表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/31

第三話 『番号が、ない。』

夜。

医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティの自習室。

時計の針は23時47分を指していた。

現役生は補導される時間なので、最後まで残っているのは浪人生だけだ。


末永 終(すえなが おわる)(4浪・22)は一人、問題集を閉じる。


「……今年で終わりだ」


今日もおまじないのようにつぶやきながら、カバンに赤本をしまった。


その下に置いていた高卒用の国家公務員試験 一般職 過去問集。


終は無言でそれも入れる。

電気を消し、彼は自習室を後にした。


________________________________________


自宅に戻り、シャワーで入浴を済ませ

終はそうそうに布団に入る。


目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。


彼は夢を見た。


午前10時。

パソコン画面には【北関東(きたかんとう)医科大学(いかだいがく) 合格発表】と表示されている。


自分の手元の受験票を見るとそこには

受験番号:10218

と記載されていた。


その番号を探してスクロールしていく。


10197

10201

10210


「ある……今年はある……」


10215

10216

10217


「次だ……」


10221


「……」


スクロール戻す。


10215

10216

10217

10221


「…………」


夢の中にもかかわらず、心臓の音だけが響いた。


ドクン。

ドクン。


画面が滲む。


F5、再読み込み。


さらにスクロールすると

【補欠者番号】の文字が浮かぶ。


10218


「……あった」


思わず椅子から崩れ落ちる。


「あった……」


医学部の補欠者からの繰り上げ合格は多い。

きっと大丈夫、通知は来るーー。


そう信じて彼はブラウザを閉じた。



しかし。


ポストを毎日確認したが、来る日も来る日もその知らせはなかった。


一日目。

なし。

二日目。

なし。

三日目。

なし。


そして四日目、スマホに通知が入る。


メールの件名は【補欠繰り上げ終了のお知らせ】


「…………」


するとみるみるうちに、スマホの画面が歪む。


補欠番号がどろりと溶けていく。


10218が崩れていく。

1

0

2

1

8

自分の受験番号が消える。

前の番号の10217と後ろの番号の10221だけが残った。


「違う……違う……俺は……」


大きく心臓が跳ねて、終は目が覚ました。

時計を見ると4時12分を指している。


「……またか」

夢だということにはすぐに気が付いた。


もう何百回と、彼はこの夢を見ていた。


「番号は、あったんだ」


終は小さく呟く。


「でも、届かなかった」

________________________________________



今日も今日とて予備校。

昼休み、タロウは菓子パンをかじっていた。

母親が「今日は弁当作りの気分じゃないから」と休業を申し出たためだった。


「顔色悪いぞ」

終に向かって、言う。なるべくあっけらかんと。


「夢を見た」

終はぼそっとつぶやいた。


「番号が飛ぶやつか」

「定番なんだそれ」


________________________________________


「補欠」は、希望ではない。

猶予だ。現実を突きつけられるまでの、猶予。


そして猶予は、人を縛る。


あの時の「補欠合格」が終に

「あと一歩」の後悔と希望を残してしまった。


末永終。

4浪。

彼が終わらせたいのは、浪人生活ではない。

“番号があったのに、届かなかった自分”。

医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティでは

今日も誰かが、番号がある夢を見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