第二十五話 『いざ、出願』
共通テストが終わってほっとしたのもつかの間、
次の日には全員、二次対策モードに切り替えている。
共通テスト終了から、二次試験の間で受験生たちの頭を悩ませるのは
「どこの大学に出願するか」だ。
出願締切3日前。
タロウのパソコン画面には、北関東医科大学の出願ページが開かれている。
そしてそのほかにもう一つ、出願ページを開いている。
青森医科大学の出願ページだ。
こちらは後期受験の出願だ。
国立大学の二次試験は前期・後期の2回チャンスがある。
前期日程は2月下旬に開催され
その前期日程の合格発表後に、後期日程は開催される
後期はセカンドチャンス、と言ったところだ。
ただし合格枠数は前期日程のほうが多いので
大体が前期日程の時に本命の大学を受け、
少しレベルを落として、安全校を受けるというのがセオリーだ。
北関東医科大学の二次配点が頭をよぎる。
共通テスト:950点、二次:1400点 合計2350点
共通テストがボーダーライン上だったタロウは
二次試験はミスできないということだ。
タロウはマウスを握ったまま固まっていた。
前期後期ともに、北関東医科大学を受けるか、
後期は少しレベルを落とすか。
どっちだ。
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翌日。
医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ・出願相談ブース。
いよいよ迫る出願締め切りを前に、担任講師と面談をしていた。
「北関東医科大一本は、正直ギリギリラインです」
「わかってます」
「君が北関東医科大学に強い熱意を持っているのは、一浪の時から知っています。
でも4浪となると、後期は少しレベルを落とすのも手です。
正直、君の偏差値なら私立大学医学部の後期も可能性がある」
「……少し考えていいですか」
曖昧な回答をして、タロウは相談ブースを後にした。
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面談を終えて、廊下に出るとたまたまトイレの帰りの俊に出くわした。
「後期、どうしました?」
「悩んでる……。俊は? 私大とか、どっか出願した?」
「僕は兄と同じ、慶順会だけ受けます」
北関東医科大学1本か、
前期と後期で受ける大学を変えるか、
私立大学も受けるか……。
タロウは他の仲間たちはどうするか、聞いて回ることにした。
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澪は迷っている。
「私、後期どうしよ~」
「出したいなら出せばいいじゃん」
「でも北関東行きたいし、でも2浪は嫌だし……」
「じゃあ覚悟決めろ。てか4浪に失礼だぞ!!」
「重い。てか同じく悩んでるタロウさんに言われたくな~い」
ぐさっ。
それはその通り。
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黒岩は静かに言う。
「俺も前期も後期も北関東医科大学一本でいくよ」
「黒岩さんも?」
「行くなら北関東医科大がいい。
経済的に私立医学部や他県に出るのが難しいのも正直ある。」
「……重い」
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五條は違う。
「俺は私立も出す。倉敷医科大と、北林大と、東方大と……」
「欲張るなあ」
「浪数を重ねるとリスク管理も大事になってくる」
終が横から言う。
「俺は北関東医科大学一本。公務員試験もあるし」
「お前だけ人生二本立てやめろ。で、そっちも進んでるんだろ?」
「まあ…ほどほどに」
終はピースする。
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夜。自宅に戻って夕食を終えると、
タロウは自室でパソコンを開いた。
北関東医科大学の出願ページに行く。
「最終確認」
ページを上からなぞっていると、
父が後ろから声をかける。
「私立は、後期もいいのか?」
タロウは振り返ってこたえる。
「いい、出さない」
「……学費は別に気にしなくていいんだぞ」
「してない。それに今年で終わらせるから」
父はゆっくり言う。
「後悔するなよ」
「4回してる。……でも、逃げ道あると俺、たぶんそっち行くから」
父の口元がわずかに動き、笑った。
「……そうか」
その柔らかい答えに少しタロウも落ち着き、
そのまま送信ボタンを押した。
カチ。
――出願が完了しました――
後悔は4回してる。
でもそれは、後期の大学を変えなかったことではなく
合格に届かなかった自分に、だ。
タロウはどうしても北関東医科大学に行きたかった。
タロウは椅子の背もたれに背中を預け、深く深呼吸をした。
逃げ道は消えた。




