何気ない日々の片隅に③
自分の口から出た言葉に自分で驚く。そして自分の口をすぐに塞ぐが、久志は少し驚いたような表情を見せたあと、笑った。
「なんでそんなこと思ったのかは知らんけど、俺はそんなことは思わんけどな。」
「でもさ〜、楓から言われたんよ。」
「そーなん?」
食べ終わって食器を片付けながらそう話す。自分で言ったことにはもう後悔していないが、少しだけ不安になる。
よくよく考えてみたら、まあ重くないのだとは思う。けど、久志以外にいないと思っている節があるのは重いんかなとは思う。
「でもさ、よくある重いってゆーのってさ、他の異性と関わるのに嫉妬するとかそんなんやん。ラノベとかアニメやったら。そんなんないもんな。」
「それはそうやな。私もそれはない気がする。ないからこそ大学でも色々友達できてるわけやし。」
「俺もそうやな。今や学科ほぼ全員と喋れる。」
これが信用なのか信頼なのか分からないけど、結局私のところに戻ってきてくれると自信を持って言えるから、普段はそうできる。
皿を洗いながらそれを手渡してってしていたらいつの間にか時間が流れていく。それと同時に不安すらも流れていっているようで、心も落ち着いていた。
「そもそもこんな生活が続いている時点で、俺は幸せやし、それに対してなんら不満はないけど。」
そう言って久志は私の額にデコピンする。
「逆に重いんかなとかそんなんで悩まれてる方が俺としては居心地悪いから。」
「そうね。ごめん。」
今まで悩んでいたことがまるでなかったように、私は笑えるようになる。心の奥底がスっと晴れていくような感じだ。
でも同時に不安になる。来年には久志はキャンパスが移動になるから、別々に暮らすことになる。会えない日々が続くということ。
「それでも不安なんよな。来年からが。」
久志は私が思っていたことをそのまま口にする。久志も同じ気持ちだったのだろうか。
「ここ3年間、ずっと桜と暮らしてきたからかな。桜がいない生活ってのが想像できひんねんな。」
「私も。久志がいない生活は想像できない。……でもさ、だからこそ今を大事にしたい。」
何気ない日々の片隅にある幸福を大切にしていきたい。何気ない日々の片隅に久志が笑っていてくれることが何よりも大切。くだらない事で笑いあって、互いが互いのことを信じあって、そして愛し合って。そんな生活を紡いでいきたい。
「傲慢かな?私。」
「それは俺も同じやろ。重くはないけど、傲慢や。」
そう笑いあって、抱きしめあった。