ぐらんぶるーに潜りたくて⑨
そのあともエアがなくなったときにする、レギュレータの交換やマスクなしスイミング、そしてマスククリアの全没をして昼休憩を挟むことになった。
「くはぁ〜!うめぇ!」
ただスポーツドリンクを飲んだだけ。それだけでこの反応ができるほどに疲れている。普段の水泳とはまた別のスポーツだからか、思った以上に身体には疲労が溜まっているようだ。
「午後からは海やんな?」
「やな。俺はちょっと心配やけど。」
少し心配そうにする雄之助。それもそのはず。雄之助はマスクが合わなくて、さっきのマスククリアも上手くいく時とそうじゃない時があった。そして、海でもマスククリアをする予定だ。その時に水が上手く抜けなかったらと思うと、心配にもなる。
「あと、まあ、先輩2人とがっつり水泳やってる奴やん。やから、1人だけ遅れそうで怖い。」
「あーね。」
先輩2人は優しいし、迷惑かけても絶対に怒らないとは思うけど、やはり迷惑をかけるのは少しだけ怖い。そして俺は水泳をやってきているから、水の中での体の動かし方を最低限わかっている。だからこそ、自分が遅れそうとか思うのだろう。…俺もだ。
「俺も怖いで。今まで色んなところで泳いできたし、海でも泳いできた。やけど、海の中は初めてやねん。そりゃ、俺も怖いに決まってる。でもな、それ以上に楽しみやねん。どんな世界が広がってるんかなとか、そんなこと思って、ワクワクしてんねん。」
こんなこと言うのは似合わないかもしれない。けど、これだけは言いたい。借り物の言葉でも。
「できるできないやない。やりたいかやりたくないかや。せっかくのダイビングやねんから、時間忘れて、頭空っぽにして楽しんだらええねん。なんかあったらイントラの人もおるし、バディーの俺もおる。安心しろ。」
これが俺に言える精一杯だ。正直、俺が助けることは無理やと思う。けど、これくらいの大口を叩くのはいいだろう。
「やな。楽しむことにするわ。試験とか何もかも忘れて。」
雄之助は安心したような顔つきに変わった。
俺たちは午後からの英気を養うために、持ってきた昼飯を食べる。まだ口の周りに残っている海水が混じったパンは、少し塩辛くて美味い。薬局で夕方に買った、半額のやつやけど。外効果もあって、倍の値段に思えるくらいには上手く感じた。