ただまっすぐに④
花火を心待ちにしながら砂浜に座り、買っておいた色んなものを食べる。
「今年の花火ってどんな感じやろな?」
「どーやろ?少なくとも向こうとは違うもんになってるやろな。」
「かなー?あ、これ美味しいわ。久志も食べる?」
「うん。食べる。」
「はい、あーん。」
「あーん。」
桜からオリーブ牛を使ったバーガーを1口だけ貰う。普段のバーガーとパン生地が少しだけ違って、オリーブ牛の脂とオリーブオイルの香りがふわっと香ってきた。そして、オリーブ牛の甘さも相まって美味い。
「美味しそうに食べるね。」
「まあ、実際美味いし。」
お返しにとスティックの唐揚げを桜の口の中に突っ込んだら、桜はそれをポリポリと食べた。
「なんか餌付けされてる気分。」
「実際餌付けみたいなもんやし。」
そんな話をしていたら、背後に誰かが座った。
「ねぇ、ひい君?」
「なんだい、きいさん。」
「私がやって欲しいこと、分かるよね?」
振り向かなくても分かる圧。きいは怒っているとかそんなんじゃなくて、ただ単に自分もやって欲しいという欲だけで動いている。
「はぁ…」
俺は唐揚げを1つつまみ上げそれをきいの口元に持っていった。
「やった〜!」
きいは嬉しそうにそれをカリカリと食べる。これが本当の餌付けかと感心していたら、続々とメンバーが揃ってきた。
「こんなけ人数おったのに、抽選会は全員ハズレか。」
「まあ、しゃーないね。そんな日もある。」
「来年も来たらええだけやん。」
「やな。」
4人とも俺たちの近くに座り、それぞれ色んなものをつまみながらその時を待つ。
そして、時間になった。
―ドン
光り輝く黄色の花火。夜空を照らすその光は、花のように咲いて、そして消えていった。
『……』
誰も何も喋らない。ただその色とりどりの花に魅せられているだけ。集中しているからか、少し喉が渇いてきて、でも、この景色から目を離せない。
少しだけ落ち着いたタイミングで、視線を外して飲み物を手に取ると、桜と目が合った。
「(また来ようね。みんなとも、2人ででも。)」
いたずらっぽく笑うその顔が花火に照らされる。また胸が高鳴る感じがした。
本当に、何回桜に惚れたら気が済むんだろう。大学生活が始まってからもずっと、高校時代もずっと、桜に惚れっぱなしだ。俺にそこまでの魅力があるのか不安になるけど、この笑顔を向けてくれるのが俺だけってことが何よりも嬉しい。
「(もちろん。またこの景色を、この景色よりももっとすごいものを見に来よう。)」
「(うん。)」
耳から聞こえてくる音が、花火の音なのか心臓の音なのか。そんなのは分からない。けど、確かなのは、桜のまっすぐな瞳に俺も応えないとなという意志が宿った。それだけだ。