新しい顔ここに集う
4月7日。今日は入学式だ。
「久志、ネクタイ曲がってる!」
「マジ?ありがとう。」
お互いに新品のスーツで身を包み、もうすぐ家を出ようとしている。手元にはカバン。足元は俺は革靴、桜はパンプスと、入学式らしい服装になっている。
学校まで向かう手段はバスしかない。しかも、1時間に1本とかしかないので、逃したら大惨事だ。
「もうそろそろ出るか。」
「やな。変ちゃうよな?」
桜はその場でくるっと回って俺に見せてくる。少し茶色がかったセミロングの黒髪はハーフアップにまとめられていて、化粧もいつも通りのナチュラルメイク。スーツはしわ一つなく、びしっと決まっている。
「うん。いつも通り。」
「いつも通り…何?」
桜はいたずらする女児のような顔で、俺の顔を覗き込んでくる。
「それ言わなあかん?」
「言って欲しいなぁ…」
最近の桜はこういうところがある。まあ、今までは杏がいたからできなかったことを今しているんだろう。
「かわいいで。」
頬に熱が帯びていくのを感じる。世のカップルってこんなことしているのかと思うと、彼氏って大変だなと強く感じる。
「ほな行くか。忘れもんないな?」
「はーい!」
最後にキッチン兼廊下の電気を消してから、玄関のドアを開けた。
バスに揺られていると、RINEが1通飛んできた。杏からだ。
『今から入学式やんな?』
『桜さんのスーツの写真送って!』
『あ、バカ兄のはいらんからそこんとこよろ』
とんでもないペースでの3連投。てか、今の時間向こうは始業式やろ?怖いもの知らずめ。
あとなんやねん。俺の写真はいらんって。
「あいつ…」
「どしたん?」
「杏が写真送れってよ。」
「じゃあ一緒に撮ろ!」
「俺の写真はいらないんだと。」
「あー」
桜は納得したような顔をする。納得されるのは少し癪だが、まあそんなものなんだろう。
今日はそれよりも、どうやらテレビが入るらしい。恐竜学部が新設されて、初めての入学式ということで、うちの学校には注目が集まっている。
学校に着いたら、まず見えてくるのはフォトスポットと大量の人。そしてその列に声をかけているテレビ局の人とアメフト部の先輩だ。
「今からあれ並ぶん?嫌やねんけど。」
思わず桜がそう溢してしまうのも分かる。どこに行ってもやはりアメフト部というものは同じで、圧というか押しというか、とにかく強い。
「でも送る写真はあそこの前で撮るほうがぽいやろ。」
「まあそうか。そうやな。」
順番が回ってくるまで話しながら並び、アメフト部の先輩に写真を撮ってもらう。もちろん2人でだ。そしてその写真をちゃんと杏に送ってやった。