端的に言ってアホである①
福井に帰ってきて早数日、バイトと車校の日々を過ごしているが、それ以外の時間はやることはたった1つだけ。
「いつまでアニメ見てんの?」
「そう言いながら桜も見てるくせに。」
「うるさい。セリフ聞こえないでしょ?」
一緒にベッドに寝転びながらPCの画面を見る。その中には生き生きと動くキャラクターたち。怒ったり、笑ったり、泣いたり。まるでそこに存在している人間のように振る舞う彼らは本当に魅力的だ。
バイトして、車校行って、アニメ見て、食って、寝る。そんな自堕落極まりない生活を続けていると、勉強というものが抜け落ちている気がするが、まあ気にしない。
「もうそろそろ飯にするか?」
「やな。もうそろそろ食べたい。久志、作って〜。」
「嫌だ。もうちょっと見たい。」
「私もまだ見たい。」
目を合わせることなく、そう言葉を交わす俺たち。肩と肩を触れ合わせて押し合い、その力はどんどん強くなっていく。
「おい桜。落ちるって。」
「じゃあ久志が晩飯作ったらいいやん。」
「それは断る。アニメ見たい。」
画面から目を離さず、そう断るだけ。もうすぐエンディングの時間だが、このアプリは自動再生。時間が経てば次の話に切り替わる。つまり、ほぼ永遠と続く。
「この話が終わったら一緒に作ろうや。」
「そうしよっか。もうそろそろエンディングやし。」
エンディングが流れて、そして次の話の予告が始まる。タイトルコールも終わって、切り替え場面に変わった。
約束は約束だ。俺はベッドから出ようとする。けど、身体が上手く動かない。
「さんにーいちでな。」
「うん。さんにーいちで動こ。」
そう言って、1度大きく息を吐く。
「「さんにーいち!」」
そう言って、身体を起こそうと腕を立てる。立てる。立て……
「「無理ぃー」」
結局ぐでーっとベッドに寝転んで、暗くなった部屋の中、次の話が始まるのを見る。結局やはりこうなるかと思いながら、1度大きくため息をつき、オープニング映像を眺める。何回も何回も見てきたこの映像をもう一度見る。
「動かんのか?」
「動かんやない。動けんのよ。久志も同じやろ?」
「やな。」
結局また話が始まってしまった。こうしてまた20分も晩飯の時間が遅くなる。けど、悔いはない。
「この1話終わったらな。」
「うん。この1話終わったら。」
そうして、また枕の中に頭を埋める。横目で桜を見ると、目が合って、笑いあった。やはり俺たちは端的に言ってアホである。