かーみ様「酷っ!!」
楓(このやり取り、昔からなんだろうな……)
妙に息の合った応酬だった。
鬼神はくすりと笑い、立ち上がる。
鬼神「ふふふ。まあ、せっかく来たんだ」
奥から湯気の立つ湯呑みをいくつか持ってくる。
鬼神「甘酒でも飲みながら、ゆっくりしていきな」
姫子「わあ、いい匂い!」
鬼神「駄賃は安くしてあげるから、好きなお菓子を持っておいで」
そう言って、三人の方へ手をひらひら振る。
鬼神「その代わり――」
目元に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
鬼神「この三人の話を、たっぷり聞かせておくれ」
かーみ様「商売上手だねぇ」
鬼神「長く店をやってると、こうなるのさ」
楓たちは顔を見合わせる。
そして次の瞬間――
姫子「じゃあ私、あの串のやつ取ってきます!!」
澄子「おい、走るな。店内だぞ」
楓「……すみません、すぐ連れて戻ります」
鬼神「あっははは! にぎやかでいいじゃないか」
静かな山奥の駄菓子屋に、
久しぶりの笑い声が広がっていった。
おまけ
かーみ様「ふぇぇ……楓ぇ、酔っ払ったよ〜……」
楓の肩にもたれかかるようにして、ふにゃふにゃとした声を出す。
楓「かーみ様、甘酒ですよ。アルコール入ってないはずじゃ……」
困ったように支えながら、湯呑みをそっと取り上げる。
かーみ様「でも、お酒っぽい味したもん〜……」
楓「味で酔わないでください」
鬼神「本当にあんたは変わらないねぇ」
呆れ半分、楽しさ半分といった顔で肩をすくめる。
鬼神「酒だと思って飲むと、身体が勝手に反応して酔うんだから。見た目と中身の年齢が合いすぎて、こっちがびびるわ」
かーみ様「えへへ〜……」
まったく反省していない笑みだった。
その横では――
姫子「すいません!! そこのおでんください!! ついでに田楽も!」
鬼神「はいはい、景気がいいねぇ」
手際よく皿に盛りつけていく。
澄子「お前、本当によく食べられるな……これで何串目だ?」
姫子「えっと……七?」
澄子「数えてないだろう」
姫子「でもまだいけます!」
澄子「誇るな」
楓(元気だなぁ……)
鬼神はその様子を眺めながら、くつくつと笑う。
鬼神「ははは。まったく、気持ちいい騒がしさだねぇ」
静かだった店内に、笑い声と湯気が満ちていく。
鬼神「本当に、いい縁を持ったね」
その言葉に、楓は少しだけ目を細めた。
かーみ様は楓にもたれたまま、へにゃりと笑う。
かーみ様「でしょ〜……私、えらい?」
楓「はいはい、えらいです」
そう返すと、かーみ様は満足そうに頷いた。
山奥の小さな駄菓子屋で。
今日もまた、賑やかな時間がゆっくり流れていた。




