表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

第十三話 『4浪、黒岩家に突撃』

【共通テストまで 202日】


医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティ・昼休み。


「昨日言ってた実家からの野菜とうどん。

持ってきたから良かったら取ってって」


そういって黒岩は段ボール山盛り1箱、どさっと机の上においた。


「量が農家」

「ただの家庭菜園ですが。田舎は土地だけはあるから」


結城市(ゆうきし)はうどんが有名なんですか?」


「そうそう。有名な製麺所がいくつかあって」


「いいなあ、黒岩家。

これだけ野菜送ってくれるってことはさぞかし料理も…...」


「まあ、うまいな」


それを聞いたタロウ。


「行こう」

「「「「は?」」」」


________________________________________


「こんにちはぁっ!!!」

次の日曜日、

黒岩家の玄関の前に、なぜかスーツとネクタイで正装したタロウが立っていた。

亡くなった祖母の法事で着たものを引っ張り出してきた。


「なんで来たの……?」

黒岩がいることは、さりげなく情報収集済み。


「お礼参りです」


「いやお礼参りって、意味違うだろ」

「料理目当てのくせに、しゃらくさいぞ」

タロウの後ろには、(おわる)と五條もいる。


「すみません、僕は止めたんですが…」


後ろから申し訳なさそうな顔の(しゅん)も出てきた。

しかし手にはきちんと手土産の虎屋(とらや)の紙袋を持っている。

最年少にもかかわらず最も常識がある。


________________________________________


俊の手土産に免じて、黒岩はしょうがなく彼らを家にあげた。


「あら?」

奥から黒岩の母親が出てきた。

黒岩は母親似らしく、目元がよく似ている。


北関東(きたかんとう)医科大学(いかだいがく)目指して4浪中の、

医学部専門予備校 メディカル∞インフィニティに通う越知内(おちない)タロウと申します!!」


「やめろ……情報量が多い。重いよ……」

黒岩がタロウを静止する。


「僕は5浪です」

五條がここぞとばかりに自己紹介。


「さらに重い」と黒岩。


________________________________________


リビングに通してもらうと、

そこには黒岩の父がくつろいでいて、読んでいた新聞を下ろした。


「なんだなんだ、増えたな」


黒岩の父はなかなか外出ができないので、突然の来客もちょっと嬉しそうだ。


「予備校仲間だよ」


「将来の医師(予定)です!」


「そうか、予定か」


「はい、未定寄りの予定です!」


タロウの堂々たる振る舞いは、不思議と黒岩の父親とかみ合っていた。


「良かったら召し上がって」


そういうと、黒岩の母親はお茶を出してくれた。


息子の友人をもてなすなど、10年以上ぶりの黒岩の両親は割と楽しそうだ。


「いつも恒一と一緒に勉強してるの?」


「はい!でも僕はE判定です!」


「え?」黒岩母、動揺する。


「親御さんを不安にさせることを言うな」

「彼は伸びしろ担当ですので!」


割と常識人の終と俊がフォローに回った。


「伸びしろしかないです!」


「4浪で伸びしろがあるなら大丈夫だ。恒一(こういち)は真面目にやっているか?」


「めちゃくちゃやってます!」

「深夜まで残ってますよ」

「本気です」

「求人サイトも見ているようです」

と、タロウ、終、俊、五條が口々に応答。


「最後のは言わないでよ」


黒岩が弱弱しい口調で言った。

予備校では大人なふるまいの彼も、両親の前では少し幼く感じた。


「ええっ求人サイトなんて見てるの?」


「ちょっとだけ」


「揺れてるな」



「浪人生にはよくあることです」とタロウ。


そこにお前が言うな、と全員がツッコんだ。


________________________________________


ずうずうしいことに4人は黒岩家の昼食をご相伴にあずかることになった。

(むしろ、この時間の訪問はそれ目当てだったのだが。)


