かーみ様俗世も悪くないと思う。
あれから数日が経った。
かーみ様は、歴史の資料や現代文化を、主にテレビ越しに学んでいた。
ニュース番組、教養番組、時にはバラエティ。
元々が勉強気質なのか、どうやら苦にはならないらしい。
むしろ、知らない時代を知ること自体を楽しんでいるようだった。
テレビの前で腕を組み、真剣な顔で頷くその姿は、
まるで授業を受ける学生のようでもある。
かーみ様「楓〜」
楓「はいはい、なんでしょう?」
呼ばれて振り返ると、かーみ様は少しだけ遠慮がちな表情をしていた。
何かを頼む時の、少しだけ申し訳なさそうな顔だ。
最近になって、楓はその表情の意味をなんとなく理解し始めていた。
かーみ様「楓の部屋にある……
“ファミコン?”っていうゲーム、やってみたいんだけど」
以前、楓の趣味部屋に置いてあったコレクションのひとつ。
その古いゲーム機を、かーみ様はちらちらと見ていたらしい。
楓「ああ、あれですか」
「なるほど」と、楓は小さく頷く。
確かに、いきなりHD画質の最新ゲームを触らせるより、
昔ながらのシンプルなものから始めた方がいい気がした。
楓は押し入れからブラウン管テレビを引っ張り出し、
ファミコン本体と一緒に配線を整えていく。
コードを差し込み、チャンネルを合わせ、
少しだけ画面を叩くと――
画面が、ぶん、と小さく震えた。
楓「……よし」
カセットを手に取り、少しだけ考える。
楓「ここは、分かりやすさ重視でいいかな」
選んだのは、ごくシンプルな一本。
説明もいらないし、ルールも直感的。
楓「マリオでいいよね」
そう呟きながら、楓はカセットを差し込んだ。
ピコーン、と小さな音。
そして、見慣れたタイトル画面が映る。
かーみ様は、画面に映ったマリオを見るなり、ぱっと表情を明るくした。
かーみ様「あっ、これ知ってる!
歴史の本の中にあったんだ。代表的な日本のゲーム、って項目に」
感心したように、画面を指さす。
かーみ様「楓はすごいな。
こんなメジャーどころって言うやつを、ちゃんと手に入れてるんだな」
その言葉に、楓は表情には出さず、心の中だけで思う。
(確かに今はレトロブームで値段は高いけど……
遊ぶだけなら、ジャンクショップを巡れば普通にあるんだよな)
けれど、そんな現実的な事情を口に出すことはしなかった。
楓「操作は簡単ですよ」
コントローラーを手渡しながら説明する。
楓「十字キーで移動、Aでジャンプ。
Bは……まあ、押してみれば分かります」
かーみ様「ふむ、なるほど」
軽く操作を説明すると、
かーみ様はすぐにコントローラーを握り、ウキウキとした様子でプレイを始める。
ジャンプするたびに声を上げ、
かーみ様「おおっ、飛んだ!」
敵に当たれば悔しそうに唸り、
かーみ様「ぐっ……! 今のは当たり判定が厳しい!」
クリアすれば小さくガッツポーズ。
かーみ様「やった!」
その様子があまりにも楽しそうで、
楓は自然と微笑んでしまった。
――まあ、いいか。
そう思いながら、
かーみ様が俗世の遊びに夢中になる姿を、しばらく眺めている楓だった。
⸻
おまけ
――三ヶ月後。
楓の部屋を、ノックもそこそこに訪ねてきたかーみ様は、
開口一番こう言った。
かーみ様「楓、3DS貸して」
楓「早くないですか!!」
思わず即答でツッコミを入れてしまう。
楓「ついこの前まで、ゲーム酔いしてましたよね!?」
かーみ様「もう克服した」
楓「早すぎます!」
ついこの前まで、ゲーム酔いしてたのに。
進化の速度が、明らかにおかしい。
楓は内心で思う。
(この人……
勉学の神様とか、努力の神様として祀ったら、
それなりに参拝人、来るんじゃないかな……)
そんな現実的すぎる考えが頭をよぎるほど、
かーみ様は今日も、順調に俗世へと適応していた。




