表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話『剣じゃ銃とは相討ちになるようです』

誤字脱字等ありましたら報告してくださると大変助かります。

周防転剣流(すおうてんけんりゅう)

俺の家系で先祖代々絶やさずに継いで来た、古流剣術だ。

昔は道場を開いていたようだが、年々門下生が減少していき、俺が産まれる前に親父がその門を閉じたらしい。

そういう訳で、その父の亡き今この剣術の使い手は俺一人となっている。

その俺も今日が30歳の誕生日、付き合っている女性も良い感じの女性もおらず、周防転剣流は存続の危機に瀕している。


「どうしたもんかなぁ⋯⋯」


仕事を終え、帰路に着いた俺は人っ子一人見えない静かな住宅地を歩きながら、そう独りごちた。

周防転剣流は先祖代々受け継がれてきた流派だ。

それを絶やしたくない気持ちはある。

あるんだが⋯⋯


「父さんみたいに子供に伝えようにも、俺にゃ奥さんどころか仲の良い女性すらほぼいねぇからな⋯⋯」


青春を全て剣術に捧げた俺だ、なんなら仲の良い女性どころか友人すらろくに居ないんだよなぁ⋯⋯。

弟子をとろうにも、30年以上も前に閉まった剣術道場に今更来てくれる人がいるとも思えない。

かれこれ1年、ずっと悩んでいるのだが未だに有効な打開策は1つも浮かんでいない。


「⋯⋯あれ、ここ何処だ?」


今日も今日とて帰路に着いた瞬間から頭を悩ませていたせいか、いつの間にかに来た事の無い、全く知らない場所に来てしまっていた。

周りにあるのは見るからに稼働していない廃工場だけ。

一度物事に集中するとその事しか考えられなくなるのは俺の悪い癖だな。


「元の道わっと⋯⋯ん?」


スマホのマップ機能を使い、元々歩いていた道へ引き返そうとした、その瞬間。


「⋯⋯っ!⋯⋯⋯⋯っ!!」


隣の廃工場から微かに、女の子の叫び声が聞こえた気がした。


「な!?」


現在時刻は23時30分。

こんな所、女の子どころか男ですら通る奴はいないだろう。


「⋯⋯」


目を閉じ、極限まで耳をすませるが、もう声は聞こえない。

それは100人の人が聞けば99人は気の所為だ、と言うだろう程の小さな小さな声だった。

というか、俺も気の所為だろうと思っている。


(だけどな⋯⋯)


もしここで気の所為だと割り切り、道を引き返してしまえば一生後悔する、そんな気がした。


(何やってんだろうな、俺は)


月の光だけが差し込む、荒廃した暗い廊下を一切の足音を立てずに歩く。

部屋の中を覗く、誰もいない。何かの製造場を覗く、誰もいない。部屋の中を覗く、誰もいない

社長室らしき部屋を覗く、誰もいない。

覗く、いない。覗く、いない。覗く、いない。覗く、いない。覗く、いない。覗く、いない。覗く、いない。

廃工場の誰もいない部屋や何かの製造場等をほぼ全てあらかた調べ終え、残るは本工場から少し離れた所にある倉庫だけとなった。


「⋯⋯、⋯⋯。」

「っ!」


耳を倉庫の扉に当てて中の音を聞いてみると、かすかに誰かの話し声が聞こえた。

俺は途中で拾った鉄パイプを強く握り締めて気合いを入れ直す。


「⋯⋯よし、行くか」


バカ正直に扉から入る事はせず、倉庫の周りを見て回り、入れそうな場所が無いか探す。

扉の反対側まで廻ってみると、人1人が通れそうなほど大きくガラスが割れている窓を発見した。

そこから中を覗いてみると、縄で椅子に縛られ、ガムテープで口を抑えられている中学生くらいの女の子と片手に銃を持ち、もう片方の手にスマホを持って誰かと電話をしている黒ずくめの男が見えた。


「おいおいおい、まさかあの銃本物じゃないよな?」


防弾チョッキなんて持っているはずもないし、もし撃たれたら一溜りもないぞ!?

だが、こんな現場を目撃して何もせずに引き返し、家に帰るという選択肢は俺には無かった。

俺は音を立てずに窓を越え、気づかれないように細心の注意を払って2人に近づ━━━━━


パリン、と音が鳴った。


何処から?俺の足元からだ。

足元を見てみると、暗くて良く見えないがどうやらガラスの破片を踏んずけてしまったようだ。

視線を戻すと、2人ともとバッチリと目が合った。

黒ずくめの男がこちらへと銃口を向けた。


「ありゃぁ⋯⋯こらまずいや」


俺は今までの人生で1番だと自信を持って言える反応速度で横っ飛びをした。

瞬間、ヒュン⋯⋯と、元いた場所から何かが風を切る音が聞こえ、後ろからガギン、と何かが着弾する音が聞こえた。


「あれ⋯⋯本物じゃね?」


もしあれが当たっていたらと考えたら、冷や汗が止まらない。

俺は物陰へと一直線に走り、ギリギリの所で身を隠した。


「やべぇってマジこれ!」


今は日本語がおかしくなっている事になど気を回してはいられない。

そして、この極限状態で俺が導き出した打開策はというと。


Q.(鉄パイプ)で銃を持ってる相手にどうやったら勝てますか?

