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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第二章

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皇太子との邂逅

目が覚めたら知らない天井だった。

まだ空は暗く、夜中なことがわかった。



また記憶を失ってしまったのかと思ったが、そうではないようだ。

ここは私の家ではなく、いまは王命によって王城で寝泊まりしていたのだった。


天蓋付きのベッド、枕元には美しいライト、ふかふかで大きな枕にクッション、必要があるのかわからないほど大きな窓にカーテン、全てが美しく、全てが大きかった。


 


「……これでは客人のようだ…」

「紛れもなく客人ですよ」

 誰もいないと思っていた暗い空間から声がして身を起こした。


ライトを1つだけつけてソファに腰掛けていたその人はこちらに向かってきて、胸に手を当て一礼した。

 

 

「はじめまして、私はフェリクス・ヘリオドールと申します。」

「……ヘリオドール……」

それは確か、王族の名ではなかったか。


顔を上げたその人が目を開くと、輝く金の髪に空のような澄んだ青い瞳をしていた


金髪碧眼はこの王国では、王族にしか現れない。ましてやこの美しい整った顔は、私がどんな僻地の生まれでもその出自が一目でわかるだろう。

 


「…国の宝たる輝ける皇太子殿下にご挨拶致します。このようなお見苦しい姿で申し訳ありません」

「私が寝ている貴方の部屋に来たのです。無礼なのは私の方です、こちらこそ申し訳ありません」

布団から起きて立って礼をしたが、確かに無礼極まりない行動だ。

皇太子殿下は寝ている女性の部屋で読書をするのが趣味なのか?


そもそも用意されていた寝巻きは布の面積が極端に少ない、世にいうネグリジェと呼ばれるようなものだ。私の家から服を持ってきてくれるつもりはないらしい。

それとも王族はみなこれで寝るのが当たり前なのだろうか。


「いえ、それは未婚の女性だけかと思われます」

「‥‥‥殿下‥?」

口には出していないのに、思ったことの返答が返ってきて驚く。

まさかこの国の王族は、人の心が読めるのか?


「そうなんです。でもそれは王族でもごく一部の人間で、四家の人間でも知りません。」

「‥‥では取り繕っても無駄ですね」

私は礼から直り、そそくさとタオルケットを身につける。


「貴女は面白い人ですね」

皇太子は愉快そうに笑った。


どうせこの秘密を聞いた時点で、私の進退は決まったも同じだった。もうこの国から逃がすことはないという宣言だろう。


私の考えをまた読んだのか、殿下はそれはそれはかわいい顔でにっこり笑った。



「私の顔が気に入りましたか、よかった」

「‥私の不敬については気にしないでいただけますか?」

私は顔がかわいい人間に弱いのだ、もう仕方ない認めざる負えない


皇太子はそれはそれは可愛らしい顔をしている

くりくりの大きな澄んだ青の瞳に、金のふわふわした髪、宗教画の天使のようだった


私が芸術家だったら殿下をモデルに作品を制作している。創作意欲が湧いて仕方ないだろう。湧水のように油田のように


「‥今、考えたことも気にしないでください」

私が顔から火が出るほど恥ずかしく思っていると、殿下がグッと近づいてくる。


それはそれは美しい瞳が私をまっすぐ見ている。どうしよう‥殿下の‥‥殿下のポスターを部屋に飾りたい。

神は居ないと思っていたが、殿下を生み出す時だけはやる気を出したに違いない。美術品のようだ



「‥貴女は私に色仕掛けをしたり、取り入ったりしないのですね」

「‥‥ご期待に添えずすみません」

色事は苦手だ、そもそも何をしていいかわからない。

口付けだって、グレインや一ノ瀬としかしたことがない。色仕掛けをしろと新年祭で言われた時はほとほと困ったものだ。

考えが読まれてしまうのに、何も考えないのは難しくあれこれ考えてしまう。


「彼らとそんな関係だったのですか?」

「‥いや、なんというか‥奪われたり奪ったり‥」


「爛れた生活を?」

「ただっ‥‥ハイ‥」

私が記憶をなくしていたとは言え、確かに口付けをしすぎているかもしれない。

一ノ瀬に関しては封言で願われたとはいえ、私が奪ってしまったのは確かだ。


しかも今もタオルケットで覆っているとはいえ肌をさらして‥痴女に間違いない。今すぐ窓から飛び降りて逃げたい。指を鳴らして逃げたら不敬罪になるだろうか?



