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第五話 『映えは偏差値に影響しますか?』

医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ・自習室。

タロウがスマホを掲げ、隣の席の(おわる)に話しかける。

「新勢力が現れたぞ」

「なんだ、模試の日程でも発表されたか?」


「いや、SNSだ」


「また精神を削る装置の話か」

「何ですか?」


通路を隔てた向かい側で自習していた五條と(しゅん)も話に乗る。


全員でタロウのスマホ画面をのぞき込んだ。


そこに映っていたのは写真や動画の投稿をメインとしたSNS・インスタグラミンに投稿されていた写真だった。


栗色の髪の毛の、可愛らしい女性。

彼女の正面にある白い机の上には化学Ⅱの参考書と

スターバックスのトールサイズのコーヒーカップが置かれている。

背景は白とピンクのカーテンに観葉植物。

シャープペンシルを持つ手にはキラキラとしたラインストーンの乗ったネイルもほどこされていた。


―――――――――――――――――――

今日も10時間集中

北関東医科大学、絶対合格する!!

#医学部受験 #医学生になる #浪人生活

#勉強垢さんと繋がりたい 

―――――――――――――――――――


「フォロワー(戦闘力)3021」


「なんだこの承認欲求の塊は」

「3021フォロワーってすごいですね。

これって同じクラスの白川(しらかわ)さんですか?」


「そうだ、白川 澪(しらかわ みお)。19歳・1浪」

タロウはこのアカウントの持ち主の名を3人に明かす。


「若い」

「若いな」

「やめろ4浪に刺さるぅぅぅぅ!」

4浪&5浪の浪人生トリオに10代は眩しすぎるのだ。


「皆さん落ち着いてください。ここは自習室ですよ」


そのとき。

「ここ、空いてますかぁ?」


振り向くと、写真と同じ人が立っていた。

ふわふわの白い半そでニットに、チェックのミニスカート、

ロングブーツといういで立ち。

メイクもばっちり決めているようだった。



――白川 澪……!!


俊が「どうぞ」というと、お礼を言いながら空席だった彼の隣の席に座った。

すると、カバンの中から参考書と文房具、

スマホスタンドを取り出して、セッティングする。

スマホを装着し、カメラのフィルターと角度も微調整。


カシャ。


「今なんか撮った」


突然現れた張本人と撮影風景に興奮したタロウが小声でささやく。


「集中しましょう、僕らは勉強しに来てるんですから」


最年少のその一言で、3人はそれぞれ参考書に向かいなおす。


一時間後。

生物の課題を終わらせたタロウが先ほどのインスタ女子・澪が目に入った。


「……あれ」

「どうした」

終が声をかける。


「白川澪、まだペンが動いてない」


澪はスマホスタンドを触っている。写真の構図を微調整しているようだった。

机の上には色とりどりのノートに単語帳と、装備が増えていた。


隣の俊が声をかける。

「机、きれいですね」

「ありがとうございますぅ」


俊の言葉は受け取り方によっては嫌みだったが、

彼女には全く響いていないようだった。


「勉強時間より撮影時間のほうが長いのでは」

この世でインスタ映えから最も遠い人間であろう、

五條がぼそっとつぶやく。


「やめろ」

タロウは思わずツッコんだ。


________________________________________


夜。タロウはいつもの3人と予備校のロビーで夕食を取りながら、SNSを徘徊していると白川澪のアカウントが流れてきた。


先ほど1時間以上調整して撮影したのであろう写真がさっそく掲載されていた。

タロウは突然の対抗心が湧き、

「よし」

と言って、スマホのカメラで写真を撮り、いそいそと何やらスマホで文章を書き始めた。


「何を始めたんだ」


「投稿!!!!!!!」

タロウは「シェア」ボタンを押した。


「何してるんですか」


タロウは得意げにスマホ画面を見せる。


そこには、すぐそこのコンビニで買ってきたカップラーメン シーフード味と肉まん。

それにペットボトルの麦茶。

すなわち、今目の前にあるタロウの食べかけの食事たちの写真。


ちなみに、アイドルの写真を見るために登録だけしていたタロウのアカウント名は「多浪のタロウ」だ。


今撮影した写真に文章を添える。


――――――――――――――――――――

今日は12時間集中

北関東医科大、射程圏内。

#浪人生 #多浪でもやれる

#勉強垢さんと繋がりたい

――――――――――――――――――――


「12時間もやってませんよね…?」


実際は勉強7時間+昼寝+コンビニ往復  etc etc…


「SNS上の俺は無敵だから」

「それを見栄っていうんですよ…」


ピロン。タロウのスマホに通知が1件入る。


―――――――――――――――――――――

白川 澪(@mio_shirakawa0908)があなたの投稿に「いいね!」しました。

―――――――――――――――――――――


「白川 澪、釣れた!」

「何を競ってるんだ」

終はあきれた声でツッコんだ。


するとタロウのアカウントに白川澪からダイレクトメッセージが届く。


――――――――――――――――――――――

@mio_shirakawa0908

多浪さん本当に尊敬します…!

私も頑張らなきゃ。

――――――――――――――――――――――


「尊敬されてるぞ」

「「12時間勉強」の虚偽報告でな」

「罪悪感ありませんか」


「ある」


タロウは張り合って投稿してみたものの、

ライバル(?)の余裕の対応を目の当たりにしてなんとも微妙な気持ちになりながら課題に戻るのだった。


________________________________________


【共通テストまで 258日】


その日の澪の実勉強時間は6時間だった。

その6時間は予備校の授業を受けていただけだった。


だが、SNSの投稿文は「今日も9時間集中!」と書きこむ。


自習に充てられる時間は 投稿用の写真を撮ることや、他のライバルアカウントの投稿研究、大学生活を送る同級生の投稿などを見ていたらいつの間にか消費されてしまっていた。


しかしコメント欄には

「今日短くない?」

「浪人女子は時間勝負だよ!」

というメッセージが届く。


澪はそれを見て固まる。

鼓動が早くなった気がした。

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