ぐらんぶるーに潜りたくて⑩
海の中にいる。素潜りをしている人でもそのことはほんの数分しかできないこと。そのことを機材を背負うだけで何十分も可能にする。それなりのお金がかかるし、機材も沢山必要になるが、それでもそのことが忘れられなくて、また潜る。そんな魅力がこの海には詰まっているのだ。
「ここで機材とかを全部つけて、海の方に来て。」
そう言われて、BCやフィンなどの機材の準備を済ませる。海はもう目の前だ。
波は少し立っている程度。透明度は今日はあまり高くなさそうだ。フィンを履いた足で、海まであと1段のところまで階段を降りる。
「それじゃ、ここでジャイアントスライドエントリーしてな。BCに空気入れて、レギュレータとマスクが外れないように押さえて、大きく1歩前に踏み出す。」
イントラの人がお手本を見せて、そして安全になるように少しだけ離れる。
「バディーで順番に飛び込んできて。」
まずは先輩たちから飛び込んでもらって、俺たちがその後に続く。マスクとレギュレータを押さえて、大きく前に踏み出したら、見える景色が一瞬で変わった。音はコポコポという空気を吐き出す音と、遠くから聞こえてくる船のモーターの音。上から見たら透明度は低そうだったのに、何mも先まで見える海の世界。魚たちが自由に泳ぎ回っていて、藻が流れに合わせて揺れている。海面から射し込む柔らかな光に照らされて、そんな景色が広がっていた。
海面に浮いて岸から離れる。雄之助が飛び込めるスペースを作って、立ち泳ぎをする。
雄之助が飛び込んで、準備が出来たら潜降を始める。BCの空気を抜いて、底の方に沈んだ。そして移動を始める。目の前を通っていくベラや小さなタイたち。岩の隙間にはウニや根魚がいて、移りゆく景色にいつまでも飽きない。耳抜きだけこまめにしながら沖の方に泳いでいき、底の方で静止をした。さっきまでとは違う、岩肌の見えている底。ベラやキュウセンなどに囲まれて、戯れたくなる気持ちもあるが、ここからは実習だ。
まずはレギュレータクリアから。レギュレータを外して手から離し、大きく手を回してレギュレータを見つけ、また口にくわえてレギュレータクリアをする。そこまでが一連の流れだ。
一人一人順番にやっていって、俺の番に。難なくクリアした。
次はマスククリア。マスクを外してそれをもう一度つけ直して、マスククリアをする。ちゃんと目を開けたまんまやることが重要だ。
これも順番にやっていって、俺の番に。ちゃんと水を全部出してクリアだ。
(残圧は?)
ハンドシグナルでそう尋ねられて、一人一人答えていく。
(150です。)
(150です。)
(140です。)
(160です。)
最後に俺が答えて、(向こうに行きます)とハンドシグナルで伝えられる。(OK)と返して後をついて行った。
しばらく泳いでいたら、1度深いところに潜って、そこでしばらく戯れる。そしてまた移動をして、岸に上がった。
「早っ!」