こころを綺麗に④
西陽が差し込む中、糸を下ろす。底を軽くつついて、足元を探っていく。
「キタキター!」
雄之助の竿がしなって、そこに引きづられていく。それを引き上げたらキジハタが上がってきた。
「「キジハタ〜!」」
上がってきたキジハタは夕陽に照らされて、防波堤を跳ねる。そこそこいいサイズだ。
「嶺北やったらリリースサイズだけど、こっちだったらこんなサイズか。」
「まあ、ボウズってのもなんやし持って帰ろうぜ。」
「だね。」
バケツの中に入れて、また糸を下ろす。バケツの中には俺が釣りあげたヒイラギたちとキジハタが1匹だけになった。
しばらくすると潮が止まってしまい、アタリすらなくなる。いつもならここでストップフィッシングとしているが、もう一度潮が動きそうなので一旦休憩にする。
「荷物見といて。氷買ってくるわ。」
「ええん?ならお言葉に甘えて。」
雄之助は車のキーをクルクルと回しながら岸に戻っていく。その背中を見送ってから、朝に買っておいた軽食をつまむ。太陽光で焼かれて、表面が軽くパリパリなっているが、それもそれで美味しい。
しばらくスマホを見ながら時間を潰していると、何やら釣れそうな感じがした。なんも科学的に根拠はない。野生の勘だ。
「やるか。」
立ち上がって針にゴカイをつける。朝から使っているからもう乾いてきているが、まだ使えそうだ。
仕掛けを海に落としたら、少し深い根の中に入っていく。ここはずっと流れが速いから、放置しすぎると地球を釣ってしまうので、たまに穴を変えながら探っていく。すると、小さなアタリがあった。
「食いな…」
指先に感覚を研ぎ澄ませて放置する。風の感覚と波の感覚の間にある魚が近づいてくる感覚を感じ取り、それに集中する。そして…
「食った!」
合わせて上げると、雄之助のよりは少し小さいが、煮付けにしたら美味そうなキジハタが釣れた。
「1晩分っと。ヒイラギと合わせて3日分ぐらいか。まあ、上々やな。」
ヒイラギとキジハタ。アジとサバばかりだった最近の晩飯に新しい色ができた。あとで桜に伝えておこう。
それからまた釣りを再開して、足元を探り続ける。すると、雄之助が帰ってきた。
「どう?調子は?」
「またアタリ出てきたで。あとキジハタ釣れた。」
「よかったやん。」
持っている氷をバケツの中に突っ込んで、雄之助も竿を持つ。そして投げて引いてを繰り返した。
日が沈んでしまうと、アタリすらなくなる。もうそろそろ潮時だなとなって、道具を片付けて帰ることにした。
「さて、帰ったら捌かなあかんな。」
「だな。俺は実家パワーあるけど、お前は晩飯作らなあかんし。」
「それを言うなよ。まあ、頑張るさ。」
夏うたをガンガンにかけて車を走らせる。最高に気持ちいい小浜旅だった。