これって恋かも
毎日同じことの繰り返しだ。
俺にとっての人生とは、毎日前の日と同じことをして生きて、死ぬだけ。
生まれた時から特別で、誰にでも特別扱いされるのが当たり前だと思っていた。
その日もいつもと同じだった。
滅多に出ない授業をぼんやり聞いていたら、マスターである教授が俺を褒めてくる。
父がまた寄付金を積んだのだろうか。
金で動くものに価値なんて無いのに、俺が何をしようがしまいが、評価だけが約束されていた。
あくびをした先で、黒いものがゆらゆら動いていた。
それはよく見たら長い黒髪で、ノートに書くのに合わせて髪が揺れていた。
他の人間に比べてかなり真面目にノートに書き写している。ウンウン頷いたり、ヴーンと頭を抱えたりしていた。
お昼になるとその子は人のまばらな広場に座って、空を見上げていた。
昨日も今日も殆ど同じ空なのに、何がそんなに面白いのか。
その視界に入ってみたくて、最初は普通に話しかけた。
けど声を掛けても聞いていないのか反応しなくて、顔を覗き込んだら唇にぶつかってしまった。
咄嗟に謝ろうかと思ったけど、ぶつかったのに驚いて目を瞑る顔を見てもう一度口付けていた。
「そりゃ俺が悪いけど、だからって初対面なことにするなんて酷くない?」
「お前しか悪くない。それはお前だけが悪い!」
南の三男坊のリアがそう叫び、西の五男のシオンがウンウンと頷いている。
四家の人間は小さい頃から交流があり、気の合う同世代の男達だけで集まることがある。
二人の国の当代の跡継ぎは世代が上で、もう次代の跡継ぎの子ども居るから気楽なものだ。
「しかもその子、ハルが好きな子なのではないか?なぜお前たちはよりによって同じ子を好きになる。かわいい女の子はいっぱい居るだろう」
「いっぱいいるね」
それはそれはいっぱい居る。口付けをしただけで飛び上がって喜び、翌日には親同伴で婚姻に押しかけてきそうな女の子がたくさん。
「ねぇ、今からハルが来て喧嘩なんて嫌だよ」
そう言ったあとすぐに、ハルが訪れた音がした。
「もうあっちは喧嘩腰みたい」
窓を覗いて思わず笑ってしまうくらい、屋敷の玄関が燃えている。ゴウゴウと音がする。
俺が空に手を翳すと、雨が降ってきて火が消えた。
北の国は、水の力を借り受ける一族だ。
ドガン!
火が消えたのとほぼ同時に、部屋の扉が鈍い音を立てて開いた。そこには話題の男が立っていた。
「どうしてキスしたのか、説明してもらえるよね?」
「まだ椅子にも座ってないうちから、家を燃やすのはやりすぎだよ、ハル」
「気付いたら燃えてたんだ。不思議だよね?自然発火かも。不思議だな、ここもよく燃えるかも」
「ちょっとハル、落ちついて!」
シオンに止められて、ニコニコした顔のまま怒りを露わにするのは東の国の後継者のハルト。
「どうして先輩にキスしたのか説明してくれてもいいよね?いや、説明されてもキスしたことは変わらない!いや、ほんとにキスしたの?勘違いだったら…」
「した」
「したんだ……」
泣きそうな顔と怒りでごちゃ混ぜになっているハルと、困った顔の二人。
まさかこんな面白いことになるなんて。
「ねぇ、ハルはどうしてあの子の家に住んでるの?」
「住んでる!?」
今度はハルが困る番だった。
そこでハルは経緯を説明してくれた。
自分が弟に命を狙われてること、あの子が守護の力を使えること、そこに付け込んで住み込んでいること、あの子の記憶のこと。
「記憶が一日しか持たないってどうして?」
「どうやら封言で縛られているらしい。僕には技術的な詳しいことはわからないけど、教授に聞いたらかなり難しい術で、かけられる人間は僅かだとか」
学園には封言の権威もいたな、と受けたか覚えのない授業のことを思い出した。
あの子の様子の理由がわかってスッキリしたような、複雑な気持ちだ
「それってつまり、俺のことは日記に書いてなかったってことだよね」
「そうなるね」
勝ち誇ったようなハルの顔。
ヨチヨチ歩きで俺の後をついて来たころから見慣れた女の子みたいな顔。
あの子は、このかわいい顔が好みなのか?
「ハル、ハルのこと俺も守ってあげてもいーよ?」
「いいよ、先輩の守護があるからね」
「その守護、ほんとに効くか俺が試してあげる」
ハルに向かって思い切りナイフを投げた。
当たったとしても致命症にはならない足を狙った。
ハルに向かって飛んで行ったはずのナイフは、気付いたら俺の足に刺さっていた。
「あの子って、ホンモノかも…」
ドキドキと高鳴る胸の音が、痛みによるものなのか、恋の音なのか、どちらにせよ今までとは違う毎日が始まることは確か。
明日が楽しみだなんて、生まれて初めてだったが、翌日は医者の治療で学園には行けなかった。
笑えて仕方がない。人生っておもしろいかも。