「貴女が世間で思われているような方でなくて安心しました」

殿下に聞こえているのをまた忘れて考えを巡らせてしまった。



「‥いえ殿下、私は紛れもなく人殺しです」

「能力のことではないのです。事件のことは分かっています。」

違う、私は、自分の国でも同じようなことをやっていた。

家の命令とは言え私は守ることより奪うことや壊すことの方ばかりをしてきた。化け物で合っている。今も痴女なのも紛れもない事実だ。



私の心を読んだはずなのに、皇太子は微笑んで私に一礼した。



「朝が来たら食事をして、散歩をしましょう。私は5歳年上です。私のことは兄だと思ってこの城で過ごしてください」

「えっ5つも!?」

てっきり歳下かと思っていたのに、23歳だったのか?


歳下だと思っていたのに!?16歳の間違いではないのか?どう見ても16歳なのに?!

思っていたより大きな声が出てしまった。慌てて口を覆って頭を下げた。




「大変失礼致しました‥明朝のお約束ありがたくお受けいたします」

皇太子は部屋を出るまでずっと笑っていた。

顔から火が出るほど恥ずかしかった。


皇太子の前では取り繕っても無駄だった、隠し事ができないのだから仕方ない。


皇太子が帰ったあと、夜にも関わらずシルクのパジャマが部屋に届いた。

私は有り難く袖を通して、布に包まれる安心感で眠った。






翌朝


起きて身支度をしていると、侍女がやってきてテキパキと私の身支度を手直ししていく。

ふんわりとした水色のドレスを与えられ、もう何とでもなれと思い食事へ向かった



「おはよう。いい朝ですね」

皇太子殿下は席についていた。私はその向かいの席に座った。朝食が始まり、私は家で食べた一ノ瀬のパンを思い出した。


「ハルトと随分親密になったようですね」

「‥半年ほど家にいましたので」

皇太子殿下も四家の人間を当たり前のように呼び捨てにしている。皇太子殿下も幼馴染なのだろうか?


「そうです。四家の人間は多いので、親しいのは同じ年頃の子たちだけですがね」

心の声にも応えてくれるから、便利だが余計なことを考えてしまわないか心配だ‥


皇太子殿下は微笑んでいる‥朝の光を浴びた瞳も髪も美しい。本当に23歳なのか?16歳じゃなくて?かわいすぎるな 所作の美しい16歳だ かわいいな



「‥すみません‥」

謝ってばかりだ。他のことを考えなければ、パンのことを考えておこう パンは誰も傷つけない 美味しいパンだ パンパンパンパン


皇太子は全て読んだのか笑っていた





食事の後は庭園の散歩に誘われた。

3月になり、突然暖かい日が増えた。春が来たのだ。




「貴女は四家のそれぞれの国は見たことがありますか?」

「いえ、この王都だけです」

「それぞれの国に素晴らしいところがあります。全く違う国が寄せ集まってできているこの王国が、私は好きなのです。貴女にも好きになって貰えたら嬉しいです」

皇太子殿下はそう言った。



この王都の素晴らしさなら私にもわかる。

四家のそれぞれの国に行ける日が来るのだろうか。

それぞれの顔を思い出して懐かしくなった。

皆は今頃授業を受けているのだろうか、今日は何の授業だったか、羨ましいな


「貴女は本当に学園が好きなのですね」

「‥‥私は自分の国では、学ぶ機会も他人と言葉を交わすこともなかったので‥とても良い時間でした。」

「‥‥そうですか」

私の事情まで伝わっていたのか、皇太子殿下の顔が曇った。


思わずかわいい顔をつい見つめてしまう。いつもこんなに人の顔を見ていただろうか?眉を顰めてもかわいらしい。


成人している男性にこんなことを考えてはいけない!やめなければ!全て聞こえてしまうのに!




「そんなに褒められると悪い気はしませんね」

「‥離れて歩きます‥不敬な態度で申し訳ありません」

「その必要はありませんよ、かわいいと言われるのに慣れてきました。普段は嫌なんですがね」

エスコートされていた手を離そうとしたが、なんなら腕を組む形にされた。かわいいと考えるのはやめないとだめだ。


背は私より少し高いくらいで変わらないのに、どうしてこんなに若く可愛らしい印象なのか。

皇太子の優しい雰囲気のせいなのかわからなかった。


ああまた可愛らしいって思ってしまった

皇太子は前を向いて笑っている かわいい仕草をやめてほしい もうだめだ



「殿下はとても可愛らしいです‥すみません‥」

「貴女もとても可愛らしいよ。赤い小さな鳥のようだね」

ピーピーうるさいという比喩だろうか‥。

コミュニケーションを取るのが苦手な私は、つい黙ってしまう。黙っていても脳内で騒がしいことが、皇太子殿下にはわかってしまう。

脳内を黙らせる方法を知りたかった


殿下はまた微笑んでいた。とびっきりかわいらしく。

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