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新年の話

十二月三十一日から一月一日へ。

日付が変わり、新しい年が静かに訪れた。


外は深い夜のまま。

空気は張り詰め、どこか神聖さすら感じさせる静けさが広がっている。


そんな中、楓はゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


年越しの挨拶を兼ねた初詣。

この土地に来てから初めて迎える新年として、きちんと形を整えておきたい――そんな思いがあった。


支度を始めかけた、その時だった。


かーみ様「あ〜、別に行かなくていいよ」


楓「……え?」


あまりにも軽い一言だった。


拍子抜けするほどあっさりとした返答に、楓は思わず動きを止める。


かーみ様「ちょっと待ってね」


そう言うと、かーみ様は部屋の隅に置かれていたダンボールへ視線を向けた。


引っ越しの際に使い、そのまま片付けきれていなかったものだ。


かーみ様「それ、もらうね」


特にためらう様子もなく、それを手に取る。


器用とも雑とも言えない手つきで組み立てていき、

あっという間に簡単な台のような形に仕上げていく。


さらにどこから用意したのか、紙で作った鳥居と小さなお社を取り出し、

その上にちょこんと置いた。


見た目はかなり簡素だが、形としては確かに“それらしく”見える。


かーみ様「はい、完成!」


満足げに胸を張る。


楓「……」


楓は一瞬、言葉を失った。


楓「あの……神様に対して言うべきじゃないのは分かっているんですが」


少しだけ言いづらそうに、言葉を選びながら続ける。


楓「簡易的すぎませんか?」


かーみ様「えっ!?」


驚いたように目を丸くし、すぐに反論する。


かーみ様「だって、この村、誰もいないんだよ?

 別に良くない?」


指を折りながら、さらに言葉を重ねる。


かーみ様「それにさ、外寒いし。

 そもそも今、ここに私がいるんだから、形式だけ整えれば十分だよ」


あまりにも堂々とした理屈だった。


楓はしばらく沈黙する。


(……こんな屁理屈を言う神様、見たくなかった)


心の中でそう思いつつも、これ以上深く突っ込むのはやめておいた。


神様の基準と、人間の常識をすり合わせるのは、きっと骨が折れる。


――その後、一度眠りにつき。


朝。


まだ空気の冷たい時間帯、楓は外に出て初日の出を眺めた。


ゆっくりと昇る光が、山の稜線をなぞりながら広がっていく。


言葉にするほどでもないが、どこか気持ちが整うような感覚。


静かな新年の始まりだった。


家へ戻り、楓はそのまま台所に立つ。


おせち料理を取り出し、丁寧に並べていく。

そして鍋で温めていたお雑煮の準備も整える。


その間も、居間からは落ち着かない気配が伝わってきていた。


こたつの方を見ると――


かーみ様は中にすっぽりと入り込み、足をじたばたさせている。


布団がもこもこと動き、そのたびに中から小さな音が漏れる。


ウキウキ、ワクワク。


そんな擬音が、そのまま当てはまる光景だった。


(……本当に神様なんだろうか)


時々、本気で疑いたくなる。


楓「お待たせしました」


おせちを並べながら、穏やかに声をかける。


楓「と言っても、盛り付けしただけですけど。

 お雑煮は手作りなので、いっぱい食べていいですよ」


その瞬間、かーみ様の目がきらりと輝いた。


かーみ様「ほんと!?

 正月って、やっぱりこうじゃないとだよね!」


こたつの中で足を揺らしながら、満面の笑みを浮かべる。


その無邪気な様子に、楓は思わず小さく笑ってしまった。


静かな村で迎える、新しい年。


神様と一緒の、少し変わった――

けれど、どこか温かい正月だった。


やがて、おせちを食べ終え。


満足したのか、かーみ様はこたつの中で小さく息を吐いた。


「ふぅ……」


空気が緩む。


その直後、何かを思い出したように、ぱっと顔を上げる。


かーみ様「……あっ」


そう呟くなり、勢いよく立ち上がり、自分の部屋へと向かっていった。


しばらくして、両手に袋を抱えて戻ってくる。


足取りは軽く、どこか弾んでいる。


かーみ様「じゃじゃーん!!」


袋の中身を、こたつの上に並べる。


かーみ様「手作りのベイゴマと、カルタ、それから凧揚げ!!」


どれも少し古風で、どこか懐かしい遊び道具。


手作りという言葉に違わず、素朴ながら丁寧に作られているのが分かる。

時間をかけて準備していたのだろう。


かーみ様「楓、分からなかったら教えてあげるからさ。

 今からやろうよ!!」


目を輝かせ、身を乗り出す。


その期待に満ちた視線を前に、楓は一瞬、言葉を失った。


(……完全に、正月を満喫する気だ)


それでも――


楽しそうで、少し誇らしげなその表情を見ていると、

断る理由はどこにも見つからなかった。


楓「……わかりました」


そう答えると、かーみ様は嬉しそうに頷いた。


神様が教える、昔ながらの正月遊び。


外は静かで、寒さも厳しいはずなのに、

この部屋の中だけは、不思議と賑やかだった。


こうして。


楓にとっては久しぶりの、

少しだけ騒がしくて、温かな正月が始まったのだった。



おまけ


かーみ様「楓ってさ……物分かりいいというか、覚えるの早いよね」


回り続けるベイゴマを見つめながら、ぽつりと呟く。


畳の上で軽やかに回るそれは、初めてとは思えないほど安定していた。


かーみ様「初めてなのに、ここまで綺麗に回せる子、初めて見たよ」


その声には、感心よりも――

どこか引いたような響きが混じっていた。


楓「……そうですか?」


首を傾げる楓とは対照的に、かーみ様は一歩引く。


表情は、ほんの少しだけ固い。


(え、ちょっと待って。

 これ普通じゃないよね……?)


先ほどまで教える側だったはずの神様が、

今度は明らかに戸惑っている。


そしてそのまま、しばらく無言でベイゴマを見つめたあと――


かーみ様は、静かに距離を取った。


今度は、かーみ様の方が一番ドン引いていた。

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