楓とかーみ様との出会い
pixivで投稿していたシリーズをここに持ってきました。気軽に読める感じの作品です。
ここは、とある某県の奥地にある限界集落。
その中でも特に人の気配が失われた場所だった。
――いや、もはや村と呼ぶのもためらわれるほどに。
引越しスタッフと共に作業を終え、一息ついていた女性の名は本宮楓。
東京での喧騒、人の薄情さ、言葉にしきれない疲労。
それらすべてから距離を置くため、貯めた資産を使い、この地へと移り住んだ。
静けさだけが残るこの場所を、楓は悪くないと思っていた。
引越しを終えた後、近くに神社があることを思い出す。
楓「地元の神社には、引越しの報告をした方がいいよね」
そんな半ば習慣のような感覚で、参拝を兼ねて足を運んだ。
だが――
楓「……まあ、人がいない村の神社なら、当然こうなるよね」
人の気配はなく、境内は荒れ、社殿には錆と時間だけが積もっている。
楓はそう評しつつも、踵を返すことはしなかった。
財布を取り出し、中のお札を一枚抜き取る。
楓「本当は縁起を気にするなら、語呂合わせとか……
“良い御縁”とか、そういう額にするべきなんだろうけど」
一瞬だけ迷い、それでも決める。
楓「……ここは新規一転、だよね。1万円、入れよう」
丁寧に賽銭箱へお札を入れ、
二礼、二拍手、一礼。
その瞬間だった。
かーみ様「久しぶりの!! 参拝とお賽銭だ〜!!」
どこからか、はっきりとした声が響いた。
思わず顔を上げ、声の方を見る。
そこには――
場合によっては通報されかねないほど薄い布の着物をまとった、美人な女の子がいた。
賽銭箱の周りで、喜びの舞としか言いようのない動きをしている。
楓「あの〜……お嬢ちゃん、どこから来たの?」
楓がそう声をかけると、少女は動きを止め、目を見開いた。
かーみ様「えっ!!
……貴女、私が見えるの!?」
楓「えっと……はい、見えます。
“見えるの?”って聞くってことは……もしかして、幽霊……ですか?」
かーみ様「幽霊なんて失礼なこと言わないでよ。
私はこの村の土地神だよ!!」
胸を張ってそう言う土地神は、少しだけ不満そうに頬を膨らませる。
かーみ様「村人がいなくなったせいで、今はこんな感じの見た目だけどね。
本当は君たちの世界で言うところの……ボンキュッボンな女性なんだから!」
――ボンキュッボン。
楓の思考が、一瞬だけ現実に引き戻される。
その単語、今のご時世で口にしたら大炎上不可避では……?
というか、そもそも死語になりかけている気がする。
楓「……はぁ」
ため息を一つ吐いてから、軽く頭を下げる。
楓「わかりました。
お嬢ちゃん扱いして、失礼しました。改めまして、私の名前は――」
かーみ様「本宮楓でしょ?」
言葉を遮られ、楓は思わず目を瞬かせる。
かーみ様「大丈夫大丈夫。
私、参拝してくれた人の“心”を読めるから。それに記憶力もいいし、一発で覚えたよ」
にこりと笑い、続ける。
かーみ様「それに“本宮”って名字。
“宮”がつくってことは、先祖に貴族とか神官とか、そういう人がいたのかな?」
少し考えてから、楓は静かに首を振った。
本宮楓「先祖のことは、よく知りませんが……
もし、それが理由で神様が見えるのなら」
一瞬だけ間を置いて、柔らかく微笑む。
本宮楓「……素敵な縁だな、とは思います」
かーみ様「“縁”なんて言葉がすっと出てくるあたり、君は本当にいい子だね。
ねえ楓、よかったら……君の家に住み着いてもいいかな?」
楓「えっ!?
……別に構いませんが、こういうのって、無断で憑くものじゃないんですか?」
かーみ様「まあ、それが普通だね」
あっさりと頷いてから、少しだけ得意げに続ける。
かーみ様「でも私の主義としてはさ。
ちゃんと参拝してくれる子とか、私が“見える”子には、きちんと断りを入れておかないと落ち着かなくて」
その言葉に、楓は内心で小さく納得する。
見た目はかなり自由奔放だが――
やはりそこは、日本の神様。
礼儀というものを、きちんと大切にする存在らしい。
楓「……では、神様がよろしければ。ぜひ」
ほんの少し迷いながらも、楓はそう答えた。
こうして――
土地神様と楓との、奇妙で、そしてどこか神秘的な同居生活が始まったのだった。
⸻
おまけ
かーみ様「楓、私のこと“土地神様”って呼ぶの、言いづらいでしょ?
だからね、“かーみ”でいいよ」
楓「……かーみ?」
かーみ様「そう!!
昭和の初め頃かな。楓と同じく“見える子”がいてさ」
少し懐かしそうに目を細めながら、続ける。
かーみ様「その子がね、ずっと私のことをそう呼んでたの。
子供だったから発音が難しかったみたいで、自然と“かーみ”になったらしいんだけど」
えへん、と胸を張る。
かーみ様「可愛かったから、そのまま許可したんだ!」




