第二十二話 『合格祈願と即・勉強』
【共通テストまで 14日】
最後に頼りになるのは自分だけといえども、神頼みくらいはしたくなる。
1月2日。
その年の正月は寒波が日本列島を襲い、
普段はあまり雪の降らない タロウたちの住む茨城県水戸市でも
少しだけ雪がパラついていた。
そんななか 医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティのメンバーは、
常盤神社に集合していた。
「なんで三が日に集まってんだ俺ら」
寒がりの終が唇を紫にしながら、愚痴をいう。
ニット帽にマフラー、ダウンジャケットというフル装備だ。
「何を言う。これは通過必須な正月イベントだ」
「まあまあ、合格祈願くらいいいじゃない」
合格祈願を言い訳に、少し息抜きをしたい五條とタロウは
終をなだめる。
俊と澪、黒岩も午前中だけなら、と集合時間に集まってきた。
常盤神社は2代水戸藩主・徳川 光圀をまつる神社で
この地域の人に愛される大きな神社だ。
元旦を過ぎているにも関わらず、境内には参拝客が長蛇の列を作っていた。
その列に予備校生たちもぞろぞろと並ぶ。
前にはカップル、
後ろには小さい子供を二人連れた一家。
そこに挟まれる浪人生集団。
皆新年を迎えて晴れ晴れとした顔をしているが
共通テストの最後の追い込みをしている予備校生たちは一様にやつれているため、異物感が漂っている。
「俺たちの願いだけ、重いな」
「医学部志望6人同時は重いかもな」
「神様もキャパ超えるんじゃないか」
もはや神頼みの浪人生トリオは神様のキャパを心配し始める。
「ここは学業成就のご利益がある神様ですよ。キャパはこんなもんじゃないです」
俊は本気で心配する3人をなだめた。
澪はくすくすと笑った。
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ようやく賽銭箱前まで来るとタロウは100円を入れる。
今までのお賽銭の中で最高額だ。
――北関東医科大学合格。
――今年こそ受かりますように。
――マークミスしませんように。
――共通テスト前日にちゃんと寝られますように。
――圧迫面接じゃありませんように。面接官が優しい人でありますように。
――二次試験の生物、伴性遺伝の問題が出ますように。
予備校生たちの願いはやたら具体的であった。
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「あっせっかくだからおみくじも引きましょうよぉ」
映え女子・澪が男性陣に提案する。
そして結果。
タロウ、大吉。
終、吉。
五條、末吉。
俊、小吉。
黒岩、吉。
澪、大吉。
「キターーー!!! 医学部確定演出ぅ!!」
タロウ、大げさにガッツポーズ。
おなじく大吉の澪は
「大吉が一番インスタグラミン映えする」と言って
五條に写真を撮らせていた。
「関係ありません」
そう言いながら俊が意外と気にしているのか、
おみくじを枝の一番高いところに結んだ。
「へへっ俺は財布に入れとこ~」
タロウがニヤニヤしていると
横にいる終が「ここ、よく見てみろ」という。
学業:努力を怠ると運を逃す。
「急に釘を刺すな」
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おみくじに不安になったのか、タロウは急に「絵馬を書こう」と言い出す。
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北関東医科大学合格
医学部専門予備校メディカル∞インフィニティ 絶賛4浪中 越知内タロウ
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絵馬の余白をすべて埋め尽くす、でかい字だ。
「これ落ちたら公開処刑だぞ」と、終。
「これメディカル∞インフィニティのネガティブキャンペーンだろう」と、五條。
「退路を断つスタイルかっこいいな」と、黒岩。
「自分へのプレッシャーは有効ですよ」と、俊。
それぞれ好き好きに言いながら
絵馬を書いていく。
書くことは一つ「北関東医科大学合格」
「みんな叶いますように」と、澪がつぶやいた。
結んだ絵馬が風で揺れる。
他の参拝客が結んだ願いも揺れている。
カタカタとなる音がやけにみんなの胸に響いた。
帰り道、胃もたれする、と文句を言いながら
全員でたこ焼きをかじった。
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6人は結局、電車で一駅乗って、
そのまま医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティへ向かった。
正月だが自習室は開いている。
受付しかいないと思ったら講師も出勤して質問を受け付けていた。
「初詣→即自習室ってなに」
自習室はひときわ静かで、ページをめくる音だけがやたら響く。
さっきまでふざけあっていたのに、一気に空気が変わる。
タロウは苦手な英語長文を開いた。
どれだけ神頼みをしても、神様は点数はくれない。
やるべきことをやったときにしか、効果を発揮しない。
共通テストまであと2週間切った。
いよいよ近づく第一関門を考えると、受験生たちの鼓動は早くなる。
「来年は初詣だけで終わらせような」
「医学部生として会おうね」
「その後は屋台フルコース」
「「「「「重い」」」」」
仲間との軽口をたたくと少しだけ呼吸がしやすくなった。
再びページをめくる紙の音と、シャーペンの音だけが聞こえる。
戦いが始まる。




