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第四話 『DEAD判定』

【共通テストまで 267日】


医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ・自習室前。

今日は全国統一記述模試の返却日。


掲示板に貼り出されているのは

【校内総合順位】のみ。


判定は公には出ない。


志望校が違えば意味がないからだ。


だが――


4人は、同じ志望校を記入している。

第一志望:北関東(きたかんとう)医科大学(いかだいがく)

偶然ではない。


タロウが最初に書き、

(おわる)が無言で合わせ、

五條が「統一した方が比較できる」と言い、


俊が当然のように同じ欄に記した。


だから今日、4人の中では判定を共有するだろう。


________________________________________


教室で封筒が一人ずつ配られた。

ペラペラの薄い封筒が、やけに重く感じる。


「この瞬間が一番寿命縮むぅ……」

タロウが緊張をごまかすためにおどけて見せると


「まだ生きてるから大丈夫だ」

「未開封は可能性の塊。開けない限りはA判定だ」

「さっさと開けましょう」


と3人が口々に言う。


真っ先に封筒を開けたのは俊だった。


________________________________________


(しゅん)は折りたたまれた成績表を開くと、こちらに向かって見せてくる。


北関東医科大学

A判定


「やっぱりなあ~~」

「揺るがないな」

「安定のA。さすがだ」


「でも前回より偏差値は少し下がっています」

俊は嬉しそうにする様子もなく、冷静に言った。


「Aの中での誤差報告いらない!!」

「でも、北関東医科大のAは、意味があります」


その一言に、3人は少しだけ頷く。

ここは簡単な大学ではない。


彼らの地元・茨城県にある北関東医科大学は全国に約80校ある医学部の中でも偏差値上位に位置する。

一昨年にキャンパスがリニューアルしたこと、関東にあることも手伝って人気が高い。

大学病院では特に外科系が有名で、著名人が手術するニュースなどではよく耳にする。外科志望の生徒にとっては憧れの大学であった。


________________________________________


次に覚悟を決めた終が「よしっ」とつぶやきながら封筒を開く。


判定用紙のとある一点で視線が止まる。


北関東医科大学

D判定


「……D」

感情のない声で終は読み上げた。


「前回はCだったな」

五條はデリカシーがない。


「ああ」


声は平静。

だが、親指が紙を強く押し、皺が寄っていた。



「この時期にD判定ならまだ十分狙えます」


俊もまた、事実を述べただけだった・


「“まだ”は便利だな」


「Dは射程圏外ではないだろう」

「だが合格圏内でもない」


言葉の端に、かすかな疲労がにじんでいた。


浪人生活4年目、毎年同じことを繰り返している。

モチベーションを維持し続けるのは並大抵なことではない。


________________________________________


次に五條。


封筒をゆっくり開いた。


北関東医科大学

D判定


横から覗き見るタロウ。

「五條さんもD?」


「前回E判定だっだ。上昇だな」


「すごいです。5浪目のこの時期に成績が上がるなんて」

俊の言葉は事実であり天然である。


「だがやはり北関東医科大は甘くない」


「Dが並ぶと現実味があるな」

終はぼそっとつぶやいた。


________________________________________


タロウが最後に封筒をひらいた。


そして数秒、黙る。

ほかの3人は彼の言葉をじっと待った。


北関東医科大学

E判定


「……」


「タロウさん」

俊が口火を切った。


「はい、E」

タロウは紙を両手で開いて、3人に見せる。


「厳しいな」と、五條。

「北関東医科大、俺のこと嫌いなのかなあ?

