海を浴びて①
「おはよー。」
土曜日の朝の大学前。いつもなら人でごった返しているこの時間も、休みの日だからか、がらんとしている。いるのは、うちの学科の30人ほどだけ。
今日からはフィールド演習として、1泊2日で三方のほうに行く。そこでさまざまな体験をする予定だ。ただ唯一、天気がイマイチなことだけが不安なところだが。
「おはよう。これで俺の班は班長以外ぜんいん揃ったかな?」
班のメンバーが集まっているところに歩いていくと、よっさんが声をかけてくる。バスの運転手さんに荷物を渡して手持ちを全部なくした。
すると向こうからキャリーケースをコロコロと転がしてくる鳥羽ニキの姿が。
「旅行やんけ!」
「誰や旅行気分で来てんの。」
「入らなかったんだもん。」
笑いながらそう答えて運転手さんに荷物を預けている。しかも、持ってきた長靴は裸で手持ちだ。そんな姿に笑いながら時間を過ごし、班長の点呼が済んだらバスに乗っていく。
「あ、イヤホン下置いたまんまや。」
ポケットの中に手を突っ込むけど、いつもの丸い感覚がない。完全にやらかした。
「あーあ、残念。」
「バスん中でアニメ見ようと思ってたのに。」
三方までの約1時間がほぼ手持ち無沙汰になってしまった。無音でゲームに潜るか。喋るか。どっちかだな。
そう考えて、反対側のポケットに手を突っ込む。すると、少し分厚い革のケースの感触がない。
「財布も忘れた。」
「何も買えへんやん。」
南条のPAに止まる予定なのに、そこで何も買えない。いざとなったらカードだな。
バスの席に座り、自分の空間を作る。
「おはようございます。」
運転手さんからそんな声が。全員で『おはようございます』と返事をして、話を聞く。
「それじゃあ出発しまーす。」
そんな気の抜けた声とともにバスは南へ向かって走り始めた。