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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第二章

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22/25

また明日



あの日から1週間が経った。

突然、王城で櫻子さんに会う許可が出た。

連絡を受けたときレイたちといたので、そのまま4人で王城に向かった。


僕らの乗った馬車が王城の門をくぐり、降りた先の扉を開くと、そこにはこの国の皇太子殿下がいた。


「やあみんな、学園生活は楽しんでるかな?」

そう言って微笑んだ人の前に4人で慌てて跪いた。


皇太子殿下は、とてつもないかわいい顔のこの国の王子様だ。この国の誰もが愛する理想的な王子様。かわいい顔が好きな櫻子さんと皇太子殿下という組み合わせに、なんだか嫌な予感がしたが、跪いたまま目で櫻子さんを探した。




「彼女なら今こちらに向かっている。ここで待っているといいよ」

「ありがとうございます。」

何もかもお見通しのような殿下に誘われて、大きなソファのある間に通されて4人で腰掛けた。


あの日以降、僕以外の3人は櫻子さんに会ってない事もあり、少し空気が重たい。





「殿下は有栖川櫻子をどう思いますか?」

シオンがそう聞いた。他にいくらでも話題があるだろうに、よりによって聞きにくくて一番気になることを‥。




「私は、可愛らしいと思っているよ。」

「可愛らしい?」

思っていたより呆気ない返事に驚いた顔をしてしまった。



「ねぇ皆、私が彼女と結婚したいと言ったらどうする?四家は応援してくれるかな」

殿下は紅茶を飲みながら微笑んだ。

僕は息を呑んだ。そんな、まさか皇太子まで?


ただでさえレイもいて大変なのに、殿下になんて勝てるわけがない。

僕はこの国全ての男に勝たないと櫻子さんを手に入れられないのだろうか?




僕が殿下の問いに答えようとしたとき、扉が叩かれて櫻子さんが入ってきた。


薄い赤色のドレスだった。皇太子の色を着ていないところにホッとしてしまう。みんなつい自分の色の服を着せたがるから。




「待たせてすまない‥この城は広くて、殿下に置いていかれると一人では迷ってしまうんだ」

「あ、そうだったね。次は一緒にこようね」

皇太子が微笑むと櫻子さんはホッとした顔をした。


なんかすごく仲良くなっていませんか?

僕は内心全く心穏やかではないが、お構いなしにシオンたちは話しかけている。




「さくら、あの日は助けてくれたのにお礼も言わずごめんね。ありがとう」

レイが立ち上がって言った。シオンやリアも続く。



「‥私があんなことしたら、怖がって近づかないのが普通なんだ。貴方達は‥変わってるよ」

「‥聞いてもいいなら、詳しい事情を教えてくれない?」

シオンがそう言ったら、先輩は話し出した。



「私の家には‥稀に赤色を持つ子が生まれてくるんだ。大抵は気狂いなので、生まれたらすぐ別棟で親元から離されて育つ。私は‥たまたま運がいいのか悪いのか気は狂わず、別棟で叔父に育てられた。封言の力が使えるようになった10歳からは、皆が見たような方法で犯罪をした人間を殺めていた」

先輩の叔父は国の仕事をしていて、その伝手でこの学園に来たと。



「私のような色を持つものは国では赤い化け物と呼ばれる。気狂いが多いからな。私は、犯罪を犯した者を殺すことに躊躇いがない。その無駄な正義感のせいで‥一ノ瀬の弟を守れなかった‥改めて申し訳なかった‥皆も驚かせてすまない。」

頭を深く下げて櫻子さんは言う。



僕は櫻子さんは何でもできると思っていた。


何も怖い事なんてないと。だから勝手にルカのことも何とかしてくれると思ってたんだろう。

でも現実は、助けたければ僕が何かすべきだったんだ。




「僕はもちろん、先輩には感謝しかありません」

「俺は‥正直言って怖かったけど、今はもう怖くないよ、さくら、ごめんね」

レイはそう言った。


「俺は、死んで当然とは思いたくないが、あれだけの数の敵をどうしたら正解だったかと言われると答えが出ない。まだまだ未熟で鍛錬不足だ。貴女に申し訳ない」

リアが言うと、先輩は首を振る


「俺は何も出来なかった‥見ているだけで歯痒かった。ハルの助けにもなれないなんて次は絶対に嫌だ。俺にも出来ることを探すよ。一人にしてごめん」

シオンは涙ぐんでいた。

みんな心から僕を助けようと思ってくれていたんだと思って嬉しくなった。僕は首を振ってシオンにお礼を言った





「で。彼女のことだけど、私は学園に戻るべきだと思う。王にも確認したよ。彼女はまだ受けたい授業が沢山あるんだろうし、私もあと1年くらい待ってみてもいいし。」

皇太子殿下が微笑みながら言った。その言葉に先輩が喜んだ顔をしたのを見た。



「何を1年待つんですか?」

「うん、結婚だよ」

しれっと皇太子に言われて危うく紅茶を吹き出しそうになった。



「まぁ私ではないにせよ、彼女の結婚相手はこの国で決めてもらって、この国で生きてもらわないと。それが学園にいく条件だよ。」

「で、殿下‥結婚って‥」

「もちろん相手は私でもいい。私は貴女となら国を守っていけそうだ」

殿下は櫻子さんに向き合って、手の甲に口付けた。



嫌な予感は的中した。

先輩も動揺しているが、強く拒絶していない。


この皇太子に会わせるのはこのリスクがあったから嫌だったのに!!!!!





