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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第一章

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15/25

新年祭②

1月11日

 新年会2日目の朝が来た。

昨日はどうやら私は怪我、一ノ瀬は目の前で死人を見て満身創痍になったらしい。


全く不甲斐ない結果だ。恥ずかしくて穴があったら入りたい。

 

「今日は事が起こる前に絶対止める」

「お、朝から意欲的で素晴らしいな」

 オレンジの髪の男が私の背中を押す。

勢いが良すぎてつんのめってしまい、前にいた大きな人影に顔から埋もれてしまった。

 

「さくら大丈夫!?」

「‥幸先が悪い…」

私が埋もれたのは何も映していないような黒目に青い髪のグレイン家の次期当主の胸元だった。


私も割と背が高いほうだが、私が顔を埋めても余りあるほど背が高い。二メートルはある。

大木かと思うほど背が高い。


「‥貴方は門は屈んで潜るのか?」

「え?」

「‥‥いや、何でもない」

呆けて馬鹿なことを聞いてしまった。


この学園の門は三メートルはあるのだからそんなわけないのに、突然疑問に思いそのまま口にしてしまった。

 


「かわいいね、さくら」

あっと思ったら唇が触れていた。

爽やかなベリーの香りと味がする。またやられた‥気を抜いたら口付けされると記録があったのに、完全に気を抜いていた

 

「またお前はそうやって!」

「レイ!酷いぞ!」

私の代わりに三人が抗議をする。

ニコニコする大木のようなボンボンを押しやった。

 

「この程度のことで心を揺らしてはならない…今日は絶対に被害を出さないぞ…」

私が口を拭いそう言うと、またニコニコしている。



「そう?じゃもう一度」

ちゅっ、と音を立ててまた唇を奪われた。


何なんだこの変質者は‥?


全く想定していない攻撃に動揺が隠せない。

私は一体どんな状況に置かれているんだ?


日記には一ノ瀬を守るとしか書いていなかったのに、私の貞操も狙われていたのか‥?命を狙われ、死にそうな人間がいるときにそんなことを?!


青髪の人間が信じられなくて目を見開いて固まってしまう。





「レイ‥僕本当に怒ってるよ‥?」

「さくらにちゃんと謝るから!ハル、会場燃やさないで、ごめんごめん」

一ノ瀬の手には火が上がっている。

一ノ瀬の家は加護を受けると火を扱えるようだ。


今にも全てを燃やしそうな一ノ瀬を止めて、また口を拭った。


一ノ瀬はこうして怒れるのに、自分が殺されそうになっても火を使わなかったな



 

「さくらさん、これで口濯いでいいですよ!」

一ノ瀬が水を持ってきてくれた。

ベリーの味が流される。

どうしてこう甘い味がするのだろうか。


 

 

「今日はハルから離れないで。昨日はごめんね、俺が甘かったよ」

改めて口を拭いなかったことにしていると、降谷シオンが私に頭を下げる。


何か昨日私に対して不手際があったようだ。詳細を聞いたが、当たり前の対応だったと思う。

貴族しか入れないところに私が入ることはできない。


 

「私に謝る必要はありません。私は私にやれることを精一杯やるだけです。」

「…うん、昨日はありがとう。最初は疑ってたけど、今は俺も貴女を信頼してるよ」

私の手の傷に自分の手を添えてから降谷は去って行った。


この手の傷は昨日のものだと聞いたが、そう聞くとどこか誇らしいように感じる。まだ少し痛むが問題ない。

 

 

 

「さくらさん、行きましょう」

一ノ瀬の言葉に頷く。


今日の予定は昼過ぎの一般観覧の挨拶周りと、夜の懇親会だけなので、それ以外の時間は人目に付かないところに隠れるようにした。


家に帰ってもいいのだが、家も恐らく監視されているだろう。狙われると分かっていて我が家を戦地にはしたくなかった。


服装を制服から私服に変えて、一般客に紛れて学園内を歩いている。

一ノ瀬の髪色はどこにいても目立つから。人を隠すなら人の中だ。

 

 


人だかりをなるべく回避して、周囲に怪しい人影や突然接近する人がいないか見ていた。


「さくらさん、せっかくだから色々見て回りませんか?」

「‥‥いや、私はそんなつもりは‥」

「デートだと思って見て回りましょう!」

そう言って私の手を握って引いた。

どう考えても命を狙われながらデートなんてありえない。ただでさえ気を張っているのに楽しむ余裕なんてなかった。



でも、普段は真面目な顔をして学問を説いている教師たちが、一般の人からの問いかけにしどろもどろになって答えている姿

売店には封言によって作られた工芸品が並んでいる

封言の講義の講堂では、日常に使える簡単なものを紹介実演している


無理だ、と言いながらも思ったよりも楽しんでしまった。普段の授業にはない経験で勉強になった。


 





「僕って封言の才能ないです‥」

講堂を離れる時、一ノ瀬が呟いた。

一ノ瀬が実際に唱えてみても、うんともすんとも言わなかったときは焦った。

理論がわかれば誰にでもできる、と普段声高に言っているのが申し訳なくなってきた。


 

