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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第二章

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リアとシオン


金属のぶつかる音が部屋に響く。

ここは剣術の鍛錬場だ。授業中ではなくても開いていれば生徒なら誰でも使用できる。


朝や夕方は人が少なく、貸切にできることも多いため入り浸っていた。



「アウガス様、おはようございます」

その日の朝早く、一人で鍛錬場で支度をしていたら有栖川櫻子が現れた。

赤色の髪を後ろに束ね、制服ではなくシャツにズボンを履いていた。



あの日、一瞬で数十の人間を制圧した彼女。


剣に自信があった俺でも守護が無ければ全てを倒すのは無理だっただろう。

あまりにも一瞬の出来事だったが、人生を変えられたような気持ちだった。

俺がもっと剣の達人であれば、彼女にあんなことをさせず制圧できたのだろうに。そう思うと鍛錬を積むしか出来なかった



「おはよう、朝から精が出るな」

「ええ、殿下と約束したので、四家以外の貴族や一般生徒で私と結婚しても良い人を探す為に、色んな所に出向いてみているのです」

彼女はそう言って、自分の稽古の準備を始めた。


正直言って彼女が探してもレイやハルや皇太子の目がある以上見つからないとは思うが、意外だった。


彼女はてっきりハルかレイのどちらかを選ぶのだと思っていた。




「なぜレイやハルじゃダメなんだ?」

「‥彼らは国を背負う人たちですから、私が足を引っ張るわけにはいきません。私はそもそも他人に誇れる人間ではないのです。ですので、結婚相手には私が稼いだ金銭を全て譲るつもりでいます」

そう言って剣を手に素振りを始める。

横に並んで同じように素振りをしながら話した



「なぜそこまで頑なになるんだ、皇太子殿下も恐らく本気で受け入れるつもりだぞ」

「優しい人たちを、私は、これ以上、失望させたくないのです」

息を切らしながら素振りをする。


彼女は思っていた人物像と少し違うようだった。自信満々で常に余裕なのだと思っていたが、どちらかと言えば正反対だ。



その結婚相手は、たとえば俺でもいいのか


俺は継ぐ家もないし、騎士団に入れたら妻に不自由はさせない。

家に帰って彼女がいるのも悪くないかもしれない‥


そう言おうかと思ったが、あまりに真剣な顔で剣を振っていたのでやめた。


彼女が誰を選ぶのか楽しみにすることにしよう。それでもどうしても誰もいなければ、俺にするのはどうかと聞いてみようか。













「降谷シオン、正直に教えてほしい。私は臭いのだろうか‥」

夕方になり、最後の授業の終わりの鐘の音がした。同じ講堂の中で彼女の背中を見つけていたので声をかけようかと思っていたところ、彼女から話しかけてきた。話の意図がわからず、とりあえず外に出ることにした。


「‥男子生徒に話かけようとするとあからさまに避けられるんだが‥‥」

「ああ‥なるほどね」

広場の椅子に座って話を聞くことにした。


どうやら彼女はレイやハルではなく、他の人を探しているらしい。理由は理解できなくない。



彼らは生まれたときから当たり前に跡継ぎだからわからないかもしれないが、突然その国を一緒に背負えというのはかなりのプレッシャーだろう。




「実はさ‥俺は五男だけど本当は両親の子じゃないんだ。母親は別で所謂庶子ってやつだよ。父親が外で作った子供だけど生まれてすぐ引き取られて、家に居場所なんてなかった」

ハルたちや貴族なら公然の秘密として知ってるけど、わざわざ他人に話したのは初めてだった。



「だから俺には気持ちがわかる。応援してるよ」

「じゃあ、なぜだか教えてほしい‥」

「ハルやレイや皇太子のお気に入りに手出しするやつはいないってことだよ」

「‥‥そういうことか‥」

愕然とした顔をする。


彼女は本当に印象が変わった。最初は飄々としているように見えて、どう見ても怪しかったのに、ハルを咄嗟に庇ったり、自分が怪我をしたのに守れたことに喜んだり。




「私は結婚相手には苦労させないくらいには働くつもりなのに‥」

「はは、面白いな。貴女が稼ぐのか」

彼女を送り出して家で彼女の帰りを待つのも悪くないな、なかなか無い発想だった。



「‥降谷シオン、貴方には婚約者はいたか?」

「さっき言った通り、俺にそんなもの用意する人はいない。わかるだろ?」

「なるほど‥‥家も継がないし、騎士団も行かないし、四家だけど条件には合ってるな‥」

モゴモゴ喋っている。




「私の事がすごく怖いとか、生理的に受け付けないなどはあるか?私は恐らく子供は産めるはずだ」

「‥何の話をしてる?」

怖くなって恐る恐る聞くと、わざとらしく微笑んでいる。




「いや、聞けば聞くほど降谷シオンはとても条件がいいなと‥」

「いやいやいや、戦争に巻き込まないでくれよ!俺はハルやレイや皇太子に睨まれたくない!」

「でも‥帰る家がないなら私と作ってくれてもいいじゃないかと‥他の人は皆、迎えてくれる親がいるんだから‥」

「それは‥」

だとしても、そうだとしても、ハルたちを差し置いて‥?彼女をそんな目で見たことがなかったので、突然言われて動揺した。


今頃になって新年祭の準備の時の記憶が過ぎる。あんなことするんじゃなかった。触れた手を思い出してしまう。




「第一候補ということでどうか頼む。そうなったら幸せにするから!」

「待ってくれ、ハルたちに言うのだけはやめてくれ‥少し考える時間を‥」

そう言ったときにはもう居なかった。

転移で帰ってる。

ああまずいことになった。明日が来るのが怖い

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