30:00①
6月も真ん中くらい。この時期になると多くなるのは中間試験だ。先生たちからしたら、学期末だけにしたら、もしかしたらコケるかもしれないからと救済措置みたいなイメージを抱いているみたいだが、高校時代の予備知識がない科目のテストは、はっきり言って地獄だ。
「寝ーへんの?」
「寝られへん。今のまんまやったら普通に単位落としかねん。」
日付もとっくの昔に変わった午前2時。トイレに行くために起きてきた桜に話しかけられる。桜は眠い目を擦りながら、7分目くらいまで水を注いだコップを持ちながら、俺の見ていふPCの画面と、手元に散らばっているルーズリーフに目を落とす。まるで殴り書きのように書かれたそれは、まとめノートの意味を成しているものと、本当にメモ書きのようなもの。
「限界やん。」
「そんなんとっくに知っとる。やけど、ホンマにこれくらいやらんと不可なるからな。」
目頭を押さえて、眠くなった目をもう一度覚醒させるように、軽めの刺激を与える。もう何回これをしてきただろうか。コーヒーの苦味もだんだんと分からなくなってきたし、あとは気力でこの後に待っているおかしくなってきた時間を待つだけだ。
「まあ、寝ーへんのは好きにしてくれたらいいけど、体調崩して、そんな久志の面倒みるのは私やからな。」
「分かってる。それはないようにする。」
ぶっきらぼうにそんな返事をすると、ため息を一つして寝室に戻って行った。
ちょっと流石に態度が悪かったなと後悔しつつ、今追いかけても機嫌を損ねるだけだと思ってまたPCに向き直った。
何時間が経っただろうか。もはや眠気とかも通り越して、体のだるさもどこかに飛んでいった。窓の外は少しずつ明るくなり始め、新たな1日の始まりを告げる鳥のさえずりが聞こえてくる。
「4時か…」
吐き捨てるように口から出た言葉にはなんの気力も宿っていない。さすがに頭がパンクしそうだ。1度休憩を挟もうと立ち上がって、冷蔵庫に何かないか見に行こうか。
「あっ」
冷蔵庫の扉を開けて中身を覗いてみたら、不自然に置かれたチョコレートが。たしか、これは桜が部屋で食べる用に買っていたものだ。きっと、こんな状況になるだろうと見越した桜が置いてくれたのだろう。
(ありがとう)
心の中でそう呟きながら、コーヒーの準備を始めて、口の中にチョコレートを入れた。ほんのりと甘いけど、少しビターな味は徹夜した俺を少しだけ慰めてくれているような気がした。