「まぁ、貴方は何かを強く願ったり祈ったことがないのかもしれないな」

「そうなんですかね……」

きっと何もかもを人に譲って来たんだろう。

現に今だって扉の前で小さな女の子のグループに永遠に道を譲っている。通った幼女に手を振られて喜んでいる。

待たせてすみません、そう言って駆け足で戻って来た。





休憩するために広場に来た。

あと2時間程度で懇親会だ。1時間前には行ってもいいだろう。


広場はちらほらと散歩している人はいるが、人はまばらだった。

背中に壁があれば、悪意を持って攻撃してくる人間は前に集中するだろうから守りやすい。

広場に置かれたベンチに座った。

 

周囲を軽く見て回るが、草かげにも潜んでいる人影は居ないようだ。


「‥大丈夫そうだ。」

私が戻ると一ノ瀬は手を組んで目を閉じて何か祈っていた。



「さくらさんが笑ってくれますように!」

封言を試しているようだった。

隣に座って、ぶつぶつ言うのを聞いていた。


「美味しいご飯が食べれますように」

「無から物を生むのは無理だ」

「‥さくらさんの怪我が治りますように」

「治癒はできない。」

何ならできるんですか?と言われて、何と伝えていいものか悩んだ


「その場の人やものを動かしたり、遮ったり、止めたりできる‥で伝わるだろうか。」

封言は人体などを含めた"物"を動かせる。

それは指定や解釈によって異なるので、一概にコレという説明が難しい。


かなり噛み砕いて説明したら、一ノ瀬は考える顔をした。真面目な顔を見たのは初めてだった。



「じゃあ、さくらさんに手を繋いでほしい」

「さっき勝手に繋いだだろ」

私が答えるとまた考える。



「さくらさんにキスされたい」

ベンチに置いていた手を繋ぎ、身体が近づく。

顔が近づいてきて、朝のグレインを思い出して身を引いた。


私がそうするのを見てじりじり近寄ってくる。

 

「僕にキスしてください。」

「嫌だ」

じりじりと距離を詰められる。


何故この男たちは皆私とキスしたいのだろう

そもそも口が触れる行為に何の意味が?

手がベンチの端に触れて、そこから先には何も無かった。


立ちあがろうとしても手を離してくれない。

そのまま腕を引かれて腕の中に収められる。

いつのまにか私より広くなった胸元は、私を閉じこめるのには充分だった。



「僕を愛して」

「嫌だ、できない‥」

振り払うことができない。

封言のせいなのか、私の体なのに私の意思を汲まずに動かない。

背中に回された手がどんどんきつくなって痛い。

 


「今日だけでいいから…僕を好きになって‥」

離れたと思ったら、顔が近付いてきて唇が重なった。今度はベリーの味はしなかった。


驚いて腕を上げて振り払おうとしたが一ノ瀬の手で制された。

自分のではない温もりが唇から広がり、香水の甘い香りで頭がくらくらする。



ドクンドクンと大きく早く動く心臓が、誰の鼓動の音なのかわからない。そんなに早く動いたら体を飛び出してしまう。死んでしまいそうだ。





「‥っ」

やっと唇が離れて距離が出来たとき、一ノ瀬が離れても心臓の音は止まらなかった。


ドクン、ドクンと痛いくらいに心臓が鳴る。

それは私の胸から聞こえていたと気付いた。





「さくらさん、あの‥」

話そうと開いた一ノ瀬の唇にもう一度重ねた。


 

今度は一ノ瀬が大きく驚く番だった。

私が全ての体重をかけたらベンチに倒れた。

腕をぶつけたのか、痛そうにする音がする。でも止まらなかった。


ベンチに押し倒す形になり、頬を触って強引に開かれていた唇の隙間から貪るように舌を入れた。


瞳が落ちてきてしまいそうなほど見開かれる。

「ンン‥!」と声を出して一ノ瀬が身を捩るのをキスしながら見ていた。



瞳が輝く、唇が動くたびに小さい息を漏らして瞳が潤っていく。


私の長い髪が一ノ瀬の頬や髪に触れて、流れていった。片手は一ノ瀬の胸に当たっている。激しい心臓の音は今度は私のものだけではないようだった。



しばらくそうしていると、一ノ瀬は目を閉じて身を委ねることにしたようだった。


たまに目を開くと、宝石のような一ノ瀬の瞳から涙が一筋流れていた。泣かせた、とぼんやり思ったが、それでも止まれなかった。


離れたとき、舌の先と先とが透明な糸でしばらく繋がって切れた。


酸素が足りず肩で息をした。いまだ唇に残る感覚と、口の中に残る全てが自分のものではないようだった。



馬乗りになって見下ろしている一ノ瀬の唇がまた言葉を発そうと動いたとき、ようやく何をしでかしたかわかった


「ごめん!!!」

そう言って一ノ瀬をつき飛ばして逃げた。

 

 

  

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