第十九話 『秋、そして堕落』
基本的に平日は夜19時以降、休日は朝8~10時に更新。
たまに一日に複数話投稿することもあります。
【共通テストまで 135日】
人はなぜ“息抜き”を“生活の一部”に昇格させてしまうのか。
9月に入り、地獄のような夏期講習がようやく終了。
やり切った感、達成感。
「これだけやったら受かるわ」という謎の自信。
「俺、やったわ」
「ああ、やったな」
「今年はいける気がするな」
タロウ、終、五條は謎のグータッチ。
運動部出身じゃない彼らはこういう儀式にやたら憧れがあるのか
頻繁にスポーツ漫画のようなノリを始める。
夏休みなどない浪人生たちだったが、
夏の「非日常感」は彼らをやたらハイにさせていた。
「このまま気を引き締めて頑張ろうな!」
「「オウッ」」
彼らの目はたしかに燃えていた。
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3日後。
夏期講習生がいなくなって、少し静かになった自習室。
「なあ」
終がタロウと五條に話しかける。
「ん?」
「息抜きにさ、ちょっとだけネトゲやらん?」
フラグ。
終が「最近流行ってるんだって」といって二人にスマホでゲームのHPを見せた。
「ビースト・クエスター」
巨大なモンスターを仲間と協力して狩る無料アクションゲームだ(一部課金制)。
アプリ版とブラウザ版があり、綺麗なグラフィックで若者層の話題を集めている。
「最近よくCMで見るやつ」
「秋は長いしな」
五條がその誘いに乗る。
名言のようで堕落宣言だった。
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その日の夕食休憩中。
医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ ラウンジにて。
さっそく3人は自分のアバターとなるキャラクターを作成した。
タロウ【アカウント名:Dr_TARO】
終【アカウント名:終末覇王】
五條【アカウント名:Gojo_Sense】
「なんでお前そんな厨二なんだよ!」
「いや、俺は世界救うから」と、終。
「俺はヒーラーな」と、五條。
「なんでだよ。一番医者っぽいやつ取るな」
「ほら、俺ってつくすタイプだから」
五條はかわいこぶってみるが、現実ではつくされてばかりだ。
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最初は一日30分の約束だった。
1時間の夕食休憩中のうち、30分だけやろうと。
それが日に日に増えていく。
1時間。
2時間。
3時間……。
気づけば夕食休憩中だけではなく
帰宅してからも無料通話アプリを繋ぎながら集まるようになっていた。
「ボスだけ」と、タロウ。残り二人はうなずく。
「このダンジョンだけ」と、終。残り二人はうなずく。
「デイリーだけ」と五條。残り二人はうなずく。
あっという間に深夜2時だ。
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一週間後。
その日は全日本統一共通テスト模試があり
いつものメンバーで自己採点していた。
タロウ、終、五條ももくもくと臨む。
「……」
「……」
「……」
3人は終始無言。
偏差値、ガタ落ち。
「皆どうでしたぁ?」
地獄の夏を同じく乗り切った澪は結果が良かったのか
少し顔が明るい。
「秋は毎年波があるからな」
五條は涼しい顔をして、採点用紙を放り投げた。
「それらしい言い訳が上手くなりましたね」
「そういえば最近3人でよく集まってるけど、何してるの?」
黒岩のピュアな問い。
沈黙。
耐えかねた終が口を滑らす。
「いや、ちょっとネト——」
「黙れ!!!」
なんだか決まりの悪いタロウはそれを阻止した。
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その夜。
ギルドチャット。
Dr_TARO:今日はやめとくか
終末覇王:いや、ストレス解消は必要
Gojo_Sense:医学部入ったらやめればいい
少し間が空いて、返答。
Dr_TARO:それな
終末覇王:その通りだ
Gojo_Sense:そうだろう
最低だ。
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ある日の自習室。タロウ・終・五條が「ビーストクエスター」のデイリーミッションをこなしていると俊が後ろに立っている。さらに後ろに黒岩と澪も
