鍋をつつく日
今日リアルで鍋を食べたため思いついたネタを。
今日はかーみ様を連れて車を走らせ、一時間ほどの場所にあるスーパーで買い物中だ。
この辺りではそこそこ大きい店で、休日になると人も多い。
カートを押す家族連れや、特売品を見に来たお年寄りたちが行き交っている。
かーみ様は今日、神通力なるものを使って、皆に見える状態で私の隣を歩いていた。
どういう理屈なのかはよく分からない。
ただ、周囲の人は「普通にもう一人いる」くらいの認識で受け入れているらしい。
楓(神様の能力って、本当に便利だな……)
そんなことを思いながら、野菜売り場へ向かう。
かーみ様「楓〜、今日は何作るの?」
楓「うーん……まだ寒さが残ってますし、鍋にしようかなと」
そう言うと、かーみ様の目がぱっと輝いた。
かーみ様「鍋! いいねそれ!」
楓「ええ」
かーみ様「じゃあね、豆腐とお野菜いっぱい入れてほしいな!」
楓「はいはい、分かりました」
かーみ様は見た目に反して、野菜をちゃんと食べてくれる。
むしろ進んで食べる方だ。
おかげで料理を作るとき、好き嫌いを気にしなくて済む。
作る側としては、かなり助かる。
楓「じゃあ豆腐と野菜は多めで……」
豆腐コーナーからパックをいくつか手に取る。
楓「そうですね。あと、しいたけと……」
きのこ売り場を眺めながら、かごに入れていく。
楓「つくねが安いので、これも買いますか」
かーみ様「お肉も入れるの?」
楓「入れますよ。鍋ですから」
かーみ様「やった!」
そして次は米売り場。
楓「……あ」
思い出す。
楓「そういえば、お米切らしてました」
かーみ様「それは大変だね」
楓「ですね。ついでに買っておきましょう」
五キロの米袋を持ち上げて、かごへ。
気が付けば、かごの中はだいぶ埋まっていた。
楓(……あれ?)
気付いた頃には、結構な重量になっていた。
レジへ向かう頃には、かごはほぼ満杯。
持ち上げると、腕にずしりと重みが来る。
楓「……重い」
かーみ様「楓、ちょっと持つよ」
ひょい、と。
かーみ様は当然のように袋の半分を持ち上げた。
楓「……軽そうに持ちますね」
かーみ様「えへへ、これくらいなら大丈夫だよ」
楓「……それ、もっと早く言ってください」
かーみ様「楓が頑張ってたから、見てた」
楓「途中から腕震えてましたよ」
かーみ様「ほんと?」
楓「ほんとです」
そんなやり取りをしながら、二人はスーパーを後にした。
今夜は、鍋だ。
寒い夜には、ちょうどいい。
⸻
家に帰ると、かーみ様は早速暖房のスイッチを押していた。
どうやらもう付け方を覚えたらしい。
そしてそのまま、こたつに潜り込む。
こたつ布団の中で、ぽかぽかと暖まりながら丸くなっている。
かーみ様「ふぅ……あったかい」
すっかり満足そうな顔だ。
その様子を見て、楓は思わず小さく息を吐いた。
幸せそうにしているのに、無理やり引きずり出すのも違う気がする。
結局、そっとしておくことにした。
楓「さてと……作りますか」
今日は鍋だ。
締めにご飯を入れる予定なので、米は一番最後にする。
まずは鍋の準備からだ。
キッチンに立ち、鍋を取り出す。
水を張り、出汁を作り始める。
昆布を入れて、火を弱めにする。
台所には、ゆっくりと静かな時間が流れていた。
その間も、こたつの中から声が聞こえる。
かーみ様「楓〜」
楓「なんですか?」
かーみ様「いいにおいしてきた」
楓「まだ出汁ですよ」
かーみ様「もうお腹すいた」
楓「早いですね」
そんなやり取りをしながら、楓は鍋の準備を進めていくのだった。
