表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/25

ハルトの苦悩

 


 十一月一日 薄曇り

 体に痺れあり、記憶なし

 特筆すべきことなし

 

 

 十一月六日 雪

 皮膚のひきつれあり、記憶なし

 一ノ瀬の背が伸びた為守護を変更

 以上

 

 

 十一月十八日 雨

 熱あり、記憶なし

 特筆すべきことなし

 

 



「背が伸びているな…」

「え!!またですか…」

 朝、守護をかけている最中に一ノ瀬の背中に呟く。一ノ瀬の成長が著しく、体に合わせて作っている守護の大きさが合わないことが出てきた。

 

「まだ髪の毛の先ぶんだけだが、来週にはまた新しく覚えなくては」

「……ハイ…」

 私が手間なだけなのに一ノ瀬が苦虫を噛み潰したような顔をするのが腹が立って、朝飯のパンを一ノ瀬のぶんまで食べた。美味かった。

 



 一ノ瀬は背が伸びた。今の記憶しかない私にはずっとこの大きさだが、以前作った守護を使い回しているので、それが合わなくなってきたということは成長している証だろう。

 

 そもそも今まで、何かに成長を阻害されていたのではないか?突然伸びたせいで関節が痛くて眠れないと言っていた。

私は人間の成長には詳しくないのでそれが正常なのかはわからない。

 

「俺も痛かったなぁ」

 朝から呼んでもいないのにグレイン家の次期当主がそう教えてきた。

そうなのかもしれない。まぁこれだけ巨木のようにニョキニョキ伸びたら骨も痛むだろう。


私には背が伸びた記憶はない。

私の記憶の中の私は、ずっと今と同じだ。

それより前はもっともっと小さかった頃、思い出したくない記憶ばかりだ

 

 


「あまりにも痛いようなら、痛みを和らげる加護を足してもいいぞ」

「そうしてもらっていいですか?」

「そうしよう」

 そんなに痛いのか。

毎日の勉強にも支障が出ては困るため、痛みを和らげる作用を足した。

全く人騒がせだ。

 

 

 

 

 

 




「そんなに痛いの?」

僕が膝や背中をさすっていると、レイが話しかけてきた。

この学園に入って半年、最近まで会っても週に一度だったのに、なぜか最近突然こまめに会いに来る。目当てはわかってるけど。


 

軋むような成長痛が酷くてに医者に掛かると、今まで何かしらの術で成長を止められていた可能性を指摘された。

まさかとは思うが、心当たりが無いわけでも無い。そこまで恨まれていたのだろうか。


家を離れて生活するようになってからぐんぐんと背が伸びてきて、前まではずいぶん見上げていたさくら先輩を無理なく同じ目線で見られるようになってきた。


それでもまだ彼女の方が背が高い。

僕も大きくなったのに、学園でも頭ひとつふたつ飛び抜けているレイと並んだほうが見栄えがする。二人は並ぶと本当にお似合いで、並ぶ姿を見かけるたびにモヤモヤする。


 それに、さくら先輩は、僕を女の子だと思って扱う時がある。最初からそうだったが、背が伸びた今もまだ女性のような扱いをうける。


 愛し子、そう言われたのは最初の守護を受けた時だけで、それ以外で言われたことはない。早く身長を越して男性として見られたい気持ちと、かわいらしい愛し子と言われたい気持ちがあって上手く言葉にできない。

 



「愛されたいな……」

好きな人に好きになってもらいたい。好きな人が他の男に微笑む姿は見たくない。それだけなのになんて難しいんだ。

 


「長兄はみんなに愛されてるだろ」

「えっ」

 独り言のつもりで呟いていたのに気付いたら玄関に先輩が立っていた。

間抜けな顔を晒す僕に、さあ面倒な事をやろうかと声をかけてくる。

 



守護は使い回していると聞いた時、全く想像が付かなかった。 

先輩曰く、毎日その人の姿に作るのは時間がかかるため、記憶の消える夜中に解除されたものは先輩に戻るような仕組みらしい。

その戻ってきたものを、また翌朝貼り付けている感じだと先輩は言う。


僕にはほとんど封言の才能がない。授業を真面目に受けても身につくことではないようで、せいぜい火でパンを炙るくらいしかできない。

パンを好きな先輩には喜ばれているが、正直言ってマッチくらいの扱いだ

 



「ではここに背中を向けて立ってくれ」

 制服姿のまま先輩の前に立つ。この時間は喜びのような、辛さが勝つような……


高度な守護を作るためには、守護をかける相手を覚える必要がある。

部屋や場所に掛ける他の術者が部屋の中を歩き回り壁を触り目を閉じている姿を見たことがある。この技は記憶力も重要なのだ。

 


「動くなよ」

つまり先輩が僕を覚えるまで、僕の体を撫で回すことになる。あまりに衝撃的すぎて、初回は大声を出してしまって怒られた。



先輩の温かな手が頬を触れ、肩に流れて腕を触る。胸を流れて背中に動く。繰り返し撫でられた腕が肩が熱くなる。



 ただでさえ密室に二人きり、好きな人に自分の体を触られることがどれほどの拷問なのか想像してほしい



 また、腰に流れて、足や足首、指の先の爪まで全てを覚えなくてはならない。国の要人にかけるときは同性にされることが多いと聞いたとき何故なのかまでは想像していなかった。

 



「……ッ」

もちろんある箇所もサッと撫でられることになる。

いやらしい手つきでもないし、先輩も嫌だろうし、絶対に反応してはいけない。頭で昨日受けた授業の反芻をする。輝いている頭の老人の教師を想像してどうにか耐える。




「ここは除くことはできませんか…」

「そこだけ無くしてもいいならもちろん」

 もうその最初の問答以降はこうして耐えているのだ。背が伸びてほしい気持ちと、現実的に背が伸びてほしくない切実な理由がせめぎ合う。

 



「終わったぞ、なんて顔してる」

「……ありがとうございました」

「礼を言うほどのことはしていないが」

「いえ…」

 僕の願いが無ければ、好きでもない男の体を撫で回す必要はなかったわけだから常に恩があるのは当然だ。


 好きでもない男……。自分で考えてダメージを受けるのをやめろ!




