第二十一話 『浪人生たちのメリークリスマス』
【共通テストまで 23日】
盆も正月もないと言われる浪人生だからこそ、
イベントを楽しむ人々は逆に目についてしまう。
12月24日。
世間はクリスマスシーズンで、街は色とりどりのイルミネーションや、
クリスマス商戦でにぎわっていた。
街を歩くカップルも日に日に増えていくのは気のせいなのか、否か。
一方、医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティでは
受付に小さなクリスマスツリーが飾られる程度だ。
「なんで俺ここにいるんだぁッ」
タロウは教室につくなり、頭を抱えた。
街の浮かれた空気に脳をやられたらしい。
「浪人生だから」
「恋人がいない言い訳ができるからちょうどいいじゃないか」
「花の22歳、彼女・一度もいたことなし……切ねえ……」
しかし、夕食休憩にラウンジに行くと
なぜか机の上にケーキが載っていた。
澪がわざわざ自宅で作って持ってきてくれたようだった。
「小さめだけど、息抜きになればと思って」
照れたように笑う。
ただインスタグラミン用の写真撮影は欠かさない。
「“小さめ”とは」
大の大人の手のひらが4つは入りそうなホールケーキ。
でかい。
それを見たタロウは、なにかが切れた。
「今からパーティーという名のメンタル安定療法を行う!!」
ええーっと言いつつも、皆どこかいやではなさそうだった。
朝から8時間は勉強している。
今日は少しくらいの息抜きがいいだろう、という空気が漂っていた。
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「第一回・浪人生クリスマス会を始めます!!」
タロウが堂々の開会宣言。
集まった終、五條、俊、澪、黒岩が拍手で盛り上げる。
机の上にはコンビニで買ってきた、
ポテトチップスなどのお菓子類。からあげ。
コーラやお茶などバラエティに富んだ飲み物で
机は一気に華やかになる。
澪に至ってはサンタ帽までかぶっていた。
「どこで買ったんですか」
「すぐそこの百均に売ってた」
ちゃっかり最年長・32歳の黒岩も被っていた。
子供のために今日くらい早く帰るのかと思いきや
娘さんは奥さんと義理の両親と旅行に行っているらしいので
遅くなっても平気なのだという。
澪の作ったケーキを早速いただき
男たちは「脳に染みる」とありがたくすべて間食した。
映え重視かと思いきや、中身も美味しかったのは失礼ながら少し意外だと全員が思っていた。
催し物その1:プレゼント交換
プレゼントは
・予算500円程度
・受験グッズ限定
というルールで、それぞれ30分の制限時間で買ってきたものだ。
山下 達郎の「クリスマス・イブ」を流しながら
それぞれプレゼントを回した。結果はこうだ。
【タロウ→俊】スーパークール目薬(眠気覚まし用)
「これはめっちゃ使う。助かります」
【俊→黒岩】単語帳
「ありがとう。最近は暗記アプリも増えたけど、結局暗記はこれだよね」
【澪→タロウ】繰り返し使える可愛いカイロ
「優しさが沁みる」
【終→五條】チョコ(ブドウ糖)
「ヒーラーに糖は必要かと思って」
「やめろおおおおお!俺はもう引退したんだ!」
【黒岩→澪】合格お守り
「合格守りは何個あってもいいっていいますもんね~」
【五條→終】エナドリ2本
「五條さんのエナドリとか、悪夢見そう」
「今さら?」
全員が突っ込む。
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催し物その2:謎ゲーム開催
「次はああああああああ!!!!
医学部浪人生あるある言えるまで帰れま10」
「帰ります」と現役生である俊が逃げようとする。
もちろん却下。
「親戚に“まだ浪人してるの?”って言われる」と終。
「高校の同級生はもう大学卒業して社会人になってる」と五條。
「模試の判定でメンブレするぅ」と澪。
「時間が足りない」と黒岩。
一人一人が発言するたびに、きゃーっと盛り上がっていたのに
空気一瞬重くなり、全員の動きが止まる。
「はい終了!重い!」
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こうして浪人生クリスマス会は終わった。
時刻はまだ22時過ぎで、街は駅前のイルミネーションを見に来た幸せそうなカップルたちでまだ溢れていた。
「俺らにイルミネーションは無縁だな」
タロウが舌打ちすると五條が首を振った。
「何を言う。光源なら蛍光灯があるだろう。しかも一人一つ」
「白色オンリー……」
まあまあ、と黒岩が二人をとりなした。
「でも、来年は違うかも」
全員、少し黙る
ふと、タロウが言う。
「来年の今頃さ」
「うん」と誰かが相づち。
「医学部生だったらどうする?」
皆が少し無言になった。
年が明けたらすぐに共通テストだ。
受験がいよいよ現実味を増し、夢を語るのが、もう怖くなっていた。
「ネトゲ解禁」
五條が口火を切る。
「五條さん、進級も危なそうだから
たとえ医学部生になってたとしてもまたクリスマスはなさそうです」
俊がまた真顔で正論。
みんなが笑った。
「来年のことはわからないけど、また集まろうよ」
澪が優しい口調で言う。
皆が照れ臭そうに、でも嬉しそうに
それぞれ「ああ」とか「うん」とうなずいていた。
あとがき小話「澪と1ポイントと通知欄」
白川 澪も模試結果を見る。
北関東医科大学:E判定
「え〜、惜しい〜。あと1点でDだったのに〜」
ぱしゃ。
成績表の端っこだけ写して
澪御用達SNSのインスタグラミンにストーリー投稿。
《あと1点ってなに!?》
いいね♡ 12
「え、みんな反応早くない?」
そこへ、画面がピカッと光る。
神様からDMが来たようだ。
「願いを言え」
「え、どなたですか?相互フォロワーさんですか?」
「神だ」
「公式マークついてないですよ?」
「……」
「公式マークの付け方、伝授しましょうか? 課金制ですけど」
「いらぬ」
「じゃあ願いは〜」
少しだけ間。
「あと1ポイント、ほしい」
「医学部合格や、いいね数を稼ぎたくはないのか?」
「だってそれは自分で頑張らなきゃどうにもならないし」
なんだかんだ、澪は芯が強い。
「1ポイントほしいなら、ちゃんとクレクレしないとな」
白川、カメラを自分に向ける。
「もしよかったら〜
この物語にも“いいね”してくれたら嬉しいですっ!」
澪は決め顔でウインクしてみせた。
「あざといな」
「だって紅一点だから頑張らなきゃと思ってぇ……」
澪は恥ずかしさで顔を手で覆っている。
というわけで。
もしよろしければ、
白川の“あと1点”を
そっと置いていっていただけると嬉しいです。
神様はたぶん喜びます。
作者は柄にもなくインスタグラマーを目指します。
澪は……
さらなるいいね獲得を目指します。




