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第二十話 『模試E判定芸人』

季節は10月に入った。

空は高く、風はだんだんと冷たくなってくる。

今日もまた、模試の結果が返ってくる。

秋はとにかく模試が多い。

夏の成果を図るため、そして試験ラストスパート前の最後のブーストをかけるタイミングだからだ。


タロウはふうーっと長めの深呼吸をした後に、

びりびりと手で開封した。


模試1つ目

北関東(きたかんとう)医科大学(いかだいがく):E判定


「……」


「どうだった?」


「E判定芸人に、俺はなる」



夏明け。

まあ想定内だ。

「ここから上げれば大丈夫」

ネトゲはまだアンインストールしていなかった。


________________________________________


模試2つ目

北関東医科大学:D判定


タロウは得意げに模試結果の紙を友たちに見せた。


「おお、ようやく」

「波が来てるじゃないか」

「努力の成果だねぇ」

「まだDです」

「浮かれんなよ」


タロウ、少しだけ北関東医科大に合格した未来を想像した。


――今年はいけるかも…!?


これが危険思想なことも知らずに。


________________________________________


模試3つ目

北関東医科大学:E判定


「戻ったぁああああああああああ!!!!!!」


「なんで戻ったんだ」

「潮の満ち引きみたいなものなのかな」

「それなら仕方ない、自然現象だからな」


(おわる)と五條と優しい(みお)の励ましに、タロウはうんうん、とうなずく。


(しゅん)は模試結果の紙を見て

「いえこれは自然現象ではありません。

結果を見ると、暗記問題が特に取れていない。

シンプルに勉強量の問題です」


数字に強い、元やり手MRの黒岩も結果には厳しい。

「そうだな、夜更かしの問題だ」


全員、タロウを見る。

目は赤く充血しており、大きなクマを作っていた。

「「「「お前まさか…」」」」


「たまにだって」

「ビーストクエスター」今週のログイン時間:累計47時間


________________________________________


模試4つ目

北関東医科大学:C判定


「C!!!!」

模試結果の紙を見て、タロウが思わず叫ぶ。

驚きすぎて、女の子のような甲高い声になっていた。


教室は一気にざわつく。


「ええっ! タロウさんすごい……!」

澪は素直に手をたたいて賞賛した。


タロウはこの初めてのアルファベットに、判定表をまじまじと見つめる。


“C判定――合格可能性があります”


「あ、あ、あ、可能性あるって書いてある……」


動揺で産まれたての小鹿のようにうるんだ目をしながら全身を震わせている。


「ほら、タロウさん可能性はあるんですよ」


珍しく俊がタロウを褒めた。

彼も心から嬉しそうだった。


タロウはその夜、自分へのご褒美にネトゲにログインした。

このままやれば今年は受かる、と錯覚した。

最低だ。

危険思想その2である。


________________________________________


模試5つ目

北関東医科大学:E判定


「さすがE判定芸人」

「まあまだ模試はあるから」と黒岩が励ます。


「安定しませんね……」

俊は心底悔しそうだった。


タロウはその表情を見て、少しだけ胸が痛くなった。


________________________________________


夕方。

自習室の窓が鮮やかなオレンジ色に染まった。

秋の夕暮れは色が一層濃いように感じる。東の空からは深い紺色の夜を連れてきていた。


夏、頑張った“つもり”だったのに、秋はネトゲでつぶしてしまった。

結果 成績は乱高下している。


タロウはぽつりとつぶやく。

「俺、何やってんだろ」


Cが出た瞬間、夢を見てしまった。

ずっと遠くにあったものが急に現実味を帯びたせいで、想像してしまったのだ。

医学部に入る自分を。医者になる、自分を。



終からLINE。

グループチャンネルのほうに反応がないので、個別で送ってきたのだろう。


末永 終(すえなが おわる):今日ログインは?】


既読。

未返信。


五條からも来る。


五條 政宗(ごじょう まさむね):今日来ないのか?】


既読。

未返信。


俊からも来る。


早瀬 俊(はやせ しゅん):弱点ノート作りますか。】


即返信。


越知内(おちない) タロウ:頼む】


秋は短い。もう間もなく冬がやって来る。

タロウは模試の問題用紙を開き、どこでミスをしたのか見直していた。


「E判定芸人は引退する」


まだ言うだけ。

だが、その覚悟は今までよりも少し、熱くタロウを燃やしていた。

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