⸻
具材を均等に入れていく。
豆腐、白菜、しいたけ。
それから、さっき買ってきたつくね。
ぐつぐつと鍋の中で音を立てながら、出汁が具材に染み込んでいく。
楓は箸を伸ばし、火の通り具合を確かめる。
ひとつつまんで、味見。
楓「……うん」
もうひとつ。
楓「大丈夫そうですね」
一個一個、具材を確認するように食べていく。
その頃には、台所にはすっかり鍋のいい匂いが広がっていた。
こたつの方から、そわそわした気配がする。
かーみ様「楓〜」
楓「なんですか?」
かーみ様「まだ?」
楓「もうすぐです」
かーみ様「いいにおいしてる」
楓「鍋ですからね」
鍋がいい感じに煮えてきたところで、火を弱める。
そして――
両手で鍋を持ち上げる。
楓「よいしょ……」
そのまま、こたつの上へ。
湯気がふわりと立ち上り、部屋に出汁の香りが広がる。
かーみ様の目が、ぱっと輝いた。
楓「では食べますか」
かーみ様「食べよ食べよ!!」
二人で箸を持ち、鍋を囲む。
楓はまず豆腐を一つ取り、器によそった。
楓「熱いので気を付けてくださいね」
かーみ様「わかった」
そう言いながら、ふーっと息を吹きかける。
そして一口。
かーみ様「……!」
次の瞬間。
かーみ様「あつっ!!」
楓「言ったじゃないですか」
かーみ様は慌てて息を吹きかけながら、口をぱたぱたさせている。
かーみ様「でもおいしい!」
楓「それは良かったです」
今度は白菜を取る。
かーみ様「それもほしい」
楓「はいはい」
器に少し入れて渡す。
こたつの上には、鍋の湯気。
部屋の中は暖房とこたつで暖かく、外の寒さが嘘のようだった。
かーみ様「鍋っていいね」
楓「冬はだいたいこれです」
かーみ様「みんなで食べるご飯って感じがする」
楓「まあ……そうですね」
そんな会話をしながら、ゆっくりと鍋をつついていく。
野菜も、つくねも、豆腐も。
気付けば半分以上なくなっていた。
楓「さて……」
鍋の中を見ながら言う。
楓「締めにしますか」
かーみ様「しめ?」
楓「最後にご飯を入れて雑炊にするんです」
かーみ様「それ絶対おいしいやつ」
楓「ええ」
冷蔵庫からご飯を取り出し、鍋に入れる。
ぐつぐつと、再び鍋が煮え始める。
楓は軽くかき混ぜながら、少し卵を落とした。
楓「これで完成です」
器によそって、かーみ様に渡す。
かーみ様「いただきます」
今度は慎重に、ふーふーと息を吹きかける。
そして一口。
かーみ様「……おいしい」
楓「でしょう」
かーみ様「これ好き」
楓「それは良かったです」
こたつの上で、ゆっくりと雑炊を食べていく。
外はまだ寒い夜。
けれど、この部屋の中だけは、やけに暖かかった。
⸻
おまけ
翌日。
楓は朝、台所で鍋を洗っていた。
昨日の残り香が、まだ少しだけ残っている。
その時。
こたつの方から声がする。
かーみ様「楓〜」
楓「どうしました?」
かーみ様「今日も鍋?」
楓「さすがに連日はしません」
かーみ様「えー」
楓「そんな残念そうな顔しないでください」
かーみ様はこたつの中から顔だけ出している。
かーみ様「でも、また食べたい」
楓「また寒い日に作りますよ」
かーみ様「ほんと?」
楓「ええ」
すると、かーみ様は満足そうにこたつへ戻った。
こたつ布団が、もこっと動く。
楓はその様子を見て、小さくため息をついた。
楓(この神様……)
楓(完全にこたつの住人になってるな……)
そしてその日。
かーみ様は、一度もこたつから出てこなかった。
個人的に鍋は味噌か、塩。