突然の訪問にもかかわらず、ダイニングテーブルを埋め尽くす品物の数々。

噂にたがわず、黒岩の母親は料理上手なようだった。


「実家ってすごぉい…...」

「いや、お前も実家暮らしだろ」


終がツッコんだ。


「ところで越知内くん」

「はい!!」と、タロウは返事。元気だけが取り柄。


「なぜ医者になろうと思ったんだ?」


一斉に固まる受験生たち。

面接などでも定番質問だが、シンプルゆえに難しい質問なのだ。


終たちは小声で

「答えろ」

「ここ大事です」

「ボス戦だ」

とタロウを鼓舞する。


「……なんか……」


ごくり。受験生たち、唾をのむ。


「なんか、かっこいいからです」


「「「「おい」」」」



全員の息があった。


黒岩父、沈黙。

黒岩母は吹き出した。


「正直!」


その声で緊張がほどけたのか、黒岩父は少し笑って


「それでいい」

と言った。


「え?」


「動機はきっと後で育つ。その気持ちが大事だ」


黒岩は静かにうなずいた。


________________________________________


帰り道。黒岩が4人を車で駅まで送ることになった。

車が運転できるなんて、やっぱり32歳はすごい。


「黒岩さん」

タロウが黒岩に声をかけた。


「ん?」


「いい家族ですね」


タロウのその言葉にはいつものように冗談まじりではなく真剣な響きだ。


「うん」


「応援してもらえる実家っていいですよね」


黒岩には、タロウの言葉の真意がわからなかった。


________________________________________


翌日。

黒岩母から再び荷物が届いたらしかった。


中身は米10kg。そして手紙。


『若い子たちへ。恒一をよろしくね。』


「俺らも“若い子”に入る!? 嬉しい!」

「俺は?」と五條。

「うーん、ギリギリですかね」


黒岩、少し照れながら

「……母親、久しぶりに俺に友達ができて嬉しいみたいだ」

と言った。


「越知内タロウ、黒岩家の一員になります!」

「じゃあ苗字も変わるな」

「黒岩タロウ」


「強そう!」


「いや、なんか重いです」


4浪、5浪、現役、32歳。

年齢は違う。

判定も違う。

だが同じテーブルを囲む仲間である。


北関東医科大学。

次の戦場は模試会場。

黒岩家という補給基地もできた。

受験は団体戦だ(気持ちだけ)。

あとがき小話「黒岩と1ポイントのプライド」



模試結果の紙を見る。

そこには“北関東医科大学:E判定”の文字。


黒岩は何も言わず、机にそっと置く。


そのとき、天井がピカーンと光った。

白いヒゲの神様が現れる。


「願いを言え」

神様、定番質問。


「……」

やたら神々しい人物が現れても、

黒岩はうなだれたまま、机に置いた紙を見ていた。


「言わねば伝わらぬぞ」


「……この世界では勉強の成果だけでは合格できないんですか…...?」

「ムムッまあここはポイントをお願いする場所だから

その通りというか、

ぶっちゃけそんな明確に決まっていないというか、雰囲気というか……」


神様、しどろもどろ。


すると、黒岩はこちらを向いて、パッと土下座をして見せた。

「皆さん、よろしければポイントをください。

5ポイントとは言いません。1ポイントだけでも是非」


「変わり身が速いのう…...」

「妻と娘に我慢させて、予備校に通ってるんです。

プライドなんて持っている場合じゃない。合格するならなんでもやります」


そういうと、黒岩は再びペンを握り、

模試で間違えた場所の復習を始めた。

覚悟が決まっているものは、泥臭いこともかっこ悪いこともすべてやる。


というわけで。

もしよろしければ、

黒岩の“あと1点”を

そっと置いていっていただけると嬉しいです。

神様はたぶん喜びます。

作者は口の端が切れるまで全力で笑います。

黒岩は……

妻と子供に手土産を買って帰宅します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