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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第二章

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30/33

櫻子の両親




会場内を進んで、妹の後から王の居る階上へと階段を上がった。


「おお!来たか!」

俺たちを見つけると王は近寄ってきて、俺の肩を叩いた。



「いやぁ婚約者殿は背が高い。なぁ櫻子、ここまで見上げるほどの男は中々いないぞ」

「失礼しました、申し訳ありません」

思わず頭を下げようとすると、いやいや、とソファに促される。



「家族になるんだから堅苦しいのはやめよう、なぁ櫻子、お前も座りなさい」

「‥はい。ありがとうございます」

俺の真横に座った王に動揺したが、そう見えないように困った顔をしてソファに座った

部屋の中は広いが、王と妹と俺たちしか居なかった。



「二人はどうやって出会ったんだ?この子は愛想がないだろう?見た目は良いのに言葉も荒い。結婚までには淑女教育をしないとな?」

「いえ、櫻子さんはこのままで十分魅力的です」

俺の言葉に王は笑っている。


「私は櫻子さんに一目惚れしたんです。婚約者として側にいられるだけで幸せです。」

さくらを見ると、首を傾げて恥ずかしそうに微笑んだ。

あまりにも優しく笑うので照れてしまう。そんな風にしたら、本当に本気で俺のことが好きみたいだ。



「‥てっきり娘が誤魔化すために連れてきたと思っていたが、君は本物なのかもしれんな」

「なぜ騙す必要が?私は彼と結婚すると決めたのです」

さくらの言葉に喜んでしまう。俺が騙されそうなほど真剣な顔だった。




「いや、余りにも都合が良すぎると思ってな。グレイン家は唯一この国と貿易がある。その上この美貌の後継者が、お前を好きになるか?」

「‥それは‥」

「皇太子から指示されただけで、揃いのブレスレットもこのために揃えただけではないとどう証明する?」

そこまでは確かに言っている通りだった。

でも隠さなくてもわかるほど、俺がさくらを好きな事は予想通りなのだろうか。




「お言葉ですが‥俺は間違いなく、心の底から櫻子さんを愛しています。」

「‥ほう」

「出会った時目が合って、そこからずっと好きなんです。俺以外見ないで欲しいし、俺の事だけずっと見ていてほしい。毎日一日中かわいいと思ってるし‥髪も目も手も唇も、体の全てを全て俺のものにしたいんです」

勢い付いて口がペラペラと言うべきでない事まで語ってしまう。


ハッとして思わず口を覆った。


俺は、好きな人の父親に何を宣言しているんだ。さくらが驚いた顔をしてこちらを見る






「まさか‥」

「ああ、言ってなかったが、この部屋では本当の言葉しか言えなくなるように封言が敷かれている。お前には効かないだろうがな。」

「そんな騙すような真似をよくも!」

さくらの言葉に王は笑って立ち上がった。


俺の横に場所にさくらが来て俺の手を握った。さくらの顔を見るのも恥ずかしい。

割ととんでもないことを口走っていた気がする。





「しかし驚いたな。まさかまだ抱いてすらなかったとは」

ああ、ここから逃げ出したい。恥ずかしくて消え去りたい。記憶を消してほしい。




「‥これで私達が想い合ってることはもうわかりましたよね?話がもう無いなら下に戻ってもよろしいでしょうか?」

「まぁまぁいいじゃないか。親は常に子どもが心配なのだ」

王は一人で酒をグラスに注ぎはじめた。酒の香りが部屋に充満する。

それすら何かの罠ではないかと疑ってしまう。




「抱いてもいない女のために、この国まで来た婚約者殿に乾杯しないとな」

「‥王国では婚前交渉は禁じられてますから私たちが特別なのではありません」

さくらが俺が何も言わずに済むように都度庇ってくれていた。

これ以上何も言えない俺は、口を結んだまま二人を見ているしか出来なかった。





「他の3人には?一度も抱かれてないのか?」

「皆ただの友人です。」

「だがしかし、婚約者殿は相当遊んでいたに違いない。今時真面目に守っている人間の方が少ないだろう?なぁ」

話を振られて思わず手を離して口を開きそうになったとき、勢いよく俺の方を振り向いたさくらがキスをした。


吐こうとしていた息ごと飲み込まれる。




「昔の話は聞きたくない」

そう言って俺の手をまた口に戻す。俺が何度か頷くとさくらは離れた。


それを見て王は大きな声で笑っている。





「この目で見るまでは信じられなかったが、まさかあの櫻子が本気で男に嫁にいくつもりだとは‥驚いた!」

手を叩いて喜んでいた。さくらは苛立ちを隠さないように、下を見てため息をついていた。





「婚約者殿は、確かに娘と出会ってからは真面目に学生生活を送っているようだ。薬を盛られた女を簡単に襲わないのも気に入ったよ。君は全く隙がない!」

喜んだ様子で、俺たちの目の前に座ると酒の入ったグラスを揺らしている。


さくらが薬を盛られた時も、やはり見張られていたのだと思うとゾッとする。


「夾、こちらに来い」

王は部屋の奥の誰かに声を掛け、名を呼ばれた人が奥から出てきた。まさか俺たちの方にも誰か居たとは思わず驚いた。


さくらに似た顔立ちだが、もっと淀んだ目をした女性だった。それは王妃の座に座っていたさくらの母だろう。名前で呼ばれたからわからなかった。




「お前も祝いの一言くらい言うべきだろう。」

下にいなかったのを不思議に思っていたが、ここに居たのか。握っている俺の手を強く握ったのがわかった。

ちらっと見たさくらの横顔が見た事がないほど強張っている。



近寄ってきた王妃に挨拶をしようと立ちあがったが、パンッという布の音で動きを止めた。

大きな扇を開く音だった。顔を覆うほどのそれの向こうで声がする。





「‥挨拶は結構。お前は外に嫁ぐ身です、撫子や誉にあまり悪い影響を与えないように。」

そう言って俺に一礼して踵を返して行った。呆然とする俺に王は笑っている。



「お母様!祝いの言葉も言えないのですか!」

妹が反論するが、その言葉も無視して元の位置に戻って行った


さくらが目線に入るのも嫌だと言うのか?