A.真正面からカチコミましょう。


これだ。なんて脳筋なんだろう。


「カチコミじゃオラァァァ!!」


俺は物陰から飛び出し、両腕とバールでできる限り身体を隠しながら黒ずくめの男へ向けて突撃した。

黒ずくめの男は一瞬動揺したように固まったが、すぐに気を取り直して銃口を向けた。


「舐めんなゴラァ!」


黒ずくめの男が発砲するよりも速く、俺はさっき手に取っていたガラスの破片を男目掛けて思い切りぶん投げた。

黒ずくめの男はそれに怯んで避けの体勢に入った。


「馬鹿がァ!」


2人と物陰の距離は目測で役60メートル。

俺の直近で測った(1か月前)五十メートル走のタイムは6秒17、ギリギリ間に合う!

俺は防御を捨て、全力で距離を潰しにかかった。

その甲斐あってか、黒ずくめの男が体勢はまだ体勢を崩しているのに対してこちらはあと5メートル程で射程圏内に入る。


(あと4メートル⋯⋯3、2、1⋯⋯ここ!)


一秒もせずに俺は(鉄パイプ)の射程圏内に入り、それを黒ずくめの胴体目掛けて思いっきり振りぬこうとした、その瞬間。


バンッと、嫌な音がした。


「あ⋯⋯ら?」


不思議な感覚がして、視線を俺の身体へ向けると、脇腹に小さな穴が開き、そこから見たことが無いレベルで血が吹き出ていた。

再び視線を黒ずくめ男に戻すと、相変わらず体勢は崩れていたがその手に持たれている銃は、しっかりと俺に向いていた。

黒ずくめの男も当たるとは思っていなかったのか、驚いたように固まっている。


「っ⋯⋯らぁ!」


それでも俺は全身全霊で振り抜くと、それが脇腹に入り黒ずくめの男は吹っ飛んだ。

一緒に銃も落としてくれたのは棚ぼただな。

それでも黒ずくめの男は立とうとしたので、鉄パイプを投げた。

すると綺麗な放物線を描き、頭に当たった。

そして、黒ずくめの男はバタリと地を舐めて動かなくなった。

⋯⋯どうか気絶しているだけだと願おう。


「ごふっ⋯⋯」


おっと、これはまずいな⋯⋯口からも血が出始めた。

だが不思議と、痛みは感じない。

俺はあまり力が入らない手で何とか女の子の拘束を解き、自由にしてあげた。


「⋯⋯動ける?」


俺がそう声をかけると、女の子は視界がボヤけているにも関わらずはっきりと分かるほどに顔を青くしていた。

まぁ、この歳でこんな経験をしたらそうなるのも仕方がないだろう。


「あ、あの⋯⋯助けてくれてありがとうございます⋯⋯じゃなくて!は、早く救急車呼ばなきゃ⋯⋯」


彼女はすぐさま黒ずくめの男に近づき、上着のポケットから彼女の物だろうスマホを取り出して電話をかけ始めた。

ただまぁ、彼女には少し悪いけど、これは多分助からないだろうなぁ⋯⋯。

俺がそんな事を考えていると、通報が終わったのか彼女が駆け寄ってきた。


「す、すぐに救急車が来るみたいですから、楽な体勢になってください」

「そう、だね⋯⋯そうさせてもらおうかな」


俺は彼女の手を借り、壁に寄りかかるようにして床に座った。

身体がどんどん冷たくなって、手足が動かせなくなっていく。


「っ、出血が止まりません⋯⋯」


彼女はポケットから綺麗なハンカチを取り出し、傷口に強く押し当ててくれている。

だが傷は思っていたよりも重いようで、それだけでは全然止まらないどころか、むしろ悪化していく。


(あぁ⋯⋯こりゃだめだな)


とてもじゃないが、救急車が来るまで持ちそうにない。

黒ずくめの男を見ると、まだ全然起きそうにない。

この調子ならあいつが起きるよりも早く、倉庫に入る前に通報した警察が到着するだろう。


「⋯⋯なさい」


その時、音がかすみ始めた耳に声が届いた。

声の発生源を見ると、彼女が俯き小さな声で「ごめんなさい」と連呼している。

それは違うだろ。

ほとんど何も考えられない思考の中でも、一瞬でそう考えられた。

悪いのは誘拐?したあの男で、俺は大人しく警察を待ってりゃ良かったのに蛮勇で勝手に助けに来て、勝手に死にかけている阿呆だ。

彼女は一貫して、被害者だ。

そう伝えようとしたが、上手く喋れない。

とりあえず落ち着かせようとして、何とか右手を彼女の頭に乗せた。

だが思っていたよりも血が出ていたらしく、すぐに彼女の綺麗な黒髪が赤に染まってしまう。

ヤバっ⋯⋯と思って腕を引こうとしたが、すぐに彼女の両手に掴まれ、彼女は縋るように俺の手を自分の頬に強く押し当てた。


(温かい⋯⋯)


端の方からどんどん冷たくなっていく身体の中で、彼女の両手に包まれている右手だけが温かい。

全神経を右手に集中して投げ出してしまいたい気分だったが、今俺が死んでしまったらこの子は一生自責の念に駆られるだろう。

だから、これだけは言っておかないとな⋯⋯。

もうほとんど動かない唇を、何とか根性で動かし、痛みで引き攣る顔で無理やり笑顔を作り、俺は告げた。


「君が無事で、本当に良かった⋯⋯!」


あとから考えれば、彼女が本当に無事だったという確証は無いし、目の前でこんなショッキングが事が起きたというのに無事な訳が無いのだが、今の俺にそこまで考えられる程の思考力は残っていなかった。


俺は今度こそ全神経を右手に集中させ、確かな温もりを感じながら目を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