「フェリス、ダメだよ!俺が先に求婚してたんだから」

「うーん?愛に順番とかあるかなぁ」

レイも止めてるけど、殿下はしれっと受け流していた。

当の先輩はまた授業を受けれる喜びで感動しているのか、上の空だ。




「皇太子殿下!寛大な殿下のお心に感謝いたします。この櫻子、必ず卒業後はこの王国のために働きます。骨の髄までこの国のために尽くします。もう悪党でも皆殺しにはいたしません。殿下の可愛らしいお顔に誓います」

ものすごく早口で、目を輝かせて櫻子さんは一息に言った。



「うん、結婚したら毎日その可愛らしいお顔に口付けてもいいんだよ」

「‥‥‥その件は検討させていただきます」

先輩は礼をしたまま言った。


検討する?いま検討するって言った?




「先輩、僕にしたキスは遊びだったんですか?」

「俺とした方がよかったよね?」

二人で詰め寄ったけど、もう全然聞いてない。


斜め上を見てボンヤリしている。授業のこと考えてるに違いない。




「うれしい‥明日はもしかして剣術の授業なのでは?アウガス様明日の剣術は実技ですか?」

「そのはずだ」

「明日絶対に行きましょう。私はいつか剣術"も"凄いと言わせて見せます」

「ああ、そうだな。気持ちが大切だな」

ちゃっかりリアと約束してるし、ほんとに全然聞いてない。


先輩は毎週末を王城で過ごすことを外向けの条件に、家に戻ることが許された。








「我が家‥‥」

数日ぶりに先輩が家にいる。なんだかくすぐったい気持ちだ。部屋に戻った先輩がすぐに出てきた。


「なんか部屋の中が、一ノ瀬の香りがするんだが‥」

「‥‥寂しくてつい」

先輩の部屋で寝たのに気付かれてしまった。寝具も全部洗っておいたのになぜわかったのだろう?僕が使ってるのは自分で思ってるより強い香水なのだろうか‥




「というか一ノ瀬はなぜまだ家にいるんだ」

「だって櫻子さん、お婿さんを探すんですよね?」

「そうだ。見つからず王妃になるのは困るからな。到底私に務まるとは思えない」

王冠をつける先輩は容易に想像できたが言わないことにした。



「僕が一番にお婿さんに立候補して、見張っておかないと。櫻子さんは強く迫られたら拒めないんですから危ないです」

「そんなことないだろ。いざとなれば封言で飛ばすぞ」

「‥‥キスされたらできないくせに」

僕はもうわかっていた。レイに唇を塞がれてる間や、僕にされているときは何もできなかったこと。


櫻子さんはかなり押しに弱い。かわいい顔に弱いのと同じくらいに。




「‥皇太子のこと好きになりました?」

「いやそんな‥‥不敬だぞ」


「だって皇太子は先輩の好みじゃないですか」

「‥‥なんでそんなに皆、私の好みを知ってるんだ‥」

先輩は否定しなかった。大きな丸い目にふわふわの髪、いつも笑顔な皇太子は歳上でもかわいい部類だろう。


方や僕は、成長して父に似てきた目、髪色は変わっていないけれど、僕は背がかなり伸びた。女の子に間違えられていたのが随分前に感じる。もう体型もしっかり男になってしまった。あの頃の制服はもちろん入らない



「‥‥もう僕は可愛らしくないから嫌ですか?好ましいのは、瞳の色だけ?」

僕だなんて言ってるのも、本当はかわい子ぶりたいだけなのかもしれない。

どうしたって櫻子さんの好きな人にはなれないのか。



「‥‥一ノ瀬のことは大切に思うよ。瞳の色だけじゃなく、背が伸びても変わらない。でも現実的に四家の跡継ぎとは結婚できないと思う」

「‥どうしてですか」

「私は国を背負う教育なんて受けていない。民に恥じない統治はできそうにないからだ。そんな人間が妻では困るだろう」

僕よりいい王になると思うのだが、先輩はいつも封言以外には全く自信がない。



「だから適当な貴族か一般人を見つけるつもりだ。ま、家には好きなだけいてもらって構わない。おやすみ一ノ瀬、良い夢を」

先輩はそう言って部屋に戻った。





先輩はまだ自分を好きな男が誰なのか理解していないらしい。



翌日、朝から学園で男性に声をかけてみようとする先輩はことごとく避けられていた


僕の色を纏ってレイと踊り、皇太子殿下の保護の下で学園に通う彼女に近づく貴族や一般生徒なんて居ないのだ。






「‥早く諦めてくれたらいいのに」

その中でも僕を選んでほしい。

レイでも皇太子でもなく、僕にしてほしい。

強く願ったら封言で叶えばいいのに。




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