今の状況を逆手に取って文句を言ってやろうと立ちあがろうとしたら、さくらの手で止められた。ただ首を横に振っている。





「私達は3人が心配なので戻ります。納得されたのであれば、攻撃なんて馬鹿げた事は二度としようとなさらないでください。」

「ああ、平和な国の日々をこんなことで乱すわけにはいかんからな」

さくらは俺の手を引いて立ち上がった。


俺はそんな言葉すら納得いかなかったが、何を口走るかわからない以上むやみに口を開く訳にはいかなかった。


部屋を出る時、王が何か口を動かしていた。

その言葉を真似して繰り返したらさくらがパッとこちらを見た。




「‥‥これでおわりだとおもうなよ‥レイ、今そう言ったか?」

嫌な予感がする。

俺達は下にいるハルたちを目で探した。

シオンとリアは見つけたが、ハルの姿がどこにもなかった。


階段を降りてシオンとリアに近寄ろうとする。さくらに挨拶をしようと人々が近寄ってきてなかなか進まない。

俺の腕を掴んださくらが、手に力を込めるのを感じた。このままではまずい。




「すみません、彼女は少し気分が優れないようで‥少しバルコニーで風を浴びてきます」

そう言って櫻子の腰を支えて進んだ。

途中でリアとシオンに声をかけてバルコニーに辿り着いた。






「二人ともどうしたの?」

状況のわかっていないシオンが俺たちを見ている。



「ハルを見てない?いつから居ないかわかる?」

「ハルなら、さっきまですぐそこにいたのに‥」

シオンがバルコニーから中を見渡した。俺から離れたさくらが頭を抱えている。



「‥叔父もいないんだ」

「たまたまお手洗いに行ってるとか‥」

「いつからいないかもわからないのに?」

さくらが珍しく声を荒げるので驚いた。取り乱している理由が俺にはわかるけど、二人は知らないから驚くだろう。



「‥私、さっき叔父に切りつけられたとき、薬を盛られたんだ」

「え、薬って‥」

「媚薬だよ。私は自制のために足に剣を刺した。叔父は‥何をしてくるかわからないんだ‥」

さくらが足を撫でる。

リアは駆け寄ってきて俺を睨んだ。手を出してないよ、というとホッとした顔をしていた。



「でも、ハルが何かされたとしても、守護で弾かれるから死ぬ事はないでしょ?」

「叔父は‥死ぬほうがよかったという拷問ならお手のものなんだ」

「多分櫻子が考えてるよりハルは強いよ。」

俺の言葉にさくらは振り向いた。泣きそうな顔をしている。


そんなにハルが心配なの?俺が同じ目に遭ってたらそこまで心配してくれた?ハルだから?喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。




「とりあえずパーティーを終えてから、探しにいこう‥ね?」

「‥‥わかった」

ここで俺たちがバラバラになるのでさえ、さくらの叔父の計画通りなのだとしたらパーティーに戻るべきだろう。


俺たちはパーティー会場に戻り、何でもない顔で過ごした。微笑んで受け答えをする様を、他人事のように見ていた。





「パーティーは楽しんでいただけていますかな」

そこにさくらの叔父が現れた。

2つグラスを持ってきて片方を俺に渡してくる。



「さぁ!美しい二人の未来へ乾杯しましょう」

断る理由が無く、受け取るしかなかった。

周囲は微笑んで俺たちと共にグラスを掲げた。


貴方からもらったものは、何が入っているかわからないから飲めない、なんて言えるわけもなく、心を決めてグラスに口を近づけた。


「私にくれる?」

一言そう言って微笑んださくらが、俺からグラスを奪った。



「乾杯」

微笑む叔父の言葉に、さくらはグラスを傾けて一口飲んだ。飲んでしまった。

仲が良くてよろしいわね、と周りは微笑んでいる。



「すみません有栖川様」

「二人分用意しなかった私の責任だ。すまなかったね」

ただ渡された飲み物を飲んだだけで、さくらの体調を心配するそぶりを見せるわけにはいかなかった。

けれど前例がある以上何かされてると思うのは間違いではないだろう


しばらく談笑していたが頭の中ではハルやさくらが心配でたまらなくなってきた。





「私たちはそろそろ失礼しますね」

しばらく談笑した後、さくらがそう言って礼をした。それに伴い俺も頭を下げる。叔父は微笑んでいた。


背中を向けてパーティー会場を去る。

扉が閉じる最後の瞬間までさくらは微笑んだままだった。




「さくら、体調は?」

慌てて俺が聞くと、ふらっとしたさくらが体重をかけて来た。


「一ノ瀬が消えてもう2時間近くになる‥シオンとリアは?」

「先に探してるんだと思う‥それより大丈夫?」

俺の言葉にさくらは頷いた。


「恐らく睡眠薬だろう‥少ししか飲まなかったからすぐ寝てしまうことはない。大丈夫だ」

「‥っそれは大丈夫って言わないよ‥」

やっぱり何か入っていたんだ。頭を上げてさくらが立ち上がる。




「レイ‥私は転移で探してくる。レイは部屋に居て。絶対にどこにも行かないって約束して」

「そんな!途中で薬のせいで眠ってしまったら!?さくらこそ待ってるべきだよ」

俺の言葉に首を横に振って、さくらは手を上げて指を鳴らす。次の瞬間には居なくなっていた。












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