ただまっすぐに②
「それじゃあ行くぞ〜!」
「「おー!」」
奏のそんな掛け声に反応して車がゆっくりと走り始める。見事にじゃんけんに負けて助手席に乗ることになった俺は、これからどんなことになるのかと思っていた。が、
「なんや、めっちゃ安定してるやん。」
小豆島町のあたり、ちょうど去年来た所らへんを通り過ぎる車は安定そのものだった。
「舐めんなって。俺らもちゃんと練習してきてるから、レンタカーなんて案出すねんから。」
そんな会話をしながら進んでいき、途中で左に曲がった。宿のある土庄港はこのまままっすぐの方が早いはずなのに。
「どこ行くん?」
「ん?あぁ、割と時間あるから寄り道。楓とも打ち合わせしてるからすぐ来ると思うで。」
奏が言ったように、後ろを振り返ると女子4人が乗った車が曲がってきているのが見えた。
「ホンマや。」
「やろ?この先には道の駅があってな、そこでちょっと休憩や。」
「「はーい!」」
長い1本の下り坂を下っていくと、建物が見えてきた。どうやらあれが道の駅みたいだ。
「特に何もお土産はここで買う気はないからな。スマホと財布だけ持って降りよ。」
「何があんの?」
「ソフトクリーム。」
「「ソフトクリーム!」」
車のドアを開けると、ムワッとした空気が押し寄せてくる。それに外に出ることを拒まれそうになるが、「ソフトクリーム」の言葉を聞いた瞬間に身体が自然と動き出していた。女子陣の車からもきいと桜が飛び出してくる。我先にとソフトクリームを売っているレジのところに向かった。
「「「「ソフトクリーム1つください!」」」」
全員ソフトクリームを買って、ベンチに座る。暑さで溶けるからとすぐに食べ始めた。
『うまぁ』
この暑さの中食べるアイス以上に絶品なものはないだろう。ましてや、それが海を見ながらとなれば尚更だ。
『うまぁ』
それ以上に言葉はいらない。ただ一言を呟き続けながら食べていく。溶ける前に全部食べきって、ふぅと息を吐き、海を見つめた。
「これからどうするん?」
「とりあえず宿行って、荷物整理したら祭りやな。ライブに間に合ってくれたらええやろ?」
「やっぱそれは外せんよな。」
今年行く、土庄町の小豆島まつりは、この小豆島を舞台にしたアニメの主題歌を歌った歌手のライブがある。これは外せない。
「まあ行こうぜ。まずは宿や。」
「あ〜うん。」
「分かってるけどさ〜」
「うーん」
「ちょっとね〜」
「そうそう」
「ほえー」
『動けへんなぁ〜』
すっと立ち上がるとは反対に、俺たちはまるで根が張ってしまったみたいに立ち上がることができなかった。