 

「長兄の目は宝石のようだな。いつも輝いている。」

 ふと近くで見つめられて心臓が掴まれたような気持ちになった。

出会ったばかりの頃には僕に近づくことはなかったのに、居候して二ヶ月にもなるとこうして目を合わせたりしてくれるようになった。



「先輩の目も美しいです。」

「世辞はいらない」

「本当ですから」

 先輩は自分の目や髪の色が好きではないようで、話題にすると不機嫌な顔になる。

美しい黒色は、光の下だとたまに赤に煌めくような気がする。


 そうして見つめ合っても、先輩の心は僕に寄せられることはない。見つめ合ったことも明日には忘れてしまうだろう。先輩にとって僕はただの預かり物のようなものだ。

それもかなり厄介な。


 

「ご飯にしましょう」

「そうだな」

 何もなかったように食事の支度をする姿に感情の起伏をグッと堪える。

十八の誕生日まではあと四ヶ月を切っていた。


誕生日を迎えたら完全に後継者の契約がされる。それはこの生活の終わりを意味している。

 






僕が守護を受けたことに弟は気付いているだろう。


生活圏を変えたことで気安く僕に毒は盛れなくなった。

故意の事故は守護によって全て防がれ、反対に弟の支持者には死亡事故が増えている。

先日も親族の一人が単身での事故に遭い葬儀が開かれていた。


 全てを疑ってしまう。人を疑わない父はただの不幸な事故だと思っている。

 その葬式に弟の姿はなかった。 

 父曰く、何かしらの事故で怪我をして来れなかったらしい。


もう諦めてくれないか、ここで諦めてくれたらなかったことにしてもいのにと願ってしまう。

また先輩にお人よしだと呆れられるのだろう。父のことを笑えない。



 

「寮での生活はどうだ」

 僕の生家はもちろん王都から離れた東の国にある。

しかし王都に通うことの多い都合上、王都の中に別宅を持っている。

僕はそこから通っていたが、父に相談してもっと近い学園の寮から通っていることになっている。

 これは他の貴族でも同じような人間は沢山いるので、父が違和感を覚えることではなかった。

 


「最近いい人が出来たと風の噂で聞いたぞ。相当な美人だとか。会いたいものだ」

「そんな人居ませんよ」

「家を出て数ヶ月なのに見違えたようだ、良い出会いだったのだな」

 お前は家に見合う人間と番わなくてはな。と続く言葉は想像がついた。

僕は父にとってどこまでいってもただの後継者なのだろう。良くも悪くもそれ以上はない。

 


政略結婚の相手として用意されている相手に興味はない。

正式に後継者になってしまえば、結婚相手を自分で選ぼうと、よっぽどの事がない限り反対されることはない。


 そもそも後継者は学園内でしか人と知り合う事はなく、学園に入るためにはかなりの難易度の試験を突破するか、学園で身分の保証がされる必要がある。誰を選んでも当たりのくじ引きみたいなものだ。

 


先輩は僕を選んでくれるだろうか

レイのように唇を強引に奪う度胸もなく、自分の命を狙う弟に後継者を譲ろうとしていた愚かな僕に。先輩にとって好ましいところが一つでもあるのだろうか。


 かわいい顔が好きと言っていたけど、日々成長していく自分の顔がまだかわいいと言われるものなのか全くわからない。

 


「レイ……僕ってまだかわいいかなあ」

 葬式に当主代理として参加していたレイに声をかけてみた。

 


「うーん、死んだのは違う人だったと思うけど、ハルにも言わないとね。心よりお悔やみを申し上げます。」

「やっぱりかわいくないよね…」

 身長は160から175にまで成長していた。

たった二ヶ月で15センチも伸びたせいで、手足の痛みがひどく眠れない日もあった。


 先輩は恐らく172くらいなので、ついに先輩の身長を超えたことになるが、靴を履くとほとんど同じ身長なのが現実的なところだ。

 



「レイは全長何メートルあるの」

「ねぇ、ばけものだと思ってる?」

 まだ見上げることができるレイは、恐らく二メートル近い身長だった。先輩と並んだ時に見栄えがして羨ましい。

 


「先輩はかわいい顔が好きなんだよ」

「げ、じゃあ絶対に会わせたらだめな男がいるじゃん」

「そうだよ…」

この国の中枢を担う四家の上には王家しかいない。

僕たちが望めば大抵のものは手に入るが、それでも王命には勝てない。王家の現在の長男である皇太子のことだ。


 彼は小さい頃から天使のような顔をしており、成人した今もくりくりとした金髪碧眼で、全く老けない奇跡の童顔なのだ。


 しかも今代の皇太子の婚約者は未だ不在である。毎月のように婚約者の話題になるが、皇太子は決めかねているようだ。

 



「絶対先輩に会わせちゃだめだ…」

「可能性があるとしたら卒業式の舞踏会くらいでしょ、それまでにどちらかが手に入れてたら大丈夫だよ」


「…レイは他にたくさん彼女が居たんだから譲ってくれてもいいのに…幼馴染の初恋を応援してよ。しかも僕は一緒に住んでるんだよ?可能性あるでしょ?」

「まぁ、同じ家に住むだけなら、虫にもできるからねえ」

床を歩く小虫を見て笑ったレイにショックを受けた。


小虫と同じ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