画面が丸見えである。
「ドラゴン討伐、お疲れ様です」
俊はにこっとさわやかな笑顔を見せる。
タロウは凍り付いた。
終は急いで画面を閉じようとするも、ログアウト失敗。
五條は構わずヒールを連打中だ。
「モンスター討伐してないで、医学部受験も討伐してください」
「最近やたらスマホいじってると思ったら、ゲームにハマってたのか」
「現実のボスから逃げちゃだよぉ」
タロウたちは観念し、「おっしゃる通りです」と頭を垂れた。
ラウンジに移動し、鬼教官・俊の容疑者取り調べが始まった。
立ち会い人は黒岩と澪だ。
「なぜ大事な秋にネトゲに手を出してしまったんですか」
「夏、頑張ったから……」
「みんな頑張ってるよ」
黒岩の言葉が胸に刺さる。
沈黙。
「……成績落ちると怖くて。
ゲームは勉強よりも成果出るから」
「あれはそういう風に作られてるんです。
努力や練習が、着実に成功体験に結びつくから、それが気持ちよくてやめられない」
「そうなんだ、努力した成果が数字にも見えやすくて……!」
「現実だって数値化されちゃうよ、もっと残酷に」
黒岩は優しく、タロウを諭すように言った。
そして前回の全日本統一共通テスト模試の結果の紙を机に置いた。
タロウの総合得点率:79%
浪人してから初めて80%を切ってしまった。
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その夜。
「ビーストクエスター」ログイン画面。
慣れた手つきでアカウント名とパスワードを打ち込んだところで
タロウはカーソルを止める。
――――
Dr_TARO。
レベル47。
――――
時間を費やしただけあって、そこそこの強さになっていた。
でも、
受験生としてのレベルは?
全日本統一共通テスト模試の結果の紙を取り出す。
「……一旦アンインストールするか」
すると、いつものグループチャンネルにメッセージが入る。
終:今日レイド
五條:待ってる
タロウはスマホ画面を見て、じっと考えた。
「……弱い、弱すぎる……!!!!!」
自分が。
タロウは「ビーストクエスター」を再インストールした。
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土曜日。1週間ぶりに予備校に来た俊は教室に到着するなり
タロウと終と五條に詰め寄った。
「ちゃんとアンインストールしましたか!?」
「……夜だけだよ、な?」
タロウが終に同意を求める。
「1時間だけだよな?」
終が五條に同意を求める。
「土日だけしかやっておらん」
五條がうむ、とうなずく。
「『~だけ』って条件提示する時点で怪しい。
スマホのアプリ使用履歴見せてください!」
俊はタロウのスマホを奪い取って、設定画面からスクリーンタイムでアプリを開いていた時間を確認する。
「……まあ、これくらいならいいでしょう」
鬼教官・俊からお目こぼしをいただいた。
幸いなことに、ログイン時間は1日30分まで減っていた。
「「「へへーっ教官殿、ありがとうございます!」」」
3人は調子に乗って、
土下座の真似をして見せる。
秋は誘惑が多い。
夏の疲れや着々と近づいてくる未来の不安からの逃避。
逃げ出したい気持ちがどんどん大きくなる。
でも。
タロウはペンを再び握った。
「今年、ガチでいく」
4回目の秋。
もう笑えない。
いや、笑うけど。
あとがき小話「五條と1ポイントのノリ」
「E判定? まあ想定内だ」
五條は模試結果をその辺に放り投げて、再びスマホに向き合った。
今お気に入りゲームの「ビーストクエスター」が大型コラボ実施中なのだ。
そこへ、空間がゆがみ天井がピカーンと光った。
白いヒゲの神様が現れる。
「願いを言え」
「医学部首席合格。入学式の挨拶やってみたい」
「盛るな盛るな」
「じゃあ1ポイントでよいのでお願いします」
五條は深々と頭を下げた。
思わぬ反応に、神様は少し動揺する。
「たかが1ポイントに、意外と真面目だな……」
「それは神様と言えど訂正したほうがいい。1ポイントって重いぞ?」
「……確かに。今のは失言だった」
神様は慌てて訂正した。
五條、ニヤリと笑う。
「わざわざここまで読んでくださっている読者様、
軽い気持ちでいい。どうかここは一つ」
神様ですら言いくるめられる男。
というわけで。
もしよろしければ、
五條の“あと1点”を
そっと置いていっていただけると嬉しいです。
神様はたぶん喜びます。
作者は人生で一番高くスキップします。
五條は……
いつも通りです、すみません。




