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記憶が一日しか持ちませんので、貴方のことは知りません  作者: 涙川
第一章

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14/25

交流会

 


「王都はとても寒いんですのね」

「そうですね、外はまだ雪が降る日も多いです。」

僕は屋内庭園を煌びやかな他国の女性の手を引いて歩いていた。微笑まれてやんわり微笑み返す。

来賓客をもてなすために、四家で学園に通う人間が駆り出されていた、まぁ、それはいい。


でも絶対にわざと僕に若い女性のエスコート役をやらせたんだ。レイは髭を蓄えた男性たちを恭しく案内していた。僕もおじさんがよかった。


 

「きゃっ!」

危なかった〜!などと言いながら僕の腕にムギュムギュと胸を押し付けてくる。

香水のキツイ香りに気を失いそうになりながら、躱して笑いかける。


さっきからことある事にこうだ。

 

貴族のやり取りは低俗で嫌になる。

この女性はきっと、この学園の生徒の婚約者の座を狙ってはるばる送られて来たのだろう。



 さくらさんの胸元は触ったら柔らかだったろうに、全くこれはうれしくない

 

「それはまずい」

「え?」

「いえ、あ、失礼しました…」

だめだだめだ余計なことを考えるな。

 このエスコートを乗り切ればまた先輩のそばに居られる。奥歯を噛んで耐えるんだ。

 


冬だから大して咲いていない花園を木の一本まで細かく説明して話題を作って乗り切った。

もはや後半の説明は自分でも「どこにあるの?」と言うほどまだ咲いてなかったが、無難な花の話題から抜け出すと面倒だった。


「随分とお詳しいんですのね。もっとお聞きしたいですわ。二人きりで」

頬を染めて食事の約束を取り付けようとする女性を丁重に断り、では飲み物だけでも……と言われてグラスを交わした。

 

 一口ごくり、と飲んだあと目を女性に向けたら、女性は口から血を出していた。

 血が一気に引いたのを感じた。


女性は赤い肌から真っ青になっていき、目玉がぐるんと回ってその場に倒れた。

 




 今度は毒だ————

 







 




「ごめん、気を抜いた。まさかこんなところまで入り込んでいたなんて……」

 シオンが頭を下げる。僕は大丈夫だよと繰り返すしかできず、ソファに座ったままだった。



 

「……大丈夫じゃない」

 さくらさんが膝をついて、ソファに座る僕の前に座った。

 


「全然大丈夫じゃない」

繰り返して僕の手の上に手を重ねてくれる。


視界が滲むのがわかる。

目の前で人が死んだのを見たのは初めてだった。目を閉じたら思い出してしまう、口から出た血も生気のあった顔も無くなった顔も全て。

 


僕が泣きついて、さくらさんは抱きしめてくれた。

僕がもっと最初から立派な絶対的な後継者だったら違っていたのだろうか?


ルカに後継者を譲ろうと変に気を回したり弱気なところを見せたから、周囲はルカに期待したのだろうか?

 



「僕のせいで…人が死んでいきます…」

「違う、彼らが死ぬのは彼らが選んだことだ。私たちには何もできなかった。」


「でもルカは、弟は、僕がしっかりした後継者じゃないせいで…」

「だからって人を殺そうとする方が間違えてる。貴方は悪くない。悪いと言うやつがいるなら私が許さない」

さくらさんが普段にないほど優しく背中を撫でてくれる。

もう今日だけで二回死んでいたかもしれない。なぜこんなことになったのか。仲のいい家族だったのに。

 



 しばらく泣いて、ふと気付いたら目の前にさくらさんの胸元があった。顔にネックレスがぶつかり我に返った。途端に恥ずかしくなった。


「さ、さくらさん……すみません……」

「誰でも目の前で人が死んだらそうなる、気にするな」

 よく考えたらレイたちもいた筈なのに周りには誰も居なくなっていた。



 

「飲み物を取りに行くと言っていた、そのうち戻って来るだろう」

 そう言いながらも僕の頭を撫でている。僕が泣き止んでも離れようとは思っていないらしい。


 豊かな胸元が目の前で揺れている。


しつこい!考えたらダメだ。慈愛の気持ちで抱きしめて慰めてくれた人をいやらしい目で見るな。

 

 



「私が離れたのが悪かった、すまなかったな。守ると約束したのに」

「そんな、守護のおかげで無事ですから」

「もし……あれが毒ではなく媚薬だったら私では防げなかった。誘惑に負けて他の家で寝て朝を迎えてしまっていたら、守護が切れていただろう」

 その可能性は考えていなかった……そもそも僕が媚薬で他の女性とどうにかなるかはわからないが、害をどこまでとするかは曖昧なのか……


もはや他の女性も全て弾いてくれませんか?いつかそうなったらいいのに

  



「女性を全て弾いたら、結婚相手を探せないじゃないか」

 思っていただけだと思ったのに、口に出ていたらしい。

 

「…もう探さなくてもいいんです」‥

「まだ諦めるな、美しい髪と瞳が泣くぞ」

 もう探さなくてもここに居るからいいのに。


初めて会ったときはあんなに大きく見えた肩が、今は腕の中に収めることができる。このまま朝も昼も夜も過ごせたらいいのに。

 





 

「こんこーん、もう大丈夫?」

入り口からレイの声がして慌てて離れた。

少し離れがたかったが、みんなの前でいつまでもメソメソしているわけにはいかなかった。

 

 

「明日は一般交流と夜は懇親会だけだ。なんとか乗り切ろうね」

 レイが僕の背中を叩く。生きて乗り切ろう。早く明日が終わって、また平穏な日々が来ますように。

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