もうアタックして4年目なのに」


「実力だろう」

真顔で言う五條。

終と俊もうんうん、とうなずいた。


「ふざけないとやってられない!正論やめろ!」


________________________________________


4人は机を囲み、俊が模試の判定結果を並べる。

A

D

D

E


「嫌な並びだなぁ」

一番下の判定だったタロウは少し気まずそうだった。


「じゃあ並び替えますね」


俊は紙の順番を入れ替える。


D

E

A

D


沈黙。


「……」

「縁起でもない」

「完成したな」




「え? 何がですか」


俊は本当に3人が何のことを言っているのか理解していないようだった。


「いやいやいや、

お前が並び替えたせいでDEADになっちゃったじゃねえか」


「A一人、D二人、E一人」

「ふむ、バランスはいいな」


「よくねえよ!! 俺がE担当かよ!!」

タロウはそう叫んで、絶望を表現するべく大げさに机に突っ伏してみせた。


「物語的にはな」

終は励ましているつもりのようだが、タロウには全然刺さらない。


「そうだ、物語に起伏は必要だ」

五條さんも同様だ。


「浪人に演出いらん!!!!」


浪人トリオがぎゃーぎゃーと騒ぐ中、俊だけがじっと見つめていた。


「でも」

俊の言葉で、3人の動きが止まった。


「僕だけA判定なの、怖いです」

「何を言う。もっと誇れ」


五條さんは年上らしく、真面目な面持ちで俊を励ました。

自分はD判定のくせに。


「見てください、今回の模試の北関東医科大の志望者数、

3296人です」


俊は模試結果の順位の箇所を指さした。


「この人数が本番に向けて、全員追い上げてくるってことですよね。

皆さんみたいに」


「そうだ」


「Aだとしても安心できません」

俊の表情は珍しく固かった。


「天才のくせに重いなあ」


「落ちたらどうなるか、僕は知りません」


そうつぶやく俊の横顔に、年相応の幼さが見え隠れした。


「おい、俊。deadってのはな」

珍しく語気の強い終の言葉に、俊が思わず姿勢を正す。

「はい」


「過去形、つまり確定した状態の言葉だ」

「だから縁起悪いってぇ」


タロウの叫びを無視して、終は続けた。


「でもこれは、まだ模試だ。本番じゃない。

D判定もE判定も、途中経過にすぎない。俺たちはまだ死んじゃいない」


その終の熱いセリフに、俊は少し笑顔を見せ、

そして、そうですね、と大きくうなずく。


「北関東医科大、4人で取りましょう」


「Eから?」と、タロウ。


「Eからです」と、俊。


「Dからだってできる」と、終。


「Aも油断すれば落ちる」と五條。


「だから4人で、DEADを撤回しよう」

「はい」


「そうだ、俺たちはまだ生きているんだから」


「いや五条さんは5回死んでます」


一同、笑いに包まれた。

俊の面持ちも少しだけ軽くなった。

縁起は良くないけど、4人の判定が一つの単語になったことで

タロウはこの4人に不思議な連帯感が生まれチームになったように感じられた。



北関東医科大学。

同じ山を見上げる4人。


Aはまだ見ぬ未来に恐怖を覚えはじめ、

Dは不安を抱え、

Eは笑って隠す。

だが、誰も志望校を変えない。

DEADと笑った日。

それは、まだ終わっていない証だった。

あとがき小話「タロウと1ポイントの神」



タロウは今回の模試もE判定だった。

「あと1点あればD判定だったんだけどな……」

机に突っ伏す。

そのとき、天井がピカーンと光った。


白いヒゲの老人が現れる。


老人は白いひげを揺らしながら言った。

「ワシは受験の神様。願いを言え」


タロウ、すかさず言う。

「北関東医科大学合格」


「それは荷が重い」


「じゃあ、この前の模試、あと1点追加して」


「……」

神様、渋い顔。


「1点は世界を変えるのだぞ?」

「知ってる。だから欲しい」


「では問おう。この物語を読んでいる者たちよ。

タロウに1点を授けるか?」


「いや圧かけるな」


「ワシは圧ではない。善意の誘導だ」


「それを圧って言うんだよ」


神様はため息をつく。

「まあ強制ではない。だが1点で世界線は少しだけ変わる」


「ほんとに?」


「作者のやる気がな」


「そこかよ」



というわけで。

もしよろしければ、

タロウの“あと1点”を

そっと置いていっていただけると嬉しいです。

神様はたぶん喜びます。

作者は間違いなく踊ります。

タロウは……

次こそD判定を目指します